政策金融公庫融資を勝ち取る開業計画書作成のコツは?
~ コレを知れば「開業計画書」で否決されることはない! ~
● まず大前提知っておくべきことは?
これまでの説明で、「開業計画書がいかに大切か」がお分かりいただけたと思います。
では、どのような開業計画書を作成すればよいのか?
政策金融公庫は、開業計画書のどの部分をチェックしているのか?
ここでは、実際に融資を受けるための「開業計画書作成のポイント」を細かく解説してみようと思います。
その前に、まず知っておいてもらいたいことがあります。
それは、政策金融公庫は本音を言えば、「起業家の開業資金などやりたくないと思っている」ということです。
理由は簡単です。
延滞が多いからです。
開業資金の延滞率は、既存の取引先の融資に比べ、何倍も高くなっています。
その大きな原因は、「自己資金の少なさ」にあります。
私も、年に何度か、公的金融機関の担当者と話す機会がありますが、そのときに必ず聞くセリフがあります。
「本当は開業資金ってやりたくないんですよ。なにせ延滞が多いですから。
政府の思惑もあって、起業家支援ということで仕方なくやっていますが、延滞率を考えたら実績のある先に融資した方が何倍も楽なんです。
特に、自己資金のない人の融資は要注意ですね。そのほとんどが延滞しますから。」
会社法の改正により、資本金がなくても株式会社が設立できるようになりました。
このことは、起業家にとって、追い風であることは間違いありません。
しかし、こと融資に関しては逆風であることも、また一つの事実です。
金融機関が融資判断する際、数多くの数値を分析します。
その経営分析の公式の中で、配点の高い数値のほとんどは、なんらかの形で「資本金の額」に関係しています。
つまり、自己資金が少なければ、ほかの配点が高くても合格ラインまでは到達しないのです。
あなたも長く経営に携わっているとわかると思いますが、会社が倒産する直接の原因は、資金調達能力の不足です。
これが全体の8~9割を占めます。
ましてや、起業当初から運転資金のほとんどを借入に頼るようでは、見通しは暗いといわざるを得ません。
新会社法の施行により、今後ますます資金の乏しい人たちの起業が促進され、結果として、資本金の過小な会社がたくさん出現すると思われます。
もちろん、最初に潰れていくのはそうした会社です。
彼らのほとんどは、開業資金を借り入れに頼っていますから、いまから数年後には、膨大な量のコゲ付きが発生すると予測されます。
当然、その貸付先である公的金融機関は、それ以後の起業家向け融資に対し、厳しい目で審査することになるでしょう。
そうなると、あなたは、唯一の資金調達先である公的金融機関を失ってしまい、資金不足に頭を悩ますこととなります。
政策金融公庫の担当者にとって「自己資金」とは、あなたの「起業にかける熱い想いのバロメーター」なのです。
それは、どんな事業計画書よりも説得力があります。
自己資金が多いということは、「目標に向かってコツコツ貯金できるという意志の強い人」であり、「それだけの準備期間を計画的に過ごしてきた人」と判断できます。
なんの計画性もなく、「ただ起業したかった」という安易な動機の人とは、差別化されて当然だといえます。
いつかはあなたも「自己資金」の大切さが身にしみて分かる時がくると思います。
しかし、分かった時にはもう遅いというのも事実です。
できるだけ自己資金を貯めてからの起業をお勧めします。
話が長くなってしまいましたが、もう一つ知っておいてもらいたいことがあります。
それは、「金融機関が融資を検討する場合、何を重要視しているのか」ということです。
もちろん、あなたの考えている、絵に描いた餅のような成功予測ではありません。
金融機関の融資の審査ポイントは、次の3点に凝縮されます。
1.借りたお金を何に使うか
2.長期に渡り確実に返済できるか
3.貸したお金が回収できる保全はとれているか
ここには、あなたの夢も、起業にかける熱い想いも、全く考慮されていません。
ただ単に、「貸したお金が無事戻ってくるかどうか」だけです。
金融機関は、あなたの会社が上場しようが何のメリットもないわけですから、むしろ当然のことと言えます。
ですので、開業計画書には、上記3点から判断されても、担当者が納得できるだけの内容を書き込む必要があります。
