● お金が目的で起業するなら止めた方がいい
「お金持ちになりたい」という夢を求めて起業を志す人は多い。
しかし、私の経験から言わせてもらえば、そうした理由だけで起業するのは止めた方がいいと思います。
単純に金儲けをしたいのなら、リスクと成功率から判断して、サラリーマンの方が、はるかに可能性が高いからです。
仮に、苦労の末にある程度のお金を手にしたとしても、世界有数の高い税金を支払わなければなりません。
また、経営者になれば分かると思いますが、経営責任や雇用責任、社会責任と責任ばかりが重く、自由を求めて独立しても、待っているのは不自由です。
確かに上場でもすれば億単位の資産は築けるかもしれません。
しかし、人間、実際に使えるのはせいぜい年間3,000万円程度です。
年間1億使おうと思うと、1日30万円使わなければなりません。
そんな生活をしていると、1年もしないうちに体を壊してしまいます。
寿命を考えれば、たとえ100億円持っていても、それは単なる数字に過ぎないのです。
日本の社長の平均年収は2,800万円くらいだといわれています。
それであれば、苦労してリスクの高い、失敗すれば再起不能になるかもしれない起業家を目指すよりは、サラリーマンになって出世を目指したほうが、損得で考えれば、はるかに得だと思います。
お金を儲けて人がうらやむようなモノを手に入れたい、という理由で起業したとしても、大半の人は挫折してしまいます。
当たり前のことですが、起業してすぐにお金が儲かることは滅多にありません。
いろんな問題にぶつかるたびに、自分の無力さを知ることになります。
「お金持ち」という相対的な概念は、困難にぶつかると簡単に規模縮小してしまうものです。
お城のような家に住みたいと思っても、それが自分にとって絶対的価値でない限り、経営のつらさの前で、いとも簡単に小さなマンションにスケールダウンしてしまうものなのです。
夢をかなえるためには、企業といえる規模で事業を展開しなければなりませんが、その重圧たるや想像を絶するものがあります。
経営者としての職務を全うしながら、儲けたお金を自由気ままに使って人生を謳歌する、というサクセスストーリーはおとぎ話でしかありません。
確かに、仕事をリタイアして悠々自適の人生を歩んでいる超大金持ちは存在します。
しかし、彼らは、それに見合うだけの重圧に耐え続けてきたからこそ、いまの自由を手に入れているのです。
決して、一足飛びに自由を手にしたわけではありません。
あなたが、どんな重圧にも屈することのない強靭な精神力を持っていると自信を持っていえるのならともかく、起業目的を「お金持ちになってのんびりとした余生を送る」と考えているのなら、それは考え直したほうがいいと思います。
事業がうまくいけばいくほど、経営責任の重圧は計り知れないものになり、それに比例して自分の時間など持てなくなります。
残念ですが、それが経営の現実というものです。
● なぜあなたは起業したいのか?
起業を志す動機は、人によって様々です。
お金が欲しい、自分の力が発揮できないなど、様々です。
しかし、高収入を得たいのなら、わざわざリスクの高い起業のなど選ばなくても、サラリーマンとして出世を目指したほうが、現実的で可能性も高いでしょう。
また、力が発揮できないといっても、会社により人間関係は異なりますから、まず転職を考えるべきだと思います。
本気で起業をめざすのであれば、まずその気持ちを自らに問いかけるべきです。
心の底からの欲求として、自分の持つ能力のビジネスの世界で試したいと思っているのかどうか。
言い換えれば、あなたという人間の自己存在の確認、これを夢という表現を使うとすれば、その夢に対する思いを継続することが出来るかどうか。
起業というと、イコールお金儲けと考えがちですが、この2つは全く関係ありません。
お金は、夢の実現の過程で結果的に手に入れることもあるという程度に過ぎません。
起業は、宝くじを買うこととは全く意味が違うのです。
経営者は孤独です。特に創業時は誰も助けてくれません。
毎日が問題発生の連続です。悪戦苦闘の毎日で、成功など安易に見えてきません。
事業は真面目にやっていればゴールに近づいていく、という単純なものではありません。
正しいのか間違っているのか、下っているのか上っているのか、進む方向は正しいのかどうか、ゴールが近いのか遠いのか、自分では全く分からないという世界です。
カンだけを頼りに夢中であがき続けるというのが、起業家の実態です。
事業はあなたが想像している以上に厳しく、「やりがい」などという生ぬるい気持ち以上につらい局面の連続です。
その時、くじけそうになる自分を支えてくれるのは、起業にかける自らの「思い」だけです。
その「思い」を持続することができるのかどうか、が起業の成否を左右するのです。
苦難に耐えられるだけの「思い」がなければ、「心がもたない」のです。
これは簡単なことを言っているようですが、最大にして唯一の成功ノウハウです。
起業を志す人は、このことを相当真剣に自分に問いかけ、確認をしてもらいたいし、どうか忘れないで頂きたいと思います。
● 出資者の目から見た出資判断のポイントとは?
