特典-経営判断・起業の心得1-起業家からよくある質問

起業家からよくある質問

● 起業前に確認すべきことは何ですか?

日本の教育制度では、個々人の得手不得手にかかわらず、人の能力を「平均的」に「まんべんなく」伸ばそうとします。ですから、小学校の成績は「オール5」が一番偉いとされています。
しかし、「オール5」型の「平均的によくできる」ことが、実際の人生や仕事において、成功や幸せを勝ち取るための必要十分条件なのでしょうか。

それぞれの分野で一流と呼ばれている人達は、学校の成績が良かったのでしょうか。
「その分野以外には何もできない」という人も、多いのではないでしょうか。
そう考えるとオール5の必要はありません。むしろ、平均点は人より下だけど、徹底的に好きで、かつ人より優れた科目が一つある、というくらいの方が良いのかもしれません。

こうした話は、成功した起業家や経営者にも当てはまります。
彼らだって、オール5の人生を歩んできた人ばかりではないでしょう。
しかし、少なくとも彼らは、自分の専門分野のれっきとした成功者です。
そんな成功した経営者に共通するもの、それは、「自分の本質に対する気づき」です

「自分の本質に対する気づき」とは何でしょうか?
もっとわかりやすく説明しましょう。
起業家が成功をつかむためには、絶え間ない「努力」と、失敗を恐れない「胆力」が必要です。
しかし、その結果得られるかもしれない「リターン」は、その起業家が努力と苦しみを継続し続ける「動機」としては不十分です。
このリターンはあくまで予測であって、対価として保証されるものではありません。
何度チャレンジしようが、失敗し続ける事だって珍しくありません。

ならば、どんな動機が必要なのでしょうか?

ひとことで言うなら「楽しい」という感情です。
結果はどうであれ、「それをやりたい」という欲求です。

リスクを覚悟して、自分の信じる事業にチャレンジすること自体を「楽しい」と感じているなら、その起業家はすでに「楽しさ」というリターンを得ていることになります。
その域まで達すれば、起業家は努力を惜しみません。惜しまないから、結果として、人よりも成功に近づきやすくなります。

起業において何より重要なのは、自分にとって「何が本当に楽しいと感じられること」なのか、「何をすることに対してならば命を賭けられるのか」ということに気づくことです。
それを自ら気づくこと無くして、起業に必要な不断の努力と、立ちはだかる壁を乗り越え続けるという作業はできないからです。
成功し続けている経営者は、自らの根本的な欲求に気づき、それを燃料にしてチャレンジし続けているのです。

まず、チャレンジなくして成功はありえません。
しかし、チャレンジの多くはリスクを伴います。
リスクを負ったからといって、成功の保証は何処にもありません。
しかし、チャレンジを重ねれば重ねるほど、成功の確率は高くなります。
あらゆる失敗とそこから得られた知識、それが成功への礎となるからです。
ですから、失敗を恐れてはいけません。失敗が無ければ絶対に成功はしないのです。

● どんな人材を集めれば良いのですか?

社員数の少ない起業家にとって、人材選びのミスは、会社の命運を分けることになります。
しかし、起業したばかりの会社は、知名度もなく、いつ潰れるか分からないというリスクを抱えています。
その上、高い給料を払えるワケではないので、ますます優秀な人材を集めることは困難になります。

人材選びのポイントとなるのは、「自分の会社の環境に合っているか」ということです。
確かに、能力のある人材であるにこしたことはありませんが、それよりも、自分の会社の環境でイキイキと働ける人材であるかどうかの方が大事です。

設立間もない会社には、経営資源として不足しているモノがたくさんあります。
そうした環境であっても、力が発揮でき、かつ同じ夢を追える人材かどうかが、採用のポイントとなります。
いくら優秀であっても、安定志向が抜けていないタイプであれば長続きしませんし、
環境が合わなければ持っている力の半分も出せない人間もいます。
俗に言う「宝の持ち腐れ」です。

そのためには、まず、自社の「仕事環境」自体の特徴を、明確に分析してみることが重要です。
人材が欲しいのであれば、ヒトを探す前に、まず、自社の経営資源、規模、そして自分自身の性格や、経営方針を冷静に考え直してみることです。
その上で、「どんな人材がうちの会社に合うか」を考えるべきです。