それでは、開業計画書の書き方のコツをお話します。
● 開業計画書の配点について
(左側部分)
(右側部分)
http://www.kokukin.go.jp/mousikomi/index.html
これから、「開業計画書」の書き方について項目ごとに解説していきますが、その前にぜひ知っておかなくてはならないことがあります。
それは、項目ごとの「配点基準」です。
受験の模擬テストも同様ですが、配点基準を知らなければ、点数の低い項目に時間を費やしてしまい、結果として合格点に達することはありません。
融資を勝ち取る開業計画書を作成するためには、各項目の配点を知ることは必須事項です。
開業計画書は、大きく左右に分かれています。
左側が、「あなたのやろうとする事業概要」についてです。
右側が、その「数値計画」になります。
基本的に、政策金融公庫の担当者は、右側の「数値計画」しか見ません。
特に重要視するのは、「必要な資金と調達の方法」の項目です。
起業家の作成した「創業後の見通し」などは、全く信用しません。
ですから、この部分をいくら利益が上がるように作成したとしても、内心、担当者は、「そんなに儲かるなら俺がやりたいよ」と馬鹿にするだけでなく、「こんな夢物語を信じて起業するような奴に、お金など貸せるか」と不信感を募らせます。
配点基準については、上図を参考にしていただければ結構です。
(ただし、この配点は、これまでの実務を通して推測されるものです。政策金融公庫が公表しているものではありませんので、あしからずご了解下さい)
それと、作成について、もう一つ、とても大切なことがあります。
それは、ここに書かれてある、政策金融公庫が公表した記入例をマネて作成すると、ほぼ間違いなく融資は実行されないということです。
「え!?なんで!?」と思われるかもしれませんが、それが現実です。
先に述べたように、政策金融公庫は、本当は起業家になんか融資したくないのです。
海のものとも山のものとも分からない事業なんかに、国の大切な税金を投資したくないのです。
逆に聞きますが、あなたは、この記入例を読んで、作成者の起業に賭ける熱い想いが伝わってきますか?
あなたのお金を投資しても大丈夫だと感じますか?
たった一枚の書類に、あなたの事業計画のすべてを記入するのが、「開業計画書」です。
こんなスカスカの計画書を見せられても、自分の大切なお金を、赤の他人に投資しようなどとは思わないはずです。
ですから、まずは、空欄を作ることなく埋めてください。
これは、開業計画書の作成ポイントの基本中の基本です。
● 各項目の書き方のコツ
事業内容など(15点)
この項目の配点は15点と少ないかもしれませんが、担当者が「一番最初に読む部分」です。
初対面の人間で言えば、「第一印象」に当たります。
ですから、この部分で担当者に好印象を与えなければ、肝心の数値計画の部分も色メガネで見られてしまいます。
配点は少なくても、非常に重要な項目だということを覚えておいて下さい。
1.「開業されるのは、どのような目的・動機からですか」(3点)
政策金融公庫の記入例を見て下さい。
すべて、自分の身勝手な起業動機であることが分かると思います。
もちろん、こんな人物にお金を貸そうとは誰も思いません。
まずここで必ず書いておくべきことは、「公共性」です。
最初に説明したと思いますが、政策金融公庫の大義名分は、「国民生活の向上に寄与する」ということです。
ですから、ここには必ず、「あなたの事業は私利私欲ではなく、世の中の役に立つものだ」ということを強調しなければなりません。
次に書くべきポイントは、「収益性」「成長性」です。
いくら世の中の役に立つとはいっても、儲からなければ意味がありません。
「他店との差別化」や、「マーケットをにらんだ戦略性」を強調してください。
そして最後は、「安全性」です。
「長期に渡って安定的に商売ができる」という点を説明して下さい。
金融機関にとって「安全性」とは、貸したお金を期日通りに返してくれるということです。
開業資金の返済は、通常5~7年に渡ります。
借金を確実に返済するには、5~7年商売を続ける必要があります。
それが可能だということを文章で表現して下さい。
たとえば、エステを開業するのであれば、
「30代前後の若い奥様をターゲットに新興住宅地であるA市に店舗を開設する。
