● はじめに
起業家が会社を経営する際、最も大事なことは「存続する」ということです。
いくら売上が伸びようが、利益が上がろうが、たった一つの経営判断ミスで、あっという間に潰れてしまうのが会社というものです。
何度も失敗を繰り返す中で、そうした経営者としてのカンのようなものの精度を高めていくことが理想でしょうが、いかんせん起業家は、初めて経営というものに携わる方が大半だと思います。
未知の世界ですから、この先どんな障害が待ち受けているかを予測することが出来ません。
予測できなければ、そのための準備をすることも出来ません。
会社を継続する秘訣は、起こりうる最悪のケースを予測し、そのための準備と回避方法を模索することです。
そのためには、会社という「生き物」の習性を知る必要があります。
ここは、基本中の基本ですが、非常に大切なところなので、よく頭に入れておいて下さい。
● 「カネ」「ヒト」「スピード」基本的な経営資源について考える
■カネ
「資金調達」のところで述べたように、カネには種類があって、自分の利用目的にあったカネでなければ、安易に手を出してはいけません。
自分の事業が、ハイリスク・ハイリターンなのか、ローリスク・ローリターンなのかによって、「投資」と「融資」の2種類の調達方法を選択しなければならないのです。
自分の経営スタイルにあった資金調達をしなければ、その時は切り抜けることができても、その後の経営に大きな影響を及ぼすことになるからです。
しかし、起業家の立場に立つと、たいていは事業資金が慢性的に不足しているため、
たとえどんな種類のカネであろうと、のどから手が出るくらい欲しくなるものです。
その起業家のあせりが、後々自らの首を絞める結果となるとも知らずに。
けれども、忘れないで頂きたいのです。
「カネ」は、確かに経営において重要なファクターの一つではありますが、それが全てではないということを。
「カネ」がなくても成功する方法はあるのです。
その方法については、ここで伝えていくつもりですので、実際に行動することにより、
身に付けて頂ければと思います。
■ヒト
会社の命運を決するという意味では、ヒトの選び方ほど大切で、かつ大変なものはありません。
とりわけ規模の小さな起業家の場合、「誰と仕事をするか」「誰と一緒に組むか」で、その会社の歩む方向の大半が決まってしまいます。
企業にとっては、これはと思って採用した人間が、実際に仕事をさせても優秀だったというのがベストです。
しかし、これがなかなかそうもいきません。
期待はずれの社員というのは、必ずいるのです。
大企業ならば、社員の絶対数が多いですから、そうした社員が何人かいても、なんとか埋め合わせは出来るでしょうが、起業したばかりの会社では、そうもいきません。
カネもモノも限られているだけに、当然ヒトの数だって少ないのです。
そんな規模の小さい会社において、たった一人でもその会社に合わない人間を採用してしまったら、それこそ会社の存続にかかわりかねないのです。
「それなら、よく吟味して採用すれば良い」と思うかもしれませんが、起業したばかりの会社の場合、創業者自身が若かったり、経験不足だったりします。
要は、「ヒトを見る目」が養われていない経営者が多いということです。
規模の小さいうちは、創業者との相性を第一に考え、入社希望者のスキルはその次の選択基準とすべきです。
そして、創業者本人が、一人ひとりと面接することが大切です。
社員数の少ない場合は、その企業の特性や環境、経営者の方針と、どれだけマッチしているかどうかが、その人材の持っているスキル以上に重要となることを覚えておいて下さい。
けれども、社員が増えてくると、今までのように経営者が一人ひとりと面接し、希望者を吟味しながら採用することは難しくなります。
専門性の高い職種の場合ならば、その人の職歴や資格を見れば、ある程度採用できるかもしれません。
