●勝ち残るためにはまず負けない体制をつくれ
これまで私は、数多くの倒産寸前の企業の建て直しを行ってきましたが、会社が倒産する原因はさまざまです。
「販売不振」「過剰投資」「放漫経営」…
理由はたくさんありますが、最終的に会社が潰れるのは、「お金が底をついたとき」です。
書店に並ぶ成功本を開いてみると、そこには、「こうすれば楽して儲かる」だとか、「毎月1千万稼ぐノウハウ」といった魅力的なキャッチコピーが並んでいます。
まんざらウソではないのでしょうから、その通りに商売を行えば、もしかしたら成功するのかもしれません。
けれど、その確率は限りなくゼロに近いものだと思います。
なぜなら、ノウハウ本というのは、過去のことをまとめているのであって、いま置かれている環境や客観的情勢とは異なる状態での成功体験だからです。
日々変化するお客様の要望は、決してノウハウなどで得られるものではありません。
世の中がこれだけ激しく変化している時代に、「この方法が正しい」と教えてくれるような教科書など存在しないのです。
起業家にとって大切なのは、そうした借り物の成功ノウハウではなく、まずは「負けない」企業体質をつくるということです。
ビジネスという戦場で勝ち残るには、まず負けない体制を整えた上で、必勝のチャンスを待ち、ここぞと思った時に攻勢に出ることが絶対条件といえます。
事業をスタートして、最初から儲けがでて困るということなど滅多にありません。
起業家なら誰でも、事業が軌道に乗るまでは、収入よりも支出の方が大きいのが当たり前です。
大切なのは、その期間に、お金が底をついてしまわない様コントロールすることです。
これが出来ないのでは、せっかくのアイデアも水泡に帰してしまいます。
ここでは、まず、「潰れやすい会社」と「潰れにくい会社」の特徴について述べてみます。
そして、中級編では、その中でも、起業家にとって最も重要と思われる、「運転資金」について掘り下げてみます。
資金繰りの大切さについて解説した本はたくさんありますが、「運転資金」の具体的な算出方法や考え方について詳しく述べてある本はほとんどありません。
「運転資金」の重要性は、実際に経営をしている人間でないと分からないかもしれませんが、資金繰りにおいて、これほど直接的に影響するものはありません。
少し難しいかもしれませんが、会社の存続にとっては必須知識といえるものですので、確実にマスターして頂きたいと思います。
● 潰れにくい会社の4つの実践キーワードとは?
ビジネスの世界には、「業種」により、潰れやすい業種と潰れにくい業種が存在します。
これは、費用構造の違いにより、大きく4つに分類できますが、その特質と改善点については、別のカテゴリーで説明するとして、ここでは、「お金が底をつかない」という観点から考えてみます。
私のところには、毎日のように、「会社の現状はどうなのか?」を知るために、多くの経営者の方が相談に来られます。
その都度、決算書を分析し、相談者に会社の現状と対処法をお伝えするのですが、正直に言わせてもらえれば、「もう少し早く相談してもらいたかった」というのが本音です。
なぜなら、経営分析で使う「自己資本比率」「流動比率」「固定長期適合率」などという分析数値は、単なる「結果」の分析にしか過ぎないからです。
経営者にとって本当に大切なのは、「原因」から見た分析です。
「なぜお金が不足するのか?」
「どうすればお金の心配をしないで済むのか?」
こうした「お金が底をつかない原因から見たキーワードとは何か」について知る必要があるのです。
ここでは、「潰れやすい会社」と「潰れにくい会社」を分ける4つのキーワードについて述べてみます。
私のこれまでの実務の現場から知ることができた、倒産会社の財務上の共通点の中から厳選したものです。
きわめて実践的なキーワードですので、起業当初から常に念頭に入れておくよう、注意しておいて下さい。
①粗利益率は高いか?