他のエステに比べ、1~2割高めの価格設定になるが、その分他店にはない子供向けのスペースを設置し、気兼ねなくゆったりとくつろいで頂く。
そしていつまでも若々しく輝いてもらい、親子そろって笑顔の耐えない地域に発展することに貢献したいと考えたため。」
というように、お客様に喜んでもらえる開業動機を記入することです。
間違っても、
「人口増が見込まれている地域なので、収益性の面でも問題なく、自分の技能を最大限に発揮したいという夢をかなえるため。」
といった、自分勝手でビジネスライクな表現はしないで下さい。
コツは、「お客様を主人公にして書く」ということです。
決して、あなた自身を主人公にしてはいけません。
政策金融公庫の社会的使命を活用した表現を心がけて下さい。
2.「この事業の経験はありますか?」(8点)
この項目では、最も重要な設問です。
ですから、ここに全神経を集中してください。
この設問の書き方次第では、融資を断られることも多々あります。
ここでのポイントは、「今まで自分がやってきたことが、これからの事業にどうつながるのか」を説明することです。
あなたは、ここの記入例に書かれてある「衣料会社に5年勤務」「ブティックに3年
勤務」という文章を読んで、具体的に事業の成功がイメージできますか?
当然、お金を貸すほうにしたら、「じゃあ衣料会社で、何をやっていたんだ」「そこでどんな実績があるんだ」と考えますよね。
つまり、そういうことを具体的に説明する必要があるのです。
今まであなたのやってきたことが、政策金融公庫の担当者に伝わらなければ、融資がOKだという返事はもらえません。
私のところへ相談にこられる起業家の方でも、これといった経験も実績もないという人も結構いらっしゃいます。
でも、私がいろいろヒアリングしていくうちに、自分でも気が付かなかった才能や経験に気づく方もたくさんいます。
後は、その部分をいかに担当者が納得できるような文章にするかです。
ここに書く経験は、もちろん社会人として経験したことを挙げるに越したことはありませんが、学生時代のものでも構いません。
クラブ活動での経験やバイトで学んだこと、あるいは打ち込んできた趣味でも構いません。
要は、担当者が「それならこの事業に活かせるな」と納得してくれれば良いのですから。
ここではある程度の「こじつけ」も必要です。
自分の過去を棚卸してみて、それをどう事業に活かしていくのかを具体的に考えてみてください。
つまり、あなたの人生のストーリーを表現するということです。
経歴を詐称することはウソになるのでダメですが、あなた自身の物語を脚色するのはOKです。
ある程度までの脚色をすることにより、あなたの経歴がより輝きます。
ただし、くれぐれもやり過ぎないように注意してください。
例えば、内装工事業をやるのであれば、
「大学卒業後、○○建設に就職。内装部門で大手マンション業者を中心に数多くの人脈を築く。
5年後、内装技術の習得だけでなく、お客様の情報収集を営業能力の向上のため、○○不動産に転職。ファミリータイプのマンション営業を担当するが、内装の専門知識とそれまでの人脈を活かし、独自の方法で2年連続トップの営業成績を上げる。
従来からの目標であった自己資金も貯金できたことに伴い、独立する。」
というふうに、自分の経験を上手に表現してください。
これは、他業種からの開業でも同様です。
いかに、「過去の経験を、新しい事業に結びつけるか」がポイントになります。
確かに、同じ業界内での起業のほうが、審査が通りやすいことも事実です。
違う業界の起業だと圧倒的に不利です。
しかし、私のこれまでの経験では、別の業種の起業だからといって、融資が実行されないということは絶対にありません。
担当者の「なぜ?」という疑問に対して、「なるほど!」と思わせるようなストーリーが書ければ、融資は実行されます。
最後に一つだけ付け加えておきます。
それは、学歴は全くアピールポイントにならないということです
これは裏を返せば、「学歴がなくても、融資の可否には関係ない」ということです。
事実、私のクライアントの方でも中卒・高卒の人はたくさんいらっしゃいます。
開業資金のお手伝いもしましたが、ちゃんと融資は実行されました。
私が銀行員のときにも、融資先ごとに「調査書」というものがありました。