難しいのは、マネジメントや戦略立案といった「経営」に関わる業務を担ってもらう人材の採用の場合です。
優秀な人材を採りたいと願う余り、ついつい入社希望者のうわべの肩書きだけを見て採用を決めてしまいがちです。
MBA取得者だったり、大企業出身の技術者だったりと、ブランド力のある人材ばかりが増えていきます。
確かに彼らは、基本的には優秀な人達です。
しかし、彼らが「本当に自分の会社に合った人材なのか」、そして「実際に即戦力となり得るか」という点は別問題です。
起業家にとって必要なのは、家庭の冷蔵庫に残っている余りモノの食材からでも、自らの創意工夫で、「売り物になる」料理を作ることが出来る料理人です。
一流レストランの「シェフ」のように、恵まれた環境の中で最高の料理を作り上げる能力は必要ないのです。
一流レストランのシェフのようなタイプの人材を採用すると、企業側は十分な職場環境や報酬を提供できず、社員側も自分の実力を出し切れず、双方ともに不満が蓄積してしまうことになります。
つまり、いかに優秀な人材を集めようと、その会社のニーズや経営の方針にマッチしていなければ、宝の持ち腐れとなってしまうということです。
腐るだけなら捨ててしまえば良いのですが、造反されたり、顧客を持ち逃げされたりしたのでは、会社の存続に関わることになります。
いずれにせよ、起業において、人材の採用という最も重要な項目においては、常に、
企業固有の文化や環境、そして経営者の方針との相性を、きっちりと見ることが非常に重要なのです。
「企業は人なり」という誰でも知っているこのフレーズの意味は理解できても、「実行するのは難しい」ということを理解していなければ、「ヒト」の面で失敗を犯すこととなるのです。
■スピード
起業において、自分が考えたビジネスを「いつ」「どんなタイミングで」「どのくらいの時間をかけて」スタートするかは、その後の成否に直結します。
この場合、注意しなければならないのは、経営に必要な「速さ」と「早さ」は、区別して考えなければならないということです。
これは、世の中にまだ認知されていないアイデアやビジネスモデルを商品化する場合に、陥りやすい過ちです。
これを飛行機に例えて説明します。
ある素晴らしいアイデアを思いついたとしましょう。
「このアイデアは、絶対成功する。そのためには、誰かに真似される前に資金を調達し、可能な限り早くビジネスをスタートさせなければならない。」
ほとんどの起業家は、そう考えます。
飛行機の操縦桿を握ったあなたは、エンジン全開で滑走路を走り始めます。
頭の中はあせりと不安でいっぱいです。
「自分と同じように、飛行機を飛ばそうとしている奴がいるかもしれない」
「もしかしたら、もう先に離陸しているかもしれない」
飛行機が離陸するためには、ある程度の離陸速度(経営環境)が必要です。
しかし、一刻も早く離陸しなければとあせる余り、離陸速度に達する前に、むりやり機体を上昇させてします。
機体は滑走路を離れ、ぐんぐん上昇していきます。
こうして、最初に、「離陸」することには成功します。
これが、「速さ」です。
次は、目的地までいかに効率よく、安全に、早く到着するかということです。
しかし、十分な速度をつける前に無理やり離陸した飛行機は、エンジンに負荷がかかりすぎ、多くの燃料(カネ)を消費することになります。
失速しないためには、燃料(カネ)を供給し続けなければなりません。
けれども、無理やり離陸したため、その飛行機は色々なエンジントラブル(人材やシステムの障害)に見舞われることになります。
飛行機の不安定な飛び方を見た燃料供給会社(銀行)は、早く燃料代を払えと言ってきます。
しかし、目的地(実際の稼動)に到着しない限り、まとまった売り上げは立ちません。
燃料供給会社は、これまでの代金を支払ってくれないのなら、燃料を補給することは出来ないという結論に達し、補給燃料を絶たれた飛行機は、あえなく墜落することになります。
この飛行機が墜落した原因は何でしょうか?