ここまで分析できたら、次は面接となります。
この面接で必ず守らなければならないのは、社長自身が、入社希望者一人一人と直接に話すということです。
会社環境から考え、自分の欲しい人材が具体的にイメージ出来ているのなら、そんなに迷うことはないはずです。
ここで具体的な「相手のイメージ」が持てないというのは、結局、自分自身の評価基準が定まっていないということです。
自分の評価基準が決まっていないのに、相手を選ぶことなど出来るわけがありません。

あらゆる角度から「自分の会社にほしい人材」をイメージし、そのイメージをより満たす人材がいるかどうか、という視点で面接するということです。

これができれば、人材採用について、大きなミスをすることは防げると思います。

● アイデアをどうやって事業化すれば良いのですか?

何か良いアイデアを思いついたとき、そのアイデアをどのように検証していけば良いのかという相談がよくあります。
ここでは、その場合の手順について、大まかな流れを説明します。

1.「そのアイデアが本当にカネになるのか」という点と、「本当に事業化できるのか」という点を冷静に考え直す。

2.自分がそのアイデアで起業したと仮定した場合、「どんな点を詰めなければならないのか」をシミュレーションする。

・事業化するのにどれくらいの資金が必要なのか?
・その資金はどうやって調達するのか?
・どんな顧客をターゲットにするのか?
・その顧客のいるマーケットの規模と成長性は?
・どんな社員をどうやって集めるのか?
・どんな会社と取引するのか?

こうした点を、より具体的にシミュレーションしていくのです。

3.こうして詰めていった具体的内容を、周りの信頼できる人間に説明し、意見を聞いてみる。

できれば、すでに起業している経営者や、経営知識のある専門家に聞くのが良いと思います。
そこで、自分の考えた事業化プランの穴を見つけてもらうことにより、いっそう具体的なイメージができるようになります。

4.他人の意見を聞いた上で、最初に立ち返り、自分のアイデアを再検討してみる。

これまでの作業で、自分が当初想定していなかった問題や弊害、また見方を変えることにより新たなセールスポイントが見えてきたはずです。
それに対する解決法を、書籍やインターネットを使って再検証して下さい。

こうして、自分で穴がないと確信できるまで、何度もこの作業を繰り返すことによって、単なるアイデアを具体的なビジネスへと昇華させていくのです。

この場合、注意することが2点あります。

まず一点は、アイデアの段階で、すぐに事業計画書を書かないこと。
思いついたアイデアをすぐ文章化すると、無意識のうちに、その文章に自分自身が縛られ、新しい情報や他人の意見が受け入れにくくなります。
だから、まずは自分のアイデアを頭の中で徹底的に検証し、具体的に事業のメドがついてから事業計画書は書くべきです。
その方が、よりリアルなビジネスに成長させることができます。

もう一点は、シミュレーションの段階で、その問題点を解決するために、実際自分が行動している姿を連想しながら検討するということです。
社員の採用であれば、実際に面接している姿を、資金調達であれば、銀行や投資家に事業内容を説明している姿を具体的に連想し、その細かなやり取りまでシュミレーションするということです。

なぜそんなことが必要なのか?

それは、起業家が会社を興して、事業化するまでの間は、「説明の連続」だからです。
投資家、銀行、取引先、社員、SOHO先、これらの相手に対し、自分の事業の将来性や事業内容などを「説明」し、納得してもらわなければなりません。
それが出来なければ、アイデアを事業化することは不可能です。

そのためのシミュレーションを、自分の言葉で、誰に何を聞かれても大丈夫なように、
前もって練習しておく必要があるのです。

● 事業計画書を作成する際のポイントは何ですか?

まず大前提として確認しておいてもらいたいのは、事業計画書を作ることは、
「目的」ではなく、起業を成功させるための「手段」に過ぎないということです。
これを履き違えると、見当はずれの事業計画書になってしまいますし、時間のムダです。
こういうと、「事業計画書なんか作らないで、さっさと起業したほうが良い」と考える人がいるかもしれませんが、こういうタイプの人は残念ながら後々苦労することになります。

なぜなら、事業計画書の作成の本当の目的は、「自分の事業の姿を自分自身に問い正す」ということだからです。
事業の文章化を進めると、あいまいな部分があぶりだされてきて、いかに自分の計画が稚拙なものであるかに驚くと思います。
その意味で、事業計画書の作成は、起業家にとって欠かすことのできない作業なのです。