そこには、会社の事業内容や役員構成を記入する欄がありましたが、最終学歴の項目は、ほとんど見ませんでした。
なぜなら、その項目は書いても書かなくても良い部分だったからです。
ただし、面接の際、学歴を聞かれたら正直に答えて下さい。
そこで躊躇するようだと、担当者は、「何か応えられない理由でもあるのか」と悪いほうに考えてしまいます。
融資担当者というものは、すべてを疑ってかかっていますので、くれぐれも気をつけてください。
3.「お取り扱いの商品・サービスを具体的にお書き下さい」(3点)
ここでのポイントは2つです。
・お客様は、なぜわざわざあなたの商品を購入する必要があるのか
・その商品を購入することにより、何が得られるのか
この2つを、担当者がイメージできるよう表現しなければなりません。
当然ですが、記入例にあるような「婦人服を~点ほどそろえる」という表現では、何のイメージもわいてきません。
この部分は、開業計画書の中での配点は少ないですが、事業を成功させるうえでは、非常に高いウエイトを占める重要な部分です。
特に、金融機関からの資金調達ではなく、ベンチャーキャピタルや投資家にプレゼンする場合には、最重要項目になります。
新規事業の核となる部分ですので、開業資金の調達のために仕方なく書くというスタンスではなく、あなたの事業が長期永続的に存続するためには、絶対必要な部分だとお考え下さい。
その認識があるかないかで、あなたの会社の将来が決まるというくらい重要な項目です。
それに付随してですが、「金融機関に提出する事業計画書」と、「ベンチャーキャピタル・投資家にプレゼンする事業計画書」の書き方は、全くの別物です。
強調すべき部分も違いますし、事業計画書に書く順番も違います。
それと同時に、あなた自身の人間性を判断する「面接」も重視されます。
間違っても、金融機関に提出した事業計画書をそのまま転用することのないよう、注意して下さい。
ベンチャーキャピタル・投資家用の事業計画書の書き方、面接のコツについては、別のセクションで詳しく説明します。
まず、「なぜ、あなたの商品を購入しなければならないのか」ですが、これは、「いかに差別化できているか」です。
特に、同業他社の多いマーケットや、すでに成熟したマーケットでの起業を考えている場合は、「なぜ、お客様はあなたの店に来るのか」という理由を、お客様の立場からジックリと考えてみてください。
次に、「商品を購入することにより、何が得られるか」ですが、これは、「価格以上の付加価値は何なのか」ということです。
お客様は、最初は好奇心につられ、あなたの商品を購入するかもしれません。
しかし、その商品が、価格と同程度、もしくは期待はずれだった場合、二度とあなたの商品は購入しないでしょう。
そのためには、お客様が購入に際して、「これを買ったらこんなに良いことがある」「これにより現在の悩みから解放される」と、自分の将来についてハッピーなイメージがわかなければなりません。
その「付加価値」を、「どうお客様に伝えるか」が重要です。
例えば、レストランであれば
「当社では、お年寄りと若い女性客をターゲットに、ボリュームがありながらカロリーの低い料理を提供する。
店内もゆったりとくつろげるレイアウトにし、BGMはクラシック音楽中心の癒される空間を演出する。
また、定期的に、成人病・ダイエットに効果のある特別メニューを味わっていただき、その材料レシピと調理方法を情報提供する。
そのほか、各国・各地の体調予防に効果のある調味料などを店頭販売し、お年寄りと若い女性が安心して食事のできる場所を目指す。」
というように、お客様の夢や希望を実現できる仕事であることをアピールして下さい。
最後に一つだけ注意しておきます。
それは、「担当者が読んで、イメージがわきやすい文章にする」ということです。
特に、最近のIT関連の起業でよくあるケースですが、目に見えないサービスを売る場合は、できるだけイメージしやすい表現方法を心がけて下さい。
政策金融公庫が最終的に融資決定を下すのは、40~50代の人間が中心です。
あなたが当たり前のように知っているシステムや技術でも、相手には伝わらないことがよくあります。
ましてや、日進月歩のIT関連事業の場合は、聞いてもサッパリ分からないということもあるでしょう。