飛行機の最終目的は、「目的地に到着する」ということです。
そのため、飛行機に求められるのは、いかに効率よく、「早く」、目的地に着くかということです。
起業家や経営者が陥りやすい、間違った認識がここにあります。
「経営はスピードが命だ」とはよく言われる言葉ですが、ここでいう「スピード」とは、
「速さ」と「早さ」に区別して考えなければならないのです。
「速さ」とは、飛行機が離陸するために必要なスピードであって、いつ目的に着けば良いかという「早さ」のことではありません。
つまり、「速さ」とは、アイデアを事業化するための「実行の速さ」のことであり、
「早さ」とは、いつそのビジネスを実体として事業化するかという「商機」のことです。
経営において、「速さ」はもちろん大切ですが、本当に大事なのは「早さ」なのです。
この「商機」を見誤り、やみくもに開発を急いだり、つぎ込む資金の量を間違えたりすると、その後の「カネ」の工面や「ヒト」「モノ」の選定といった側面でミスを犯し、最終目的地に到着することなく墜落してしまうことになります。
「経営にとって、スピードは最重要課題だ」とは当たり前のように使われるフレーズですが、この本当の意味をどれだけの起業家が理解しているのでしょうか。
「アイデアさえあれば、後は何とかなる」と考えがちなベンチャー企業によくある間違いです。
これまで私は、何社も、素晴らしいアイデアや商品を持っているにもかかわらず、
「経営はスピードだ」という言葉を履き違えたため、志半ばで倒産した会社を見てきました。
これが、私の言う、「知っている」ということと「本当に理解している」ということは、まったく違うということです。
経営において重要なのは「ヒト」「モノ」「カネ」とよく言われますが、それも全て、
この「スピード」の意味を本当に理解した上でのことです。
この「スピード」に合わせ、「ヒト」「モノ」「カネ」のバランスを考えて経営を行うことが重要なのです。
人は、自分の利害が影響しないことについては、冷静な判断ができますし、アドバイスもできます。
しかし、いったん自分の利害が絡むと、途端に冷静さを失い、一人よがりな考えに頭を支配され、片寄った方向に進んでしまうものです。
経営は、起業家個人の利害と直結しています。
そのため、自分を見失いがちになるのは当然のことです。
だからこそ、そういう時のために、冷静な判断のできる「実践的な」経営指導者が必要となるのです。
● 会社の将来を予測するために「数字」を使う
会社という生き物は、黎明期から始まり、発展期、成熟期を経て衰退期に入るという一定のパターンがあります。
どんな会社であれ、この基本的な流れに大きな差はありません。
つまり、どんな会社も「売ることだけ」に専念していると、いつかは潰れてしまうということです。
しかし、長い年月が経っているにもかかわらず、成長をし続ける企業があります。
なぜ彼らは、会社のライフサイクルに逆らって、潰れることなく成長できるのか?
その秘密は、経営者の経営判断能力にあります。
例えば、起業したばかりの「黎明期」は、社長が朝から晩まで一日中働いている時期です。
この時期は、とにかく売らなければ生活できないわけですから、売上だけを考えて経営していればいいわけです。
少々安く売っても、将来の信用を築き上げるためということで、とにかく「売上」が優先されます。
この時期であれば、「数字」に強い堅実な経営者よりも、「営業能力」の高いイケイケの経営者のほうが適任です。
全く数字を知らない経営者でも、この時期なら成功者になることは可能です。
次の「発展期」は、会社が成長するに伴い、社員を抱え、組織を作り上げなければならない時期です。
この時期は、売上を伸ばすことも大切ですが、会社全体のバランスを考えて経営していかないと、資金繰りに困ってしまうことになります。
ほとんどの会社は、入金と出金に数ヶ月のタイムラグがあります。
つまり、入金日を待たず、その仕事に対する支払いが発生してしまうということです。
設立当初は、営業出身の社長のおかげで、売上も伸び、会社は急成長します。
入金サイトが遅いため、多少の資金不足はありますが、まだ売上自体も低いので、自分の手持ち資金をつぎ込めば、なんとかやっていけます。
しかし、急成長しすぎて、売上が5倍になったらどうでしょう。
これまでの資金不足は数百万円だったかもしれませんが、今度は数千万円になってしまいます。
「数字」を知らない社長は、この資金不足を補うため、「もっと売れば問題は解決する」と考えてしまいます。
そして、売上が増えれば増えるほど、資金不足はますます拡大し、ついには黒字倒産です。
これは、起業したばかりの会社が、陥りやすい経営判断ミスです。
過去の成功体験にすがりつきたい気持ちは分かりますが、会社という生き物の前には通用しません。
ここでの正解は、前もってその事態を予測し、そのための準備をしておくことができたかどうかです。
そのためには、経営者として必要最低限の「数字」を知っておくことが大切です。
「数字」というと「簿記」を連想されるかもしれませんが、そんなものは経営者には必要ありません。
確かに知っているに越したことはありませんが、経営者の仕事は掃いて捨てるほどありますから、そんなことに時間を割いている余裕はありません。
大事なことは、
「自社のお金の流れはどうなっているのか?」
「利益は何処に消えてしまっているのか?」
といった、会社のお金と儲けの構造を知ることです。
そして、もう一つは、「数字に対する判断基準」を持つことです。
例えば、あなたは、売り上げ目標をどうやって決めていますか?
商品の価格は? 従業員やあなたの給料の額は?