売上から原価(変動費)を差し引いた利幅のことを「粗利益」といいます。
小売業であれば仕入を引いたもの、製造業であれば材料費・外注費を引いたものです。
この「粗利益」こそが、あらゆる事業活動の大元となる利益です。
そして、売上高のうちどれだけ粗利益があるかを表したものが、「粗利益率」です。
例えば、商社などは売上高は大きいかもしれませんが、仕入額も大きいため粗利益率は低くなります。
逆に、会計事務所や弁護士事務所などは、売上高は何百億円もありませんが、仕入れもないため、ほぼ100%の粗利益率となります。
粗利益率は、人にたとえると「生命力」のようなものです。
無人島に2人の人間が流れ着いて、飲み物、食べ物が不足した状況で、どちらが長く生き延びることができるかを連想してみて下さい。
この状況においては、体格の良い悪いは関係ありません。
いかに無駄なエネルギーを使わず、他からの栄養補給がなくても、生命を維持できるかが勝負です。
つまり、粗利益率が高いということは、「アクシデントに対して打たれ強い」ということです。
これを、ビジネス上の経済活動において説明してみます。
粗利益率の高低は、資金繰りに直接関係してきます。
例えば、粗利益率20%の会社が1,000万円の商品を販売した場合、その仕入原価は800万円になります。
通常、仕入代金は先払いとなりますので、1,000万円を回収するまでの間は、800万円もの資金を会社が負担しなければなりません。
これでは、資金繰りが苦しくなって当たり前です
一方、粗利益率80%の会社が、同じように1,000万円の商品を販売したとしても、負担額は200万円で済んでしまいます。
さらに、この先払い額は、売掛金が回収不能になったときのダメージの大きさにも比例します。
粗利益率80%の会社が1,000万円の売掛金を回収できなかったとしても、直接的な損失は200万円で済みます。
しかし、粗利益率20%の会社が同じ額の売掛金を回収し損ねた場合、800万円もの損失となるのです。
これ以外にも、粗利益率が低いと、思い切った販売促進策を打つことができず、どうしても後手に回ってしまいがちになります。
すべての利益の源泉である「粗利益が低ければ低いほど、会社は潰れやすい」といえるのです。
②労働分配率は低いか?
粗利益額の中に占める人件費の割合を、「労働分配率」といいます。
この数値の適性値は50%以下と言われますが、業種によって大きな違いがあります。
不動産業などは、利益が大きい割に、優秀な営業マンが数人いれば売上を上げることができます。
そのため、労働分配率は40%前後が平均値となっています。
一方、製造業は、いくら機械化を進めても一定の人間を必要とするため、労働分配率は75%前後が平均値になります。
しかし、起業当初であれば、どんな業種であれ、常に労働分配率の推移に目を光らせておかなくてはなりません。
なぜなら、労働分配率は、会社の生産性の良否を表すだけでなく、「売上変動への抵抗力」を表す数値だからです。
「固定費の削減」という言葉は、経営者であるなら、何度も耳にしたことがあると思います。
思うように利益が上がらない会社では、まず、固定費の削減が可能かどうかをチェックする作業から入るのが定石です。
しかし、意外に知られていませんが、実は、固定費の大半は、「人件費」から派生したものなのです。
売上高に関係なく、固定的に発生するコストの代表格である支払家賃や支払利息も、人件費から派生して増加するケースが大半です。
ですから、まずは人件費の増加を管理して下さい。
人件費は、他のコストと違い、いったん増えてしまうと簡単に削ることはできないという特徴を持っています。
なぜなら、相手は「数字」ではなく「人間」だからです。
経営を長く続ければ続けるほどお分かり頂けると思いますが、売上というものは、一定ではなく常に変動します。
仕入や外注といった「変動費」は、売上の増減に比例して変動するため、多少売上が減少したとしても、直接影響することはありません。
しかし、売上の増減にかかわらず、固定的に発生する「固定費」はそうではありません。
その中心的存在である「人件費」は、売上に関係なく常に発生します。
つまり、労働分配率の高い会社は、「売上変動に対する抵抗力が弱い」ということです。
売上が減少した場合は、すぐに人件費のカットに手をつけなくてはならず、そのため社員との軋轢に悩まされることになるのです。
そうなると、会社本来の生産性も上がらず、結果として、倒産への道を進むことになってしまうのです。
③運転資金の必要額は大きくないか?