金融機関の担当者だからといって、何でも知っているというわけではないのです。
複雑で理解不能な文章を読んで、融資がOKになることはありません。
学生が聞いてもイメージがわくくらいの文章作成を心がけて下さい。
4.「セールスポイントは何ですか」(1点)
これは、取扱商品以外の「売るためのポイント」です。
例えば、
・立地条件 ・品揃えの豊富さ ・24時間営業
・予約のみで待たせない ・有名料理人や職人
・スタッフの多さ ・商品の材質
ここで注意することは、「セールスポイントは、できるだけ絞る」ということです。
アピールしたい点はたくさんあるかもしれませんが、できるだけ1つに絞ってください。
多すぎると焦点がボケてしまいますし、読むほうも、何が「売り」なのか、良く分からなくなり、逆に不安を感じてしまいます。
また、「一つに絞り込む」という作業の過程で、いままで見えなかったものに気づくことも多々あります。
どうしても一つに絞りきれない場合は、2~3あっても仕方ないと思います。
ただし、その場合は、「立地条件」と「予約制」など、違う項目をピックアップしてください。
同じような項目を書き並べても、むしろ逆効果になります。
中には、いくら考えてもセールスポイントが思い浮かばないという人もいると思います。
直接消費者と顔をあわせることのない業種や、逆に、お客様との会話がメインになる業種の場合がこれにあたります。
その場合は、あなた自身の「人脈」や「人柄」をセールスポイントにして下さい。
書き方のコツは、自分の過去の経験をモチーフにすることです。
例えば、「人と話をするのが好き」な性格であれば、
「子供の頃から歴史書を読むのが大好きでした。いまだに月20冊のペースで読んでいるおかげで、たいていの人の相談には、過去の歴史上の人物の行動を例に挙げ、分かりやすく説得力のある話ができます。
従来の税理士と違い、無味乾燥な数字の分析だけでなく、歴史が証明している間違った人間の考え方や行動も、あわせてアドバイスしようと思います。
人の相談に乗るのが、私にとっては至福のときなので、顧客との心の繋がりを目指した業務をやるつもりです。」
というように、あなたの個性や人柄をどうビジネスに結びつけるか、を具体的に表現して下さい。
以上で、開業計画書の最初の項目である、「事業内容など」の書き方のコツを終わります。
冒頭で申し上げたように、この部分は、配点は少ないかもしれませんが、読み手である融資担当者にすれば、あなたの事業計画に対する「第一印象」の部分です。
くれぐれも、手を抜くことのないよう、細心の注意を払って作成してください。
予定の販売先・仕入先(0点)
この項目は、ハッキリいって、埋めておけば大丈夫です。
担当者も、ほとんど見ることはありません。
ただ、注意しなければならないのは、「販売先」の欄です。
この「販売先」は、開業計画書右側の「開業後の見通し」の中にある「売上高」と関連しています。
この「売上高」の部分は、大きなウエイトを占めますので、それについては後で合わせて解説します。
必要な資金と調達の方法(70点)
この項目は、開業計画書において、最も重要な部分です。
特に、「資金使途」と「自己資金」の部分をチェックされます。
これらの部分の重要性については、すでに述べましたので割愛しますが、政策金融公庫の融資判断のほとんどは、この部分で決定します。
「資金使途」とは、「借りたお金を何に使うのか」ということです。
ここには、「設備資金」と「運転資金」の2通りの資金使途があります。
「設備資金」とは、文字通り、会社の設備のために使う資金です。
机やパソコン、コピー機などの備品や、会社で使う自動車などの購入がこれにあたります。
また、事務所を借りるための保証金もそうですし、飲食業や小売店などの店舗の内装に必要なお金も「設備資金」です。
これに対し、「運転資金」とは、仕入れのためのお金や資金繰りに必要なお金のことを指します。
つまり、「運転資金」とは、設備資金以外の資金ということです。
まずは、「設備資金」についてです。
一般的に、金融機関では、遊興費に消えてしまう可能性のある「運転資金」よりも、
きちんとした名目のある「設備資金」のほうが、融資が下りやすくなっています。
ですから、以前より、「設備資金」を悪用する人が数多くいました。
どうしてもお金が必要な人は、わざわざ設備資金として融資を申し込んだりしたのです。