特に何の根拠も無く、「まぁ、これくらいが妥当だろう」と雰囲気で決めているのではないでしょうか。
会社のお金と儲けの構造を知れば、こうした数字は、きちんとして根拠を持って決めることが出来るようになります。
(詳しくは、「お金の流れの全体像を把握しよう」のセクションを参照して下さい)
会社が将来においても存続できるための「数字」は、あらかじめ計算することができるのです。
それが、「今後起こるだろうことを予測する」ことなのです。
● 商品のライフサイクルと、新製品の導入時期とは?
先ほどは、会社の誕生から衰退までの話をしましたが、この流れは、「商品」のライフサイクルと非常に似通っています。
会社の成長というのは、商品の売上に左右される部分が大きいだけに当然のことですが、ここでも綿密な経営判断が要求されます。
上のグラフは、商品の「売上高」と、仕入・製造原価、販促費用といった「コスト」との相関関係を表したものです。
商品の「売上高」は、会社のライフサイクルとほぼ同一の動きをします。
会社と同様に、導入期、成長期、成熟期、衰退期と流れていきます。
・「導入期」は、売上が上がらないのにコストは高いので、資金はマイナスになります。
・「成長期」は、売上も大きくなりますが、市場の競争も激しくなりますので、販促費用がかかるため、資金的には徐々にプラスに転じるという感じです。
・「成熟期」では、売上も安定し、競争もひと段落したため、原価、販促費、ともに下がりますので、資金はプラスになります。
・「衰退期」は、売上も下がる代わりに、コストもかかりませんので、資金的にはプラスマイナスゼロです。
ここで知っておいてもらいたいことは、あなたの商品が今、どのステージに位置しているのかということです。
これを読み誤ると、無駄なコストをかけすぎたり、ストックしなければならない資金をつまらないミエのために使ってしまい、将来必要となる新商品に対処できなくなってしまいます。
加えて、資金調達の準備も必要です。
このライフサイクルで、最も資金が必要となるのは「成長期」です。
いつでも、銀行融資が受けられるように、スキのない決算書を作成しておかなければなりません。
それともう一つ大切なことは、成長期から成熟期にかけて資金的に楽になりますが、
その先は衰退の一途をたどるということを知っておくことです。
つまりどういうことかというと、「同じ商品では、いずれ会社は衰退する」ということです。
それを見越して、新商品に資金を投下する必要があるのです。
では、どこで、その新商品の準備を開始すべきなのか?
上のグラフのABCDのうち、どの時点で新商品への投資を始めるべきだと思いますか?
経営初心者の起業家であれば、おそらくBかCだと感じると思います。
しかし、正解は、Aです。
苦しい「導入期」からやっと抜け出したと感じることが出来た「成長期」の初期段階。
この一点のみです。
もちろんこの時点では資金的な余裕はまだありませんので、資金調達が必要になるケースが大半です。
だからこそ、いつでも銀行から資金を調達できるだけの決算書を作成しておくことが必要になるのです。
このタイミングを逸して、売上が上がったことに気をよくして、私事にお金をつかっているようでは、会社を存続させることは出来ません。
もうすでに次の戦いが始まっているのです。
経営とは、かくも厳しく、ストイックなものなのです。
● 自分の好きな事が、そのままビジネスになるわけではない
さて、こうしてみると、経営とは、いつも新しい事にチャレンジし続けることが、会社存続の必須条件だということが、お分かりいただけたと思います。
それと同時に、会社に入金されたお金は、次のステージのために欠くべからざるものであり、一円たりとも無駄遣いはできないことも理解できたと思います。
しかし、ここで注意すべき事が一つあります。
それは、導入期の商品に関わっている状態での、起業家の「思い込み」についてです。
最近、本でよく見るのは、「あなたの好きな事で起業しよう」「自分がワクワクできる仕事が一番」といった、キャッチコピーです。
私は、このこと自体は、決して間違っているとは思いません。
私自身も、今の仕事は、自分の性格にあっていると思いますし、好きな事なのでいくら忙しくても苦に感じません。
しかし、私が今の企業再生事業に落ち着くまでには、何度も失敗を繰り返してきたのです。
起業当初は、「これは素晴らしいサービスだ」と勝手に思い込みましたが、最初は、何度お客さんにアプローチしても良い反応は得られませんでした。