あなたは、「運転資金」という言葉を聞いたことがあると思います。
企業活動を「資金の循環」という視点でとらえた場合、そこにはさまざまな形をした資金が存在します。
大きく分けて、商品などの仕入・販売にかかわる資金を「運転資金」、店舗・設備などにかかわる資金を「設備資金」と呼びます。
あなたがこれから事業を継続する上で、おそらく、この「運転資金」と「設備資金」という資金には、何度もお世話になることと思います。
とりわけ「運転資金」については、会社を存続・成長させる上で欠くベからざるものであり、それだけにその扱いについては、細心の注意を払わなくてはなりません。
通常、運転資金は次のように算出されます。
「売上債権」とは、売掛金と受取手形を合計したものです。
「棚卸資産」とは、商品や材料といった「在庫」のことです。
「仕入債務」とは、買掛金と支払手形を合計したものです。
これらを、「現金」という視点で考えてみます。
「売上債権」である売掛金・受取手形とは、商品を販売したにもかかわらず、未だに入金のない現金のことです。
つまり、取引先に無利息でお金を貸してあげている状態です。
「棚卸資産」である商品・材料といった在庫とは、すでに支払い済みの現金が、在庫に形を変えて倉庫に眠っている状態のことをいいます。
「仕入債務」である売掛金・支払手形とは、商品を仕入れたにもかかわらず、未だに支払をしていない現金のことです。
つまり、取引先から無利息でお金を借りている状態です。
このように、現金という視点からとらえると、運転資金とは、「本来現金で回収すべき資金が寝ている状態」のことをいいます。
資金が形を変え、現金で回収できるまでの間は寝ているわけですから、当然その分だけ資金繰りはきつくなってしまいます。
つまり、「運転資金の必要額が大きな会社ほど潰れやすい」ということです。
運転資金の必要額が大きな会社は、悲劇的な最後を迎えます。
なぜなら、こうした体質の会社は、売れば売るほどお金が足りなくなるからです。
せっかく苦労して売上を伸ばしたにもかかわらず、また利益が出ているにもかかわらず、運転資金の調達に失敗すれば、その場で会社は潰れてしまいます。
体はどんなに健康体でも、会社にとっての血液である「資金」の流れを止められてしまったのでは、ジ・エンドです。
これを「黒字倒産」といいます。
こうした悲劇を防ぐためには、「運転資金」というものについて、深く知っておく必要があります。
また、銀行の融資制度はもとより、どのような決算書が融資を受けやすいかも知らなくてはなりません。
そうでなくては、せっかくの企業拡大のチャンスを逸してしまうことになりますし、無理な資金調達を行ったため借入返済に追われることになり、最終的に会社を潰してしまうことになりかねません。
「運転資金」は、このカテゴリーのメインテーマですので、ワンランク上のカテゴリーで詳しく解説いたします。
④設備投資の必要性は高くないか?