自己資金が不足している場合は、出資を仰ぐ必要がありますが、実績のない者が創業するケースと、すでに事業をやっている者が事業拡張を行うケースでは、出資者の判断ポイントに違いがあることを知っておかなければなりません。
1.実績のない者の起業の場合
出資者は、あなたの経営能力を判断しようにも、実績がないため、判断のしようがありませんし、そんなものは最初から期待していません。
それ以外のコミュニケーション能力や判断能力、倫理観などの総合的な人間力を見ようとします。
当然、そうなると、出資者と交流がある方が日頃の行動や考え方を知っているわけですから、出資者との人間関係が重要になります。
それに加えて、いかに魂のこもった説明を相手に出来るか、が成否の分かれ目になります
事業計画書の中身は判断材料になりません。
出資者が見たいのは、経営をやったことのない者がつくった、絵に描いた餅の計画書の完成度よりも、「コイツなら何かやりそうだ」という期待感です。
単なる金儲けではなく、事業内容そのものに本人の志があり、熱い情熱が伝わるかどうかです。
出資者はたいていの場合、それなりの苦労をした経営者や友人知人のケースが多いでしょうから、人間関係と、あなたの情熱の総量で出資の是非が決まることになります。
2.事業をやっている者の、新事業や事業拡大の場合
こうしたケースでは、いくら情熱があっても事業計画書の内容が悪ければ、その時点で出資はしてもらえません。
圧倒的に事業計画書の内容が重要になります。
数字の整合性や倫理性、とりわけリスクやその対応策をどのくらい徹底的に検証しているかがチェックされます。
この部分に不備があれば、即座に不合格となります。
どちらのケースにも共通していることは、もし出資を断られたなら、その事業計画はもう一度見直したほうが良いということです。
出資を依頼するほどの人間関係があるにもかかわらず、相手が断ったということは、義理人情では超えられない大きな欠点があるということです。
それが事業計画書にあるのか、あなた自身の人間性にあるのかは分かりませんが、いずれにせよ、あなたの力不足だということです。
すぐに、計画の再点検を行う必要性があると思います。
● 起業する前に絶対確認してほしい心構えとは
あなたは、アイデアがあって資金があり、情熱があれば事業は出来ると思っていないでしょうか。
確かにそれらは起業に必要なものですが、それとは別にもう一つ、前提条件ともいうべき絶対に必要になるものがあります。
それは「覚悟」です。
ビジネスの世界は、競争であり、勝つことが絶対条件です。
相手も必死ですから、こちらもそれ以上に必死でなければ勝てません。
この必死さは、あなたの能力、経営資源、情熱のすべてを賭けて戦うという必死さであり、サラリーマンとして働くこととは質量ともに全くの別物です。
また、経営者は相当なリスクを背負うことになります。
銀行で借入を行えば、個人保証をしなければなりませんし、会社が倒産すれば、その負債は経営者が背負うことになります。
中小企業の倒産は、上場企業のように粛々と行われることなど滅多にありません。
債権者や取引先、従業員も巻き込みながら、ドロドロの修羅場となります。
だから、起業には「覚悟」が要求されるのです。
事業をするということは、会社の不都合はすべて、経営者であるあなたにのしかかってくるということです。
誰も助けてはくれません。
そういう覚悟を前提に、事業は成り立っているのです。
● 起業直後に注意すべき心構えとは?
