特典-経営判断・起業の心得6-起業家が陥りやすい人材採用のカン違い

● 学歴がある人は仕事ができる

私が、起業家から人材採用についての相談を受ける場合、必ずといっていいくらい話題になるのは、「できる人が欲しい」ということです。

おそらく「できる」というのは、「仕事ができる」という意味だと思うのですが、ここで注意してもらいたいのは、「学歴がある=仕事ができる」ということではないということです。

受験勉強をある程度までやった人はお分かりだと思いますが、テストの点を取るために必要なものは、「コツをつかむ」ことと「記憶力」です。
「コツ」は塾に行けば教えてくれますから、能力として必要なものは「記憶力」ということになります。

仕事をやる上で、記憶力は何の役にも立ちません。
頭がよくないと仕事はできませんが、それは記憶力とは別のものです。

確かに、「学歴がない=仕事ができない」という確率は高いと思います。
なぜなら、学歴がないということは、いくら勉強してもテストの点が取れなかったわけですから、本当に頭が悪いのかもしれないからです。
または、性格的に無気力な人なのかもしれません。
こうした人たちは、社会に出たとしても、ほとんど役に立ちません。

しかし、学歴のない人の中には、単に「勉強をしなかっただけ」という人も含まれています。
高卒だろうが、元暴走族だろうが、頭のいい人はやはり頭がいいのです。
この頭の良さは、コミュニケーション能力であったり、想像力であったり、発想力であったりします。
決して、受験勉強で身につくものではないのです。

子供のころから塾通いをしていれば、誰でもそこそこの大学に入ることはできます。
しかし、そうして得た学歴が、仕事のできる基準にはなりません。
仕事ができる人材を見分けるポイントは、「資質」のよさです。

小学校のころから空手の道場に通っていれば、何もやっていない子供に比べ、突きや蹴りがうまいのは当たり前です。

しかし、それが全日本大会で通用するかといえば、決してそうではありません。
事実、全日本大会に出場する選手で、空手歴がたった3~4年しかないという人はたくさんいます。

そうした人たちが短期間で強くなったのは、単に突きや蹴りがうまいからではありません。
空手に必要な「素質」があったからです。
それは、「腰の強さ」「反射神経」「闘争心」といった、なかなか努力だけでは身につかない生来の「資質」です。

これは、仕事ができる人間も同様です。
大切なのは、どこでその「資質」を見極めるかなのです。

● 新卒採用にはお金をかけない

毎年、何万人もの学生が企業に入社します。
それなのに、「うちには優秀な人材がやってこない」と嘆く起業家の方は、たくさんいらっしゃいます。
「うちは小さいから無理だ」と、最初からあきらめている人も少なくありません。

私がクライアントによく言うのは、「小さな会社が新卒採用に参加しないのは、弱い野球チームがドラフトに参加しないようなものだ」ということです。

いい人材というものは、中途採用者よりも新卒者から探すほうが、はるかに高い確率で見つかります。
その理由については、以前に説明しましたが、本当に優秀な中途採用者であれば、マーケットに出回ることはありませんし、もしいたとしても、コスト面で大手と競争して勝てるはずがありません。→「起業家の望む即戦力になる経験者は存在しない」はこちら

しかし、新卒者であれば、勝てる確率はずいぶん上がります。
大手企業は、それぞれ採用に独自のスタンスを持っています。
将来性を見込んで伸びそうな人材を採用している会社ばかりではありません。

学歴を優先し、真面目だけが取り柄の人間や、上司には逆らわないタイプの人間ばかりを採用している大企業もあります。
つまり、こと採用に関しては、いい人材を選べるかどうかは、経営者や人事担当者のレベル次第だということです。

それなのに、本腰を入れて新卒採用をやらないというのは、どうなのか。
これでは、いずれ会社は衰退していきます。

中には、未だに、「社員というものは、むこうから頭を下げて入ってくるものだ」と考え違いをしている経営者もいます。
バブル以降、働く側の価値観は大きく変わっています。
最近の起業ブームもあり、働く側は、以前のように「雇ってもらっている」という気持ちがなくなってきています。

それなのに、未だに経営者が社員を「雇っている」という気持ちを持っているようでは、優秀な人材など入社するはずがありません。
もし、頭を下げて雇ってくださいといってくる人間がいたとしたら、その多くは「仕事のできない人材」だと思って間違いないでしょう。

こちらが頭を下げてでも来てほしいと思える人材を獲得するためには、採用にお金をかけるべきです。
本当にいい人材を採るためには、「本気」になるしかないのです。

私は、クライアントには、毎年一人採用するのに最低でも100万円はかけるようにと指導しています。

これが高いかどうかは、少し計算してみればすぐに答えは出ます。
仮に、その人間が10年働いてくれると想定した場合、その人間にかかるコストは、社会保険料を含み、約5,000万円くらいです。
採用に100万円かけたとしても、総額で5,100万円です。
使い物にならない人間を採用したとしても、5,000万円かかるわけですから、その差額は、たったの100万円でしかありません。