これは別に、設備投資をするなという意味ではありません。
当然、売上を伸ばすためには機械を購入しなくてはならないケースもあるでしょうし、飲食業などであれば店舗の内装工事も必要になると思います。
注意すべきは、その取扱いについてです。
設備投資は、通常の運転資金に比べて2つの特徴を持っています。
・運転資金よりも、はるかに多額の資金を必要とする場合が多い
・返済期間が長期に渡ることになる
この2つの特徴が、会社にどのような影響を与えるのかについて、「お金」という面から解説してみます。
「儲かっているはずなのにお金が足りない」
これは、経営者であれば必ず一度は経験したことのある感覚だと思います。
このようなギャップを生む原因は、大きく分けて2つあります。
一つは、先ほど説明した「運転資金」という、資金滞留の発生によるものです。
そしてもう一つは、「設備投資」に資金が回ったためです。
設備投資とは、何も製品を製造するための機械設備だけではありません。
店舗の内装工事や、一等地に店を構える必要がある場合の保証金などもこれに当たります。
こうした設備投資の資金というものは、先ほど運転資金のところで説明したように、現金を「使えない状態」にしてしまいます。
その上、返済が長期に渡るため、回収するには時間がかかるのです。
そのため、運転資金に比べて、資金繰りはきつくなります。
つまり、設備投資が必要だということは、それだけ多額の資金を、長期間に渡って使えない状態にする必要があるということなのです。
そして実は、設備投資には、もう一つの大きな特徴があります。
これこそが、会社を倒産へと導く大きなキーワードでもあるのです。
それは、「設備投資は繰り返し行わなければならない」ということです。
長期間に渡り、やっと回収できたと思ったら、すぐ次の機械や修繕、リニューアルが必要になります。
これをやらなければ、競合他社に勝つことはできませんので、会社を存続させる上では必須ともいえる作業です。
「じゃあ、返済している間にお金を貯めておけば良いじゃないか」と思われる人もいるかもしれませんが、実際は、なかなかそう単純にはいかないのです。
なぜなら、お金が貯蓄できたことを示す決算書自体の仕組みに問題があるからです。
私はこれまで、数え切れないほどの決算書を分析してきましたが、設備投資が原因で倒産に至った会社の決算書には、一つの大きな特徴があります。
それは、「設備投資の返済原資に、減価償却費を使い切っている」ということです。
借入金の返済原資は、「税引後当期純利益+減価償却費」の合計額の中から捻出することになります。
「減価償却費」は、当期純利益と違い、実際に会社に残った現金ではありません。
分かりやすく言えば、分割払いの経費のようなものです。
販管費として経費扱いしているため、会計上は、現金が出ていったわけではないので、キャッシュフローとして組み戻して考えるのです。
しかし、会計上はそうかもしれませんが、経営で考えるなら、この「減価償却費」は、将来の設備投資のための「積立金」として考えるべきです。
そうでなくては、会社は永遠に借入を繰り返し続けなくてはなりません。
そのあげくに、金利負担から会社は倒産してしまうことになってしまいます。
決算書のこうした仕組みを知らない経営者は、「借入金を返済できているから大丈夫だろう」と安易に考えてしまいます。
そして、いつまでたっても、「儲かっているはずなのに何でお金が足りないんだ?」と疑問を抱きながら、経営を続けることになります。
設備投資は、やっと回収し終えた時が、新規投資の時期になります。
それならまだ良い方ですが、減価償却費の耐用年数(国で決められた経費化できる期間)は、実際よりも長めに設定されています。
日本の耐用年数は、世界で最も長いといわれています。
これは、税務署が少しでも多くの税金を取るために考えられたものですが、この耐用年数の実態とのギャップが、さらなる悲劇を生み出すことになります。
つまり、減価償却費を使い切って返済を続けていると、前回の設備投資の回収が終わらないうちに、次の投資時期がやって来るのです。
手元には資金が残っていないため、新規投資をするためには、全額銀行の借入でまかなう必要があります。
これを繰り返すことにより、徐々に使えない資金が増加し、最終的には資金繰りの悪化から、会社は倒産に至ります。
しかも、これはすべて、投資した設備が予定通りに回転している場合の話です。
もし、投資した設備が思うように稼動していなかったとしたらどうでしょうか?