起業してしまったなら、後は脇目も振らず、必死でやるしかない。
リスクも分かった上で起業したのだから、これは当然のことですが、そこで注意してもらいたいことがあります。
それは、事業は長期戦だということです。
覚悟を決め、闘志満々でスタートするのがいいが、スタミナ配分を間違えてはいけません。
意気込みに燃えている人ほど途中で燃え尽きてしまうものです。
どんな人でも最初は気合を入れて一生懸命頑張ります。
ところが、そのうちに自分一人に負荷がかかり始め、スタッフとの動きに差がついてきます。
イライラを感じ始めたら危険信号です。
本人は一生懸命やっているつもりでも、実際は惰性になっていることが多いのです。
そうすると、経営者に最も必要な判断力や方向感覚が失われ、どんどん間違った方向に突っ走ってしまいます。
周りの人間は誰もあなたに力を貸そうとはしませんし、ますます孤立してしまい、最後には倒産です。
起業したばかりのときは死んだ気になって頑張ろうと考えるでしょうが、現実には、死んだ気にならなければならない状況は、もう少し経ってからやってきます。
そのときにスタミナ切れになっていると、そこでお終いです。
余力を持った必死さが必要だということを覚えておいてください。
このように言うと、「じゃあ長い目で事業を考え、ペースを落とすべきだ」と短絡的に考える人がいるかもしれませんが、そういう意味ではありません。
私の言う「急ぐな」には「でも急げよ」という意味が含まれており、「焦るな」には「でも焦れよ」という意味が含まれています。
「自分を甘やかさない程度に本気で走れ」という意味です。
自分が努力した分だけすぐに成果が出れば、モチベーションが下がることはありません。
しかし、現実には、すぐに成果がついてくるなんてことは滅多にありません。
努力のわりに結果が出ないことがほとんどですし、やっと少しは結果が出たとしてもずいぶん経ってからです。
やったらやっただけ結果がすぐに出るというのは、学校の勉強やバイトくらいです。
経営の世界は、そんなに甘いものではありません。
まだ100メートルしか走っていないようなヤツが「モチベーションが下がった」とか「努力の甲斐がない」とか、人生を悟ったようなことを簡単に口にしていいわけがありません。
性急に結論を出したがるクセを無くして下さい。
アマチュアの頃の燃費の良さなど、プロのビジネスの世界では何の役にも立ちません。
燃費の良さに自信のある人も多いと思います。私自身がそうでしたから、気持ちはよく分かります。
しかし、これからは、経験したことのない長距離レースです。
もっと長い距離を本気で走り続けないと、プロのレースがどんなものか知ることは出来ません。
よく人生はマラソンにたとえられます。
ゆっくりと着実に走りましょうという意味ですが、ビジネスの世界において、これは間違いです。
短い距離を走れる人が、そのトップスピードをどれだけ長く維持できるようになるか。
これが勝負の分かれ目です。
あくまでもトップスピードを繰り返す、そして、そのスピードを保てる距離を少しずつ延ばしていく。
燃費を気にして、本気で走らない人は経営者に向きません。
一切の妥協をせず、自分をトコトンまで追い込むこと。
それを実行できるかどうかが、ビジネスの世界で生き残るための秘訣です。
● これを知らなければ失敗する。起業家必須の発想法とは?
多くの人は起業するからには儲けたいと思い、そのことに一生懸命になります。
それ自体は間違っているとは思いませんが、全てを自分中心に発想し、自分の利益を最優先に考えようとします。
ビジネスである以上、利益ありきですから、それも当然のことと思われます。
しかし、そう考えている限り、どんなに必死でアイデアをひねり出したとしても、決して儲かりません。
発想の立脚点を、自分ではなく相手にしなければダメなのです。
つまり、主語を「自分」ではなく、「相手」に置いて発想しろということです。
ここでいう「相手」とは、取引先やお客さん、従業員のことです。
あなたの周りに、儲けたいと考えている人は大勢いるかもしれませんが、あなたを儲けさせたいと思う人は一人もいません。
あなたから儲けたいとは思っても、「あなたを儲けさせたい」などと考える人はこれっぽっちもいないのです。
しかし、「自分を儲けさせてくれるなら、お返しにあなたを儲けさせてあげてもいい」と考える人はたくさんいます。
最初に自分のメリットを与えてもらった後からなら、相手にお返しをすることは納得できるのです。