事業計画書はいろいろ記入することがありますが、重要なのは2点のみです。
「事業の目的」と「事業成功の要素」です。
この二つをクリアできれば、ほかの必要項目は、それに則して書くことができます。

1.事業の目的

この「目的」で勘違いしてほしくないのは、「あなた個人の目的や夢でない」ということです。
ここに、「金持ちになりたい」とか「上場したい」などと、ピントはずれのことを書くようでは先が思いやられます。

あなたの事業をどんな手法で、どのマーケットに対して、何年以内に、どのような形にするのか。
そして、それによってどれくらいの利益が見込めるのかということを具体的に書いていくのです。

これらの点を数値化し、その数値をはじき出した具体的な根拠も必要とされます。

2.事業成功の要素

ここでは、商品の「優位性」や「差別化できる機能性」を書くことになりますが、その前に確認しなければならないことがあります。

あなたが売ろうとしている「商品」とは何なのか、ということです。
これは、直接消費者に提供する「商品」のことではなく、その商品を提供することにより、消費者が得ることのできる「機能性」のことです。
何度も言っているように、これをカン違いしては、見当はずれの事業計画書になってしまいます。

あなたの「商品」が確認できたら、その商品を具体化するために必要な項目を記入していきます。
「流通システム」「情報システム」「在庫管理」「顧客へのアプローチ」等、あなたのビジネスモデルを実現するために必要な手段を、より具体的に書き出すのです。

「事業の目的」と「成功の要素」を確認できたら、次は「マーケットの規模」です。
マーケットの規模によって、どの程度の資金が必要なのか、どれくらいの利益を上げることができるのかが決定されます。

それが「既存のマーケット」であれば、比較的算出しやすいと思います。
新聞や雑誌、書籍などを参考に情報を集め、数字を割り出せば良いだけです。

しかし、「新しいマーケット」である場合は、ちょっとしたコツが必要です。
新しいマーケットとは言っても、基本的に既存のマーケットの移行である場合がほとんどです。
それであるなら、既存のマーケットの規模を調べ、それをあなたの商品に移行した場合の成長数値をはじき出せばよいのです。

こうしてマーケットの規模を算出し、その市場占有率を、年ごとの成長率と共に具体的数値として落とし込んでいけばよいのです。

● なぜ事業計画書が必要なのですか?

起業に際し、事業計画書の作成を嫌がる方がたくさんいらっしゃいます。
数字自体が嫌いだという人もいれば、そんな絵に描いた餅のような計画書など作成してもムダだという人もいます。
確かに、事業計画書の「数字」自体は単なる予測に過ぎませんし、その通りになることなど滅多にありません。

「それじゃ、作る必要などないのでは」と思われるかもしれませんが、それでも絶対に作成しなければならないのが「事業計画書」です。

この点は、起業家にとって非常に大切なことなので、先ほどの記述と重なるかとは思いますが、再度述べてみることにします。

アイデアに過ぎないものを、ビジネスプランまでに引き上げるための作業が、「事業計画書」です。

あなたは、事業計画書というと、数字のたくさん並んだ難しそうな書類を連想して、二の足を踏んでしまうかもしれませんが、この作成は起業家にとって非常に重要なものです。
「事業計画書なんて面倒くさい。俺はさっさと事業を始めたいんだ」と反発する人は、
その時点で、起業を「手段」ではなく「目的」と勘違いしていることになります。

あなたは、事業計画書に並ぶ数字を連想して、「どうせやってみなければ分からないのだから、いくら緻密に計算したところで意味がないじゃないか」と考えていると思います。

結論から言うと、その通りです。
事業をすでに起こされている人はよく分かると思うのですが、計画通りに事が進むことなど滅多にありません。
ましてや、経営もやったことのない起業家の作る事業計画書など、絵に描いた餅以外の何物でもありません。

しかし、事業計画書の作成は絶対に必要です。

なぜなら、事業計画書の真の目的は、数字を予測することではないからです。
では、何が目的なのか?