店をリニューアルしたにもかかわらず、お客さんが入らない。
新しい機械を導入したにもかかわらず、注文が来なくなった。
こうしたケースでは、減価償却費どころの問題ではありません。
利益自体が上がらないのですから、あっという間に倒産です。
こうしたことからも、「設備投資の必要性の高い会社は潰れやすい」といえるのです。
● 業種ごとに潰れにくさを検討してみよう
前のセクションでは、潰れやすい会社の4つのキーワードについて説明しましたが、まだまだイメージが湧かない人もいるかもしれません。
そこでここでは、4つのキーワードについて、いくつかの業種を例に挙げて説明してみます。
「あなたの会社は、潰れやすい構造を持っているのか」
「これから起業する人は、どんな業種を選べば良いのか」
こうした問題の判断材料にしてもらえたらと思います。
なお、これから述べることは、あくまで一般論であり、同じ業種であっても当然、個別の会社により状況は異なります。
4つのキーワードを理解してもらうための資料として解説しますが、これがイコール、その業種は潰れやすいという意味ではありません。
構造上の特性を知った上で、企業努力をするのが経営者であり、これこそが経営の醍醐味というものです。
自社の経営改善に役立てて頂けたらと思います。
①小売業
三大都市の小売業の平均粗利益率は35.3%。
通常、売上は現金で回収されますが、在庫が多くなりがちなため、当初の予測よりも運転資金が必要となりますので注意して下さい。
店舗を構えた場合は、どうしても売上の増加に応じて人員を配置しなくてはならず、労働分配率は72.4%と高めになっています。
小売業の成否を決める最大のポイントは立地であるため、製造業ほどの設備投資は不要ですが、高額な保証金が必要となる場合もあります。
また、店舗の内装工事が必要となるケースも多く、意外に高額の設備投資が必要になります。
最近では、ネットショップなどで開業するケースもありますが、現実には、特徴を出すことができないため、かなりの苦戦を強いられています。
また、初期投資の小さなショップ形式での参入者も多いため、競合他社との差別化が生き残りのポイントといえます。
小売業は、大手との競争になるケースが多いので、特定分野の品揃えを強化し、それに集中することによって、顧客から選択してもらえる仕組みを構築することが絶対条件となります。
②卸売業
三大都市の卸売業の平均粗利益率は27.2%。
おそらく、今回比較した業種の中では、最も粗利益率は低いといえます。
運転資金については、受取手形での入金や多量の在庫を必要とするため、大きくなりがちです。
労働分配率は74.9%で、小売業と同程度といえます。
卸売業は、粗利益率が低いため、それほど儲かるビジネスではありません。
その上、売れば売るほど資金が不足する典型的な業種といえます。
また、同じ商品を売っているため、競合他社に対して特徴的な優位性を発揮するのが難しい業種でもあります。
ただし、一般的には、在庫資金といった初期投資の金額が大きいため、他社からの参入障壁は高い業種です。
ドロップシッピングのように在庫を持たない形で商売ができれば、意外に未開発の分野ともいえます。
また、卸売業の最大の強みは、圧倒的な商品知識です。
これを武器に、扱う商品は同じにもかかわらず、「商品選択知識の提供」や「メンテナンス業務」を行うことにより、利益を上げている会社もあります。
幅広い商品知識を武器にして、商品自体に付加価値をつけることにより、利益率を高めることが可能だということです。
③製造業
三大都市の製造業の平均粗利益率は38.4%
製造業の最大の弱点は、在庫による資金の滞留です。
在庫量が大きく、その上、売上についても現金になるまでに長期間を要するのが通常です。
受取手形も多くなりがちであるため、運転資金も大きくなります。
また、他業種に比べて、多額の設備投資を必要とすることも特徴の一つです。
数字に強いことが、経営者の絶対条件といえます。
労働分配率は74.5%と、どうしても製造に人員を必要とするため高くなりがちです。
しかし、製造業の場合は、労働分配率よりももっと注意しなければならない数字があります。
それは、設備機械の「回転率」です。
機械による生産の比重が高い業態ですので、会社の生産性は、「機械をいかに効率的に稼動させているか」によって大きく変わってきます。
機械の性能はもちろんですが、生産ラインを目いっぱい使いきっているかどうかが、生産性を左右します。