だからまずは、相手を儲けさせなくてはなりません。
主語を自分ではなく、相手に置け、というのはこういう意味なのです。
ところが、起業したばかりの頃は、ほとんどの起業家は自分のことを先に考え、相手のことを考える余裕がありません。
だから、打つ手打つ手がうまくいかず、途方に暮れてしまうのです。
さて、ここで問題になるのは、「先に相手に何を与えるか」です。
これを考えなければ、あなたのビジネスの軸となる部分が見えてきません。
取引先に対しては、安定取引なのか、スポットの大量仕入れなのか、敏速な対応なのか、短いサイトの支払いなのか、現金決済なのか。
お客さんに対しては、安い価格なのか、希少価値なのか、アフターサービスなのか、買い物の楽しさなのか。
特に注意しなければならないのは、従業員に対してです。
起業家はほとんどの場合、これまで従業員の立場だっただけに、社員に対し、「働いたら金をやる」という姿勢を取りがちです。
これは逆です。
「金をやるから働いてくれ」という姿勢で臨まなくては、この先どうなるか分からない小さな会社で、気分良く働いてくれるわけがありません。
まず相手に与えるメリットを考えて下さい。
相手の立場になって考えることが、ニーズの発見になり、需要の掘り起しにもなるのです。
相手のことは、自分を主語にしている限りは絶対に分かりません。
発想の立脚点を「相手」に置いて考えるということは、経営者の基本中の基本であると同時に、最も大切なことです。
● いいものイコール売れるものと考えるな
「いいモノが売れる」のが市場の大原則であることは間違いありません。
しかし、そうとも限らないのがマーケットの難しさでもあるのです。
売る側がこれはいいと自信を持っているものほど、つまずきやすいものです。
特に、技術者や開発者が起業した場合に陥りやすいワナです。
作る側の思い入れが強すぎて、使う側の視点を見失いがちだからです。
商品の品質やデザインがいかに優れていても、実際には売れないものはたくさんあります。
「いい」モノと「売れる」モノとの間には、大きな距離があるのです。
確かに、「いい」ことが、売れるための第一の必要条件であるのは間違いありません。
しかし、それは十分条件ではないのです。
この、「いい」と「売れる」の差に注意しなければなりません。
その差は、価格や流行、お客の好みやイメージであったりします。
けれど、突き詰めれば、その理由は「売る側が満足するモノは、お客も満足するはずだ」という勝手な思い込みから発想するものであり、経営者の慢心に起因するものです。
「いいものが必ずしも売れるわけではない」というのは、作る側にとっては厳しい現実だと思います。当然、失敗もするでしょう。
しかし、絶対にしてはいけないのは、売れない原因をお客さんや、市場環境に責任転嫁してしまうことです。
「不況だから売れない」「お客のサイフのヒモが固いからダメだ」と、ついつい売れない原因を外部環境のせいにしてしまいがちです。
本当にそうであるなら、不況期には何一つモノが売れないということになってしまいます。
そんなことはないはずです。
どんな理由があるにせよ、失敗の原因を外部のせいにしてはいけません。
経営者であるなら、「失敗の原因は全て自分にある」と考えるクセをつけない限り、
あなたの会社が成功することは絶対にありません。
● 業績が下降した場合はどうするか
会社の業績が下がる原因は、大きく分けて3つあります。
まず、どの原因によるものかを解明し、その対応策を練ることが大切です。
1.ビジネスモデル自体が社会のニーズに合致しなくなった
この場合は、業績が長期にかけて右肩下がりの下降線を描いています。
テナント依存の箱貸し商法のデパートなどがいい例です。
こうしたケースでは、少し改善したくらいで、どうなるというレベルではありません。
新たなビジネスモデルの創造が必要になります。
2.外部環境の急変により業績が悪化した
半導体のように新たな研究開発が行われ、商品自体の需要が減少した場合です。
このケースでは、一時的に業績が悪化しますが、外部環境次第では復活の可能性もあります。
また、不祥事や事故が原因の場合は、ビジネスモデルに問題があるわけではありませんので、運営や管理面を強化することにより、回復を図ることが出来ます。
3.なぜだか分からないが業績が下がっている
一番多いケースがこれです。