それは、あなたがやろうとしている「事業の目的を確認する」ためです。

自分にとって、この起業はいったいどんな意味があるのか。
その根本的な目的が何であるのかを「自分に問いかける」作業なのです。

皆さんは「事業の目的」というと、「お金持ちになる」だとか、「社会に貢献する」だとかといったことを連想するかも知れません。
しかし、それは単なる「夢」であり、「個人の目的」を語っているに過ぎません。

そういうことではなく、もっと具体的に、どういう市場で、何年以内に、どれだけの市場を確保して、どれだけの利益を上げる会社を作るのかということです。

そう考えると、おそらく皆さんの筆は、ピタッっと止まってしまうのではないでしょうか。
当然、基礎知識も必要になりますし、業界特有の慣習も知らなければなりません。
もちろん、目的達成のための障害と、その対応策も考えなければなりません。

そこで初めて自分の無力さを思い知るはずです。
けれど、無力さを思い知るのであれば、シミュレーションの世界が最も安全です。

何の策も考えず起業したとしても、よほど運が良くない限り、失敗は目に見えています。
この段階で、徹底的に自分を鍛えるのです。

事業計画書を作成しては、なるべく具体的なアドバイスの出来る専門知識のある人に検証してもらいます。
これを何度も繰り返します。
そうすれば、自然と、経営者としての考え方が身についてきます。
この検証作業こそが、単なるアイデアを本当のビジネスへと昇華させる創造的な仕事なのです。

この時、注意すべき点が一つあります。
「アイデアの段階で、早期に事業計画書を書き始めない」ということです。
生まれたばかりのアイデアを文章や図面に落とし込むと、それ自体に自分自身が縛られ、新しい情報や考え方を反映できなくなるからです。

ですから、アイデアを徹底的に検証し、事業化のメドがつきそうだというところまで考え抜いてから、初めて事業計画書は書くべきです。

「何でもいいから起業したい」レベルの人が事業を始めても失敗は目に見えていますし、運良く生き残ったとしても、やっと食っていくだけの泣かず飛ばずの状態になると思います。

事業計画書の目的は、数字を並べることではなく、作成途中で、「自分のビジネスプランの穴に気付く」ということなのです。
それと同時に、そうした作業を繰り返す過程において、「自分が参入しようとしている市場の情報や知識が、知らず知らずのうちに身に付く」というメリットもあります。

ですから、起業家の方は、この作業を面倒くさがらず、何度も検証を繰り返す必要があるのです。

● プレゼンテーションでの注意点は何ですか?

いくら良い事業計画書を書いたとしても、それを相手に伝えることが出来なければ何もなりません。
相手は、はなから、あなたの事業に疑問を抱いているわけであり、その相手をプレゼンテーションによって納得させ、協力してもらわなければならないのです。
特に起業家は、アイデア以外の経営資源を持ち合わせていませんから、このプレゼンが死活問題となってきます。

プレゼンするにあたって、最初に注意する点は、「誰に対してプレゼンするのか」ということです。
相手によって、興味をそそる点は違うわけですから、それに合わせて事業計画書をカスタマイズしなければなりません。

このカスタマイズ作業で気をつける点は、事業計画書の冒頭に、相手にとって最も魅力的と思えるプロフィットを書くことです。
そして、それを実現するために、相手に求めるこちらのニーズを、具体的に書き記すことです。

こうすることによって、相手は、「自分が何をすることによって、どれくらいの見返りがあるのか」を一目で読み取ることができます。
この時点で、あなたの求める要求が、相手にとって荷の重いものであったならば、また見返りが少なすぎるものであったならば、話は終わりです。
しかし、これは、お互いの時間を無駄にすることなく、効率的にプレゼンを行うための必須条件です。

次に、実際のプレゼンの場においての注意点を述べてみます。

プレゼンの成功は、「自分という人間」と「事業アイデア」について、興味を持ってもらえるかどうかにかかっています。
この二つについて、いかに魅力的に話すことができるかがすべてです。

そのためにはどうするか?