労働分配率が悪くても、販売が好調で生産数が多くなれば、一気に労働分配率は改善されるというのが、製造業の特徴でもあります。
また、製造業の場合は、オーダーを受けてからの受注生産であることが多く、本来ならそれほど在庫を抱えなくてよい理屈になりますが、生産量がハンパではないために、どうしても過剰在庫となりがちです。
そうした構造上、もし見込み生産を行う場合には、相当の注意を払わなければなりません。
在庫リスクが高くなるため、後で返品の山を見て後悔しても遅いからです。
また、製造業に限らず、こうした固定費型タイプの業種の共通点ですが、売上が増加し、損益分岐点を超えた途端に、加速度的に利益が上がるという特徴を持っています。
これは、生産に必要な固定費を吸収してしまえば、後は原価が下がる一方だからです。
売れれば利益は青天井ですが、売れなければ在庫の山という、まさにジェットコースターのような業種といえます。
④サービス業
三大都市のサービス業の平均粗利益率は63.6%。
この業種は、原材料費が小さいため、粗利益率が高いという特徴を持っています。
仕入が少ないので資金を先払いすることも少なく、同時に、在庫を抱えるリスクもほとんどありません。
また、キャッシュ&デリバリーの業態がほとんどのため、運転資金に悩まされることもきわめて小さいといえます。
設備投資についても、初期段階ではある程度の資金を必要としますが、それ以降の追加融資はそれほど多くありません。
唯一の弱点は、労働分配率が74.1%と高いことです。
他の業種でも、これと似た数字の業種はありましたが、大きく違うのは、効率を上げようにもその手段が限定されていることです。
製造業や小売業であれば、機械化したり流通チャネルを開拓することで、相対的に労働分配率を下げることができます。
しかし、サービス業の場合はそうはいきません。
効率を上げようにも機械化はできず、取引先の増加に比例して人員を増やさなくてはなりません。
つまり、他業種のように、スケールメリットが働きにくいのです。
そのため、サービス業で利益を上げるためには、顧客のリピート率を高めることが成否のカギとなります。
会社にかかる人件費を効率的に活用するためには、作業自体をルーチンワーク化するしかないといえます。
それと、もう一つの特徴は、参入障壁が低いということです。
業態として、これだけ条件がそろっているわけですから、誰でも一度はサービス業への参入を検討します。
かといって、士業のように資格を必要とするわけでもありませんから、営業センスのある人間であれば、誰でも簡単に参入してきます。
総務省統計局の調査によると、3年後の廃業率が最も高い業種は、「インターネット付随サービス業」です。
このビジネスの廃業率は、何と51.6%です。
2位の「労働者派遣業」の33.3%を大きく引き離しての堂々の第一位です。
3年後には、半分以上の会社が倒産してしまう恐るべき業種です。
このデータからも、IT関連企業は新規参入も多いが、撤退を余儀なくされる事業者も多いということが分かります。
誰もが「簡単に儲けることができる」と感じるビジネスは、それだけ競争が激しいということの典型的な実例といえます。
⑤士業
この業種の最大の強みは、在庫がないということです。
会計士・税理士事務所の平均粗利益率は、何と100%です。
運転資金も、売掛金の管理をしている限り、まったく必要ありません。
設備投資に関しても、業態による違いがありますが、製造業などと比べると圧倒的に少なくて済みます。
その上、顧問契約という形をとることが大半であるため、リピート顧客も多く、さらに周辺業務への追加販売へと繋げることも可能です。
至れり尽くせりかのように見える士業ですが、やはりこの業種にも弱点はあります。
それは、労働分配性が極端に高いということです。
上位25%に位置する会計事務所・税理士事務所の労働分配率ですら、87%もあります。
しかも、サービス業と同様、スケールメリットが働きません。
組織を拡大したとしても、シナジー効果はなく、逆に、間接部門の人員が増えるため、かえって一人当たりの労働生産性は低くなってしまいます。
まさに労働集約型産業の最たるものであり、人生の大切な時間を切り売りしている業種といえます。
この業種で成功している人の大半は、かなりのハード-ワーカーです。
週に何度も事務所で寝泊りしていますし、睡眠時間も3~4時間程度です。
体調も壊しがちですし、家族の協力がなければ、とてもやっていけません。
決して、楽して儲かるビジネスなど、この世には存在しないのです。