上述のような原因であればハッキリしていますので、経営者であれば当然その対策を講じているはずです。
原因が分からないうちに、いつの間にかジリ貧になっているという場合が多いと思います。
事業がジリ貧になるということは、あなたのビジネスが取引先やお客さんから必要とされていない、ということです。
したがって原因の解明は、「なぜ必要とされてないのか」を考えることです。
ここで間違ってはいけないのは、経営指南本や景気動向の本をいくら読んでも、そこには答えはないということです。
そんなことに時間を削っても徒労に終わるだけです。
ここであなたがやるべきことは、ただ一つ。
相手の立場で、自分のビジネスを考えてみることです。
相手の立場で考えてみることで、なぜ自分を必要としていないのかが見えてきます。
小売店だとすると、近くにライバル店がある等、いろいろな原因が見えてくるはずです。
そうすれば、改善点は、品揃えなのか、価格なのか、接客なのか。
陳列なのか、雰囲気なのか、マーケティングなのかが分かるはずです。
ここで注意しなければならないことが一つあります。
それは、あなたの現状から考えて、1点だけ改善するということです。
考えれば考えるほどたくさんの原因が頭に浮かんでくるとは思いますが、その中で一つだけ改善するという姿勢で考えてください。
それがあなたの経営判断能力を磨くことになりますし、現実問題として、そんなにたくさんの対応策を講じるほどの力量もないと思います。
無理して手を広げすぎると、ロクな結果にはならないのです。
経営指南本には、「物事は多角的に見る」と書いてありますが、打開策を講じるという点では、それは机上の空論です。
現実には、そんなに多くは考えられません。
相手の立場で考えてみるだけで十分です。
● 一生懸命頑張れば起業で成功するというウソ
「一つのことを一生懸命やれば報われる」というのは、よく聞く言葉ですが、経営者として考えた場合、これほど危険な考え方はないと感じることがあります。
なぜなら、一つのことにこだわりすぎると、単なる意固地になるケースが多いからです。
例えば、小売店を真面目に、汗水流して経営しているとします。
けれど、外部環境から冷静に判断して、その地域の消費人口が減少している場合、いくら経営者が頑張ってみたところで効果が現れるとは思えません。
つまり、問題が違うのです。
お客がいる前提と、そうでない前提とでは、対応策が全く違います。
そこを間違えて、店を改造し、品揃えを増やし、一生懸命取り組んでも成果は上がりません。借金が増えるだけです。
この場合は、ビジネスモデルを変えるとか、移転するとかの対応が必要になるのであって、意地でも同じ場所で同じ事をするようでは、経営者としては失格と言わざるを得ません。
事業は、同じ経営方法をやり続けることに価値があるのではなく、お客さんに良いモノを提供し、利益を上げていくことに意味があるのです。
ほとんどの起業家はサラリーマンを経験しているでしょうが、彼らにとって、「一生懸命」は美徳です。
仕事には正解(具体的な到達点)があるから、それに向かって頑張れば、徐々に目標に近づいている自分を確認することが出来ます。
営業でも、成績の良い人のマネをすれば、それなりの結果も付いてきます。
サラリーマンの仕事とは、出題があり正解があって、その正解に行き着くまでのプロセスを工夫する能力が必要とされるのです。
しかし、経営の世界はそうではありません。
問題自体を自ら提起して、正解があるかどうか分からないということに、より確率が高いと判断した方法を選んで取り組んでいくのが経営です。
これは、試験勉強のように解答のコツを掴んだり、一生懸命一つのことに集中できるといった能力とは、全く違う能力を必要とします。
学校の成績優秀者やエリートサラリーマンが、必ずしも経営者として成功しないのは、こうした理由によるものです。
起業家は、自分の夢や本当の目標を第一に考え、お客のニーズに合わないと感じたり、儲からないと思えば、躊躇することなく切り捨てなくてはなりません。
せっかく苦労して築いたものでも、さっさと破棄して新しい業態を作り出すくらいの「したたかさ」が要求されるのです。
自己実現への強烈な意欲としたたかさ。
この2つの相反する資質を頭の中に同居させ、自分の意思でコントロールできなければ経営者としては失格です。
ただ単純に、「一生懸命やれば報われる」という世界ではないのです。
● あなたは努力と情熱があれば起業できると思っていないか?