私は、「経営の本質は投資効率だ」という話をしましたが、効率を考えるのであれば、その最たる投資先は「人材」です。
優秀な人材がもたらしてくれる利益を考えれば、100万円くらいなんでもないはずです。

小さな会社にありがちなのは、「入社後の研修や教育にお金をかけます」というフレーズをエサに、人材募集を行うことです。
そんなことにお金をつかうのなら、その分を採用時に使ったほうが何倍も効率的です。

なぜなら、いい人材というものは、短時間の研修で仕事ができるようになるからです。
逆に、よくない人材は、いくら研修費用をかけても、仕事ができる人材には育たないのです。

● バカでなければ、努力しだいで人は成長する

よく起業家から聞くセリフに、「少しばかり頭がいいヤツよりも、やる気があって元気なヤツの方がいい」というものがあります。

ここでハッキリさせておきますが、人というものは、残念ながらいくらやる気があっても、悪い頭がよくなることはありませんし、いくら知識が増えても頭の回転が速くなることはありません。

つまり、人材には、「育つ人材と育たない人材がある」ということです。

あなたは、「バカでない限り、仕事に必要なスキルがゼロということはない」と思っているかもしれませんが、これはとんだ勘違いで、実際には、仕事に必要なスキルをまったく持ち合わせていない人間というのは、意外と多いのです。

もちろん、そのスキルというのは、勉強ができるという頭のよさではありません。
想像力や発想力、コミュニケーション能力といった仕事をやる上で必要不可欠の能力のことです。
こうしたスキルをもっている人材が、人の何倍も努力をすれば、短期間のうちに素晴らしい人材へと変貌を遂げます。

大半の経営者がカン違いしているのは、「新卒者であれば、同じスタートに立っている」という考え方です。
そんなことは、絶対にありません。
入社の段階で、すでに、「育つ人材」と「育たない人材」に分かれているのです。

違う人生を20年以上歩んできた人間の資質が、同じであるはずがないのです。
悲しいかな、採用時点で、その後の成長度合いは、ほぼ決定しています。

ただ注意しなければならないのは、資質の悪い人材がよくなることはなくても、よい人材が悪くなってしまうことは、よくあることだということです。
せっかく採った良い人材も、育て方を間違えると台無しになってしまいます。

そのポイントについては前述しましたが、決して、良い指導さえ行えば、人は成長するというものではありません。→クリック「人は育てることが出来ない!?」

指導・研修というのは、成長するための「ヒント」に過ぎません。
その人が成長するかしないかは、結局は本人次第なのです。

同じ指導・研修を受けても、できるようになる人もいれば、ならない人もいます。
成長するかどうかは、その人材の資質とその後の努力にかかっているのです。

● 会社に必要な能力を持った人材を募集する

会社が人材募集をしたり、会社説明会を開いたりする場合に、よくカン違いする非常に重要なことがあります。
これを間違えたために、まったく応募者が来なかったという悲惨な結果に終わった会社も少なくありません。

それは、会社が必要とする能力を持った人材を集めるべく、アピールしてしまうことです。

ほとんどの起業家は、まず自分の会社側のニーズを最優先します。
営業力のある人とか、コミュニケーション能力のある人だとか、やる気のある人だとかです。
せっかくのお金をかけて募集するわけですから、的外れの人に来てもらっても、意味がありませんので、そうしたい気持ちはよく分かります。

しかし、ここで見落としがちになるのが、人材側のニーズです。

彼らは、就職活動をするにあたって、さまざまな夢や目的を持っています。
金持ちになりたいだとか、将来は起業したい、社会的奉仕がしたい、自分の技術を磨いて職人として有名になりたいなどです。

例えば、あなたの会社が「やる気のある人」を募集したいと思ったとします。
やる気のある人に来てもらうために、元気一杯の説明会をし、やる気の出そうなパンフレットを作り、やる気の出る会社だということをアピールしたところで、学生は来ると思いますか?

残念ながら、それでは、学生は興味を示しません。
なぜなら、それは、あなたの会社が必要とする学生の資質だけを問題にしているからです。
いくらやる気を持っている学生でも、そのやる気を発揮したいと思っている目的は、人それぞれなのです。

人は、自分の夢や目的のために全力を尽くそうとします。
別に、あなたの会社のために、自分の能力を提供しようとなどとは、少しも思っていないのです。

あなたの求める人材に来てもらうためには、相手のニーズがどこにあるのかを分析し、
それで引きつけなければなりません。
会社側のニーズよりも、学生側の気持ちを優先させて、ともかく多くの人材に興味を持ってもらうことが先決なのです。

例えば、会社の説明会をする場合でも、「やる気」に重点を置くのではなく、「起業できること」に置いて説明をしたとします。
そうすれば、「この会社に入れば、自分の夢である起業ができるかもしれない」と考え、大企業思考ではない人材がやってきます。
逆にここで、「うちの会社に入ればやる気が出ます」といくらアピールしたところで、学生の胸には響きません。

順序として、まずあなたの会社に興味を持たせて、入社したいという動機付けをし、次にその中からあなたの求める資質を持った人材を選択すれば良いのです。

あなたの求める人材を獲得するためには、ともかく多くの学生に興味を持たせることが最優先事項なのです。

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