プレゼンの最初の一言から、相手先のメリットを強調すること。
その後、それを実現するのに不足している経営資源を、具体的に相手に要求することです。

残念ながら、ほとんどの起業家は、これができません。
特に、大企業にいた人や、少しばかりの専門知識のある人に、この傾向が見られます。
自分のアイデアの正当性や市場の動向を、難しい専門用語を使って、「成功しないはずがない」という勢いでまくし立てます。

どうせ、起業家の売りは「人間性」と「事業アイデア」しかないのですから、マーケットの特徴や、そのアイデアが、友人にどんな評価を受けたとかいう話はどうでもいいのです。
あげくの果てに、焦点のボケたプレゼンをごまかすために、ノートパソコンを取り出し、カラフルなチャート図を見せて、こちらの気を引こうとします。

そんな時間があるなら、自分の言葉で、自らの「人間性」と「事業アイデア」を精一杯アピールすべきです。
先方は、これからあなたという「人間」と「事業」を信じて協力しようというのです。
その点が、信頼に足るものだと伝わらない限り、決して力を貸そうなどとは思いません。
自分が得ようとしているものは何なのか、相手に何を期待しているのかを、自分の人格が相手に伝わるようにプレゼンしなければ、誰もあなたとは手を組みたいとは思わないのです。

ここまで上手くいって、「自分」と「事業アイデア」に興味を持ってもらえたら、次は、
いかにアピールするかです。

あなたは、初めてプレゼンするのかもしれませんが、相手は、あなたのような人はクサるほど見てきているのです。
よほど印象に残る内容でない限り、目に止まることはありません。

たった一回のプレゼンで確実に記憶してもらうには、相手が「あなたと手を組むことによって何の得があるのか」ということにポイントを絞って話すことです。
自分で自信のあるアイデアであればあるほど、ビジネスモデルの一部始終を話したくなるのが人情ですが、相手が聞きたいのは、「自分がどれだけ得をするのか」ということのみです。

あなたのビジネスに興味がわけば、自分からダラダラ説明しなくても、先方からいろいろな質問が出てくるはずです。
そうなれば、相手の興味に合わせながら、事業の全体像を説明していけば良いのです。
逆に言えば、そういう流れにならなければ、そのプレゼンは失敗だということです。

人間は誰でも、自分の利益が一番なのです。
そのことを忘れないでください。

これは蛇足ですが、覚えておいて欲しいことがあります。
それは、投資家は、「直接アポを取ってくる起業家に好感を持つ」ということです。

誰かのコネを利用してアポを取るような行為は、投資家から見れば、他人に依存しがちな性格であると評価され、その時点で、経営者としての資質に欠けていると見なされます。
自分から積極的に声をかけ、無視されようが、断られようが、へこたれることなく行動する人間を評価します。
彼らは、そういう人間が、起業家に向いていることを知っているからです。

● リスクをとるということは、どういうことですか?

なぜ起業家は大きなリスクを承知で起業するのでしょうか。
そもそも「リスク」とは何なのでしょうか。

リスクには大きく分けて2種類あります。
「リスクを取るリスク」と「リスクを回避し続けてチャンスを失うリスク」です。

ある会社が、事実上独占的な市場占有率を確保し、順調に業績を伸ばしていたとしましょう。
この会社の経営者は、市場占有率を維持するために、新しい技術を取り入れた新商品を開発し、マーケットに投入しようとします。
しかし、その新しい技術が、それまでのこの企業のビジネスを根底から覆す革新的な技術だったとします。
その場合、保守的な経営者であれば、もしかしたらその技術の採用を見送るかもしれません。
なぜなら、新しい技術を採用すれば、それまで利益を生んでいたシステムを変更することになるため、非常にリスクが高いからです。
ここで、新技術の採用を見送るという経営判断は、システムの変更を強いられるという「リスク」に対する「リスクヘッジ」となるのです。
これが、「リスクを取るリスク」です。

これほど規模が大きくなくても、経営の上では、これに良く似た判断を迫られることは多々あります。
そして、その判断が、その後の事業展開に大きく影響を及ぼすことになります。
現在のように情報通信が発達した時代には、メディアからあらゆる商品情報が提供され、それぞれのマーケティング手法も手伝って、消費者動向はめまぐるしく変化します。
常に、変化の最前線にいることと、その変化に対する決断が、会社の生死を左右するのです。
その変化に乗り遅れることが、「リスクを回避し続けてチャンスを失うリスク」です。

目の前のリスクを回避することが、将来、もっと大きなリスクを生むことになるかもしれないのです。
逆に言えば、目の前のリスクを取るということは、将来、市場を一気に寡占し、巨額な売上と利益を得る可能性もあるのです。

これが、起業という、一見無謀な博打のように見える「リスクを取る経営」を行う、合理的理由です。
つまり、「打って出るのはリスキーだが、打って出なければ永遠に勝利は無い」ということなのです。

経営者であるなら、「会社にとってリスクとはいったい何か」を、常に自らに問い続けなければならないのです。

● 起業家の資金調達は、どうすべきですか?