これから述べることは、起業を志す人に冷水を浴びせるようで気が引けるのですが、
これも愛情の一つとして受け止め、真摯な気持ちで聞いて頂ければと思います。
起業家の人達は、懸命の努力と情熱さえあれば成功するかのように洗脳されているかもしれませんが、それだけでは決して成功しません。
起業する人のほとんどは、人一倍努力もするし、根性もあります。
けれど、最後まで生き残る人はごくわずかです。
努力や根性だけで成功するようなら、世の中成功者だらけになっています。
ある一定レベルになると、努力や情熱以上に力を発揮するのは、やはり「才能」です。
スポーツと同様、プロの世界で認められるためには「才能」がものをいいます。
才能のない人はいくら真面目に努力しても、事業というようなレベルには達しないのです。
もちろん、努力や情熱は必要ですが、そんなものは当たり前の話で、当たり前のことで成功するならビジネスに競争など起こりません。
当たり前以上のレベルで戦っているのが、ビジネスの世界なのです。
食っていける程度の商売なら可能かも知れませんが、プロレベルのビジネスには到達できません。
経営の最前線では、毎日のごとく問題が発生し、そのほとんどが予想外のものであり、
それを永遠に解決し続ける判断能力が必要とされるのです。
冷静に考えればお分かりいただけると思いますが、そうした才能は、努力や情熱を超えたところにあります。
ここでいう「才能」とは、ある種の「方向感覚」や「直観力」といったもので、努力で多少身に付くことはあっても、大部分は持って生まれたDNAとしか言いようがないものです。
経営は、正解のない問題に対していかに誤りの少ない解答を導くか、より誤りの少ないほうが勝ち、という世界です。
最後はカンに頼るしかありません。
いくら真面目に努力しても、根性があっても、ここは超えられません。
ただし、自分にその才能があるかどうかを見分ける方法はあります。
プロで通用する方向感覚やカンは、基本なセンスにプラスして、自分の経験から来る学習効果から成り立っています。
つまり、この学習効果のある人が、「カンがいい」ということになります。
じゃあ経験を積めばいいのかと思うかもしれませんが、経験と学習効果は違います。
経験は単なる経験であって、その経験が「血となり肉となっているか」が問題なのです。
それが出来るかどうかが、生まれ持った「才能」であり、いくら言ってもダメな人はダメなのです。
あなたの過去を振り返ってみて下さい。
修羅場といえるような経験をしたことがありますか。
もしなかったとしても、すべてのしがらみや未練を捨て去って、何か一つの選択肢を選んだことがありますか。
これを「決断力」と言いますが、決断とは、非常事態における究極の意思決定のことです。
苦し紛れの「ヤマカン」や「捨て身の玉砕」とは異質のものです。
これらは、状況に流されて思考が停止した「状態」に過ぎません。
それに対して「決断」とは、状況を見極めたうえで、明確な計算と意志の力を持って、
迷いやしがらみの一切を「切る」という「行動」です
これが本当の意味での「行動」です。
厳しい言い方をすれば、これ以外の行為は、単なる「状態」に過ぎません。
起業家としての成功を志すのであれば、ある日突然訪れるかも知れない倒産という悲劇に対する「覚悟」が、傷口を最小限に食い止める、優れた「決断力」を生むことを知らなければなりません。
放っておいたら、事態は悪化の一途をたどる。
死に至ることが確実と思ったら、逃げたいという自分の感情を捨て、最小限の被害で食い止める。
これが、経営者に必要な命がけの「決断力」というものです。
エリートと呼ばれる人達は、その優秀な頭脳で、ある問題の選択肢を2つまでには絞り込めるかもしれません。
けれども、最後の答えを一つに決めて、それを実行するときに迷わずにいられるかというのは、頭の良さとは関係ありません
「決断力」とは、選ぶことであると同時に、選ばれなかった選択肢を断ち、迷いやしがらみを潔く捨てることです。
起業家として、経営判断に必要な「方向感覚」や「直観力」に欠かせないものは、頭の良さでも要領でもありません。
「胆力」とも言うべき、ひたすら強靭な魂なのです。
あなたが起業を本気で志すのなら、まず自分が起業家に向いているかどうかを冷静に考えてみてください。
情熱があります、だけではダメなのです。
●最も失敗するのは、信じた道を突き進む人!?
私のこれまでの経営人生において、高い授業料を払い身につけた能力があります。
それが、「方向感覚」です。
私は元来、こうと決めたら異常なくらいの集中力を発揮し、脇目も振らず猪突猛進するタイプの人間です。
リスクが分かっていながら、起業して成功してやろうと考える人間であれば、程度の差こそあれ、みんな同じようなタイプではないでしょうか。
けれど、本当に成功を目指すのなら、その性格がアダになります。
事業というものは、道なき道を進んでいく作業です。