やっと顧客になってくれたと思っても、十分な収益は上がりませんでした。
何度も改良に改良を重ね、現在の形になったのです。
確かに、新事業というものは、ワクワクします。
将来の夢の実現のために起業したわけですから、ワクワクして当然です。
しかし、ここで考えてほしいのは、「顧客満足を、自己満足と履き違えてないか」ということです。
ビジネスというものは、顧客を満足させてこそ、その存在価値があります。
つまり、「相手も喜び、こちらも儲かる商売」ということです。
言い方は厳しいですが、ビジネスである以上、相手が喜んだとしても儲からなければ意味がないのです。
起業家のように、前向きな考え方をもっている人ほど、このバランスを失い、
「利益なき繁忙」に陥りやすいものです。
自分ひとりワクワクして、土日も関係なく働き、本人の満足度は高いが、会社は決して儲かってるとは言えない。
利益を度外視して、次々にいろいろな事を試しているうちに、しだいに疲れてきて、最後には力尽きてしまう。
そうした、志半ばで挫折していった起業家を、私はこれまで何度も見てきました。
そして、こうした起業家に限って、真面目で人が良いのです。
私は、あなたには、途中で力尽きてほしくありません。
休みなく働く事が、偉いことではないのです。
顧客が本当に求めているモノを提供し、それに見合うだけの対価を頂く、それがビジネスです。
自分の好きな事、ワクワクすることを仕事にすると、あなたの仕事の満足度は高まるかもしれません。
しかし、多くの場合、それは儲かりません。
あなたが最初に思いついたビジネスが、そのまま事業として利益を生むケースは、
滅多にないのです。
何度も顧客というフィルターを通し、ビジネスモデルの改良を重ねた結果、あなた独自のモノが生まれるのだという事を覚えておいてください。
そのビジネスモデルは、当初あなたが考えていたものとは、大きく変化している事も多々あります。
しかし、ビジネスとは、本来そういうものです。
あなたの扱う商品やサービスが、「顧客が求めていることなのか、それとも自分がやりたいことなのか」を、もう一度じっくりと考えてみてください。
ひとりよがりの「思い込み」ほど、人を不幸にするものはないのですから。
● あなたの前に立ち塞がる「踊り場」の壁
最後に、起業家のあなたに、ぜひ知っておいてもらいたいことがあります。
それは、「ビジネスにはステージがある」ということです。
そして、あなたが現在、どの段階にいるのかを知る必要があるという事です。
この、次のステージに上がるまでの準備期間を、「踊り場」といいます。
これは、先ほどの、会社のライフサイクルを、もっと掘り下げた部分での話です。
会社というものは、1~2人で起業したばかりの頃と、社員が50人程度に増えて、業務をマニュアル化しなければならない頃とでは、そのノウハウも経営判断もまったく違います。
これについては、起業間もないあなたにはピンとこないかもしれませんが、経営に携わる以上、避けては通れない成功への壁となります。
この壁だけは、それまでの成功体験が一切通用しません。
なぜなら、ここで新しいステージに入るからです。
その障害は、資金調達であったり、人材であったり、組織変更、あるいは、企業理念であったりします。
この踊り場を、これまでと同じやり方でクリアしようとすると、間違いなく失敗します。
同じところをグルグルと回るだけで、時間だけが過ぎていき、気づいたときには、会社は下降の一途をたどっています。
設備の老朽化による資金繰りの悪化、商品のライフサイクルの変化、大型店の出店による集客力の低下、競合他社の価格攻勢など、問題は山積みです。
どれだけ安定しているビジネスにも、「永遠」という言葉がないことに、初めて気づかされます。
冷たい言い方になりますが、市場の変化に対応していくには、自分がまず変化して、
次々と先手を打ち、ノウハウを蓄積しながら成長を繰り返す他ないのです。
「商売」のレベルでは、モノを売ったり買ったりする事が好きなだけで何とかなりますが、「経営」においては、利益を出しながら会社を成長させ続ける資質が、経営者には求められるのです。
この「踊り場」の克服方法や、商品のライフサイクルごとの特徴、その特徴を生かした商品開発の秘訣については、別のセクションでで詳しく解説しますが、ここでは、「会社を存続させるということは、そういうことなんだ」とだけ理解して下さい。
あなたも起業したからには、経営に携わることになります。
経営は、立ち止まる事は許されません。
一生勉強し、障害を乗り越え続けるしかないのです。