資金調達には大きく分けて、「融資」と「投資」があります。

「融資」というのは、銀行から貸し出されたお金であるため、返すことが前提となります。
つまり、貸す側からすれば、融資先は、博打度の高いハイリスク・ハイリターン企業であってはならないのです。
融資の場合、銀行にキャピタルゲインが入るわけでもなく、入るのは貸出金利のみです。
ハイリスクを取ったところで、金利に変化があるわけではないので、ハイリスクを取る意味が無いのです。

そのため、銀行は、今は不安定でも将来大化けする可能性のある先端的企業よりも、地味でも安定的に収益を確保できるような企業を、優先的に融資先として選択します。
これは、銀行に長年いた私が言うのですから、間違いの無い事実です。

では、「投資」の場合はどうでしょうか?
起業家が調達した資金が「投資」でしたら、少なくとも「融資」のときのように、債務を背負うことはありません。
キャピタルゲインを狙う投資家にとって、起業家の成功は、すなわち自分の利益に?がります。
ということは、投資家と起業家の目的意識は、基本的に同じ方向を向くことになります。
投資家は、ハイリスク・ハイリターンの経営方針を提示することはもとより、起業家がより経営しやすいよう、さまざまなサポートをします。
取引先や人材を紹介したり、足りない資金を補うための方法を考えたり、競合企業の情報を提供したりします。

銀行であれば、起業家が短期間に大成功しようが、鳴かず飛ばずだろうが、得られる収入に変化はありません。
ですから、当然、銀行が起業家に行うサポートも、投資家のそれと比べれば、ずいぶんおざなりなものになりがちです。

そのうえ、銀行は、起業家の大胆な事業計画には反対しがちです。
銀行にとっての最大のリスクは、融資先が潰れることですから、勝手にリスクを取られて、潰れたらたまらないという判断です。
結果、起業家は、投資の場合と比べて、自らのチャレンジに多くの抑制をかけられることになります。

こうして見ると、起業家にとって「投資」の方が、「融資」より都合が良いと考えられます。

私の場合も、スタート資金は、友人からの「投資」で調達しました。
当初、投資を約束してくれた人が土壇場でNGを出したため、やむを得ず、友人達に打診したのです。
捨てる神あれば拾う神ありで、全部で2,000万円もの出資金を集めることが出来ました。
今でも、あのときの感謝の念は忘れられません。
彼らの感謝に答えるためにも、「一日でも早くこのお金を返したい」という思いが、起業当時の私の心の支えとなりました。
もし、仮に、あのときのお金を銀行から調達していたとすれば、毎月の返済を履行している限りは責任を果たしているわけですから、あれほどの「短期間で成功しなければならない」という執念にも似た気持ちを持つことは出来なかったでしょうし、現在のような環境にいられることはなかったと断言できます。

このように書くと、「融資」は、「投資」に比べてマイナス面ばかりが強調されますが、そうとも言い切れません。

例えば、成長率は低くてもほぼ確実に成長が見込まれる事業の場合がそうです。
新規参入もほとんど無く、その代わり市場拡大もそんなには見込めないとなると、「投資」による資金調達は現実的ではありません。
投資家サイトも、損失の可能性は低い代わりに、キャピタルゲインも大して見込めないと判断するからです。
こうしたケースでは、銀行での「融資」に頼る方が無難と言えるでしょう。

また、「融資」による資金は、そのすべてを返済してしまえば、基本的に銀行との付き合いは、自分の判断で続けることもやめることもできます。
しかし、「投資」の場合は、会社の一部の所有権を投資家に譲渡しているわけですから、彼ら投資家の意向を無視して、経営者の判断によって関係を切るわけには行かないのです。

投資家にもよりますが、実際、投資した企業がうまく機能しなかったときのために、そのリスクヘッジを、起業家に分からないように、前もって契約書に盛り込んでいるケースも少なくないのです。
起業家のように、ビジネス慣れしていないケースでは、資金を調達したいあまり、投資家のこうした策略にまんまと騙されるケースもあります。

いずれにせよ、起業したばかりの会社にとって、その資金源が「投資」によるものか 「融資」によるものかで、経営手法や方針が大きく変わる可能性があるということを認識しておいて下さい。

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