正しい道もあれば、間違った道もあります。
起業家のように経営の素人であるうちは、誤った道を選択するケースが圧倒的に多いものです。
闇雲に無駄な道を突き進んでも、迷路に迷い込んで体力を消耗してしまい、あせりから判断力を失い、気がつけば危険な場所まで足を踏み込み、今さら引き返せなくなっています。
倒産する会社は、最初の小さな誤りに気づかず、それがどんどん大きな過ちへと変化して、気がつけば切羽詰った状態になります。
大半の経営者は、そこでワラにもすがる思いで起死回生の反則技を繰り返し、最後は救いようのない状態になって倒産してしまいます。
まだ経験のないあなたは、事業に苦しむ経営者が、なぜ高利の金に手を出したり、手形を乱発したりするのか、理解に苦しむかもしれません。
これは一度そうした状況に追い込まれると分かると思いますが、経営者であるなら、むしろ当然のことなのです。
夜も眠れないほどのプレッシャーから、正常な判断能力が欠如してしまうのです。
そうした状態に陥らないための必須の能力があります。
それが「方向感覚」です。
この「方向感覚」に優れている経営者は、道を間違えたと思えばすぐに引き返します。
その決断が早いのです。
そうした人は、「もう少し様子を見てから」とは考えません。
たとえ、絶対的な確証がなくても、イヤな匂いがした時点で引き返します。
経営者は誰でも間違えます。起業家であればなおさらです。
しかし、方向感覚に優れた人は、小さな撤退に躊躇しません。
これは、言うのは簡単ですが、実践できる人は滅多にいません。
すでに資産を投資していたり、取引先との関わりもあり、実行するには相当の勇気と決断力を必要とします。
起業を志す人は、ブームの真っ最中に、それに便乗した事業計画を立てる傾向があります。
また、危ないと思っても、ここで諦めてはいけないと意地になり、前進してしまいがちです。
実際の経営では、流行っている事業に着目して参入したとしても、いざ実行段階になると下火になっていて、結局ババを引いてしまうことのほうが多いのです。
また、事業が挫折した原因を後で考えると、あの時もう2,3歩下がっていればダメージが少なかったと思えることも多々あります。
方向感覚に優れた人は、危険を感知した時に、すぐ別の方法を組み立てることの出来る人です。
以前の私のように、一生懸命に突き進むだけの人間は、営業マンや会社の従業員としてはそれなりの業績を上げられるでしょうが、経営者としては失格です。
経営者は、状況や危険性を感知しながら、攻撃と防御のバランスをとっていける能力が不可欠なのです。
私は自分の猪突猛進型の性格のおかげで、ずいぶん地獄を経験してきました。
何とか生き残れたのは、私が自己資金の範囲内での冒険しかしなかったからです。
これは、単に運が良かっただけのことです。
おかげで、それまで稼いだお金を何度も失いました。
今では、危険を察知できるカンと俊敏に危険から逃れる術を身につけましたが、払った授業料は膨大な金額です。
この「方向感覚」は、これを抜きには考えられないほど、起業家にとっては重要な才能です。
危険を察知できるアンテナを立てているか、察知したらすぐに撤退できるか、その場合次の手が用意してあるか、攻撃と防御のバランス感覚はあるか、と常に自分に問い正す習慣をつけてもらいたいと思います
● 事業が好調の時、不調の時にはどうするべきか?
私のこれまでの経験則ですが、なぜか「不運」と「幸運」は交互にやってきます。
そして、不運から幸運への変わり目は、なんとなく風向きを感じることが出来ます。
ところが、不運は何の前触れもなく突然やってきます。
こう書くと、それじゃ不運に備えて準備しておけばいいじゃないかと思われるかもしれませんが、不運とはそうした性質のものではありません。
考えてもみなかった予想外の内容とボリュームで突然襲ってくるのです。
これに対処する有効な方法が2つあります。
1つは、どうせ不運は予測も回避も出来ないのだから、その変わり目を感知しようとするより、不運になったときにジタバタせず、耐え忍ぶ覚悟を決めて幸運がくるのをひたすら待つということです。
大概の場合、不運に襲われたときに打つ手は、より被害を拡大させてしまいます。
自分では冷静に判断しているつもりでも、実はあせりのあまり放った奇手奇策にすぎないからです。
ここは試練だと思い、正攻法だけで耐え忍ぶべきです。
苦難をしのぎ切ることがあなたの地力を育てるからです。
地力は、苦労の戦いの中でのみ、最も効率的に育まれます。
不運の後に幸運がやってくるのは、不運時に恵まれた地力が、それまでの逆境をねじ伏せてしまうからこそなのです。
耐え忍ぶことで身につくものは、あなたの想像をはるかに超えたものです。
2つ目は、幸運時に目いっぱい流れに乗って、基礎体力をつけておくということです。
あなたは、幸運は予期せぬ形で突然やってくるのだから、幸運のときにこそ不運に備えるべきだと考えるかもしれません。
話としては、そのほうが堅実でもっともらしく聞こえるかもしれませんが、現実は違います。
この種の発想をする経営者は、いずれジリ貧になります。
結果的に、泣かず飛ばずで終わる可能性がほとんどです。
幸運のときは追い風なのだから、どんどん進めばいいのです。
幸運を全て使い切るつもりでガンガン攻めるべきです。
そのかわり、不運のときには、徹底的に守りに徹してミスを防がなくてはなりません。
攻撃と防御のこうしたメリハリは、経営者には絶対に必要なセンスであり、大胆かつ繊細でなければビジネスは成功しません。
この場合、注意すべき点は、その幸運が自分で引き寄せたものかどうかです。
会社全体の追い風や流行であれば、自らつくり出した幸運ではありません。
それに乗っかり、ガンガン突っ走れば、いずれ最後には足元をすくわれ地獄を見ることになります。
ビジネスは、野球やテニスのように一点差でもいいから勝てばいい、というゲームではありません。
いかに多くの点を取るかが勝負の分かれ目です。
ビジネスは、「得点差」ではなく、「得点量」がものをいうのです。
100万円損したら、ああ損したと意気消沈し、100万円儲かったから、ああ儲かったと歓喜する。
これでは経営者としては失格です。
100万円損した時には、50万円ですむ方法はなかったのか。
100万円儲かったときには、本当なら300万円儲かったのかもしれない、200万円儲け損なったという発想がなければダメです。
このように、儲けに貪欲で敏感でなければ経営者にはなれません。
アマチュアは、損に敏感で、儲けに鈍感です。
幸運のときに100万円で満足して流れを断ち切るのがアマチュアですが、プロは500万円、1000万円と流れに乗って上を狙います。
資金があり、スキルも備わっている人が、必ずしも事業で成功しないのは、こうした理由によります。
「幸運のときこそ不運の用意をすべき」というのは、儲けに鈍感で損に敏感なアマチュアのセオリーであって、プロの経営者としては失格です。
「勝って兜の緒を締めよ」ということわざは、自らの高慢を戒める言葉ですが、「幸運時に儲けに敏感になる」ことと「高慢になる」ことは、似ているようで全く別次元の話なのです。
● 会社を続けるべきか辞めるべきかの判断基準は?
事業を長くやっている人は、こういう経験があると思います。
いくら頑張っても業績が上がらず、それまでの事業費を回収しようとして、さらに資金を追加したが、結果的に赤字幅が拡大してしまった。
会社が倒産寸前の状況の場合には、もっと極端な形で現れます。
会社はすでに債務超過で、銀行返済もままならない。
それでも会社を継続するために、目先の入金をあてにして高利の金を借りてしまう。
銀行金利ですら支払いが難しいのに、高利の金を借りれば、どんどん深みに入っていくのは少し考えれば分かることなのに。
そして会社は最悪のケースで終焉を迎える。
マイナス局面で損を取り戻そうとさらに突っ込んでも、決して損は取り返せません。
むしろ傷口を広げる結果となり、致命的な深手を負ってしまいます。
潔く損を見切るか、撤退するかしかありません。
これが出来そうでなかなか出来ないことなのですが、商売がうまくいかない状況が続けば、どこかで会社に引導を渡す決断をしなければなりません。
では、何を基準にその見切り時を判断すれば良いのか?
私のところでは、毎年、決算書と一緒に清算貸借対照表というものを作成し、経営者に自分の会社の現状を数字で把握してもらっていますが、ここでは、そうした数字面からの判断ではなく、精神面での判断基準をお伝えしたいと思います。
精神面での会社を見切るボーダーラインは、自分の力だけでは解決できず、これ以上続けると他人に迷惑がかかる、という時点です。
さらに言うと、苦し紛れの奇策を考えるようになったら、もう会社は終わっています。
しかし、現実はそんなに冷静には判断できません。
「どうせなら、一か八かの勝負だ」と無謀な策に走ります。
怖いのは、その策を自分では無謀なものだと爪の先ほども感じていないことです。
事業の困窮というのは、それほどまでに経営者の判断能力を凍結させてしまうものなのです。
融通手形や高利の金を使って時間を稼ぎ、起死回生の逆転ホームランを狙います。
しかし、ヒットも打てない人間が、ホームランなど打てるはずがないのです。
けれども、経営者の脳裏には、「もう一度チャンスが来るまで何が何でも生き延びてやる。諦めないことが成功の秘訣だ!」と都合のいいフレーズが浮かんできます。
マイナスの状況で会社を見切るのは、経営者にとっては断腸の思い以外の何物でもありません。
また私自身も、そうした状態で正常な判断が出来るかどうか自信がありません。
だからこそ、こうした危機的状況に陥る以前に、経営者としてやるべきことをやっているかどうかを毎日自問自答すべきなのです。
起業家は、どんなに事業が好調でも、常に危機感を胸に経営に携わることが重要なのです。