設備資金を申し込むためには、「何を購入するのか」を金融機関に伝え、その「見積書」などが必要になります。
以前は、この見積もりさえあれば、融資が実行されました。
しかし、このシステムを悪用する人が増えたため、今では購入後の領収書まで提示しなければなりません。
例えば、車を購入するのであれば、見積書は元より、販売したディーラーの領収書も必要になります。
しかし、ここにも落とし穴がありました。
金融機関に提出する領収書は、コピーで良いのです。
ですから、この領収書を偽造する会社も数多くいたのです。
そこで今では、領収書だけでなく、直接指定の銀行から自動車販売会社に振り込ませるようになりました。
そして、その後、本当に購入したかどうかを確認するため、車検証を提示させます。
これでもまだ不正があるため、現在では、決算書の減価償却の欄で、いつ、いくらで、どんな車を購入したのかを確認しています。
もしここで不正が発覚した場合には、融資したお金は即刻引き上げられるだけでなく、金融機関のブラックリストにも載ります。
悪質な場合には、刑事告発されるケースもあります。
あなたはそんな悪いことは考えないでしょうが、資金がどうしても必要な場合は、魔がさすこともあります。
くれぐれも自分を見失わないようにして下さい。
次は「運転資金」です。
先ほど説明したように、運転資金というのは何に使われるかわかりません。
酒と女に消えてしまう可能性だってあるのです。
だから、運転資金の申し込みは、簡単にはOKになりません。
運転資金の中で比較的借りやすいのは、「仕入資金」です。
仕入れのための資金であることがキチンと説明できれば、融資は下りやすくなります。
ですから、そのための資料は、確実に提出できるようにしておいて下さい。
「自己資金」については、以前にお話した通りです。
融資額の2分の1ルールや、親・知人からの出資を順自己資金として考慮してもらうための方法については、すでに説明しました。
この項目の配点は、70点と、開業計画書の中では最も大きなウエイトを占めますが、その中でも「自己資金」の部分は50点あります。
つまり、この部分で融資の可否の大半が決まってしまいます。
ですので、私が前に述べたように、できるだけ早めの対応策を準備しておくことが大切なのです。
「他の金融機関からの借入」については、あなたの返済能力と借入先限度額を計算するために使います。
この部分も非常に重要なところなのですが、この計算方法を説明しているとかなり長くなってしまいます。
また、借入先によっては、正直に記入しなくてもバレない先もあります。
このあたりのことについては、書きにくい部分でもありますので、直接ご相談ください。
開業後の見直し(15点)
ここで重要なのは、「売上高」と「利益」の部分です。
前に述べたように、政策金融公庫の担当者は、あなたの事業予想など最初から信用していません。
ですから、この部分にいくら夢のような数字を上げたとしても、安心するどころか、
逆に、あなたの事業計画の甘さが目に付くことになります。
そうなると、通るはずの融資も通らなくなります。
重要なのは、「売上高」の「証拠」です。
すでにある受注の契約者や、取引先の概要がわかるものを添付して下さい。
そうすれば、より信憑性のあるものとして認識してもらえます。
それ以外の場合は、基本的に担当者は信用しません。
残りの項目で合格点が取れるよう、上手く記入して下さい。
「利益」については、「返済できるかどうか」の判断に使います。
当たり前の話ですが、毎月の返済額が、「利益」よりも多いのであれば、融資は下りません。
借入金の返済額をまず計算して、その金額以上の利益が出るように逆算して、数字を埋めていって下さい。
「それはおかしいじゃないか」と思われるかもしれませんが、それが融資というものです。
政策金融公庫の担当者も、あなたの事業が最初から利益が出るなんて考えていません。
大半の事業は、最初の一年間は、赤字になる確率が高いことくらいよく知っています。
だからこそ、名目が欲しいのです。
最初から赤字と分かっている開業計画書に融資をして、返済が遅延でもしようものなら、担当者のクビにかかります。
ですので、彼らにも言い訳の余地を残しておいてあげてください。
厳密に言えば、会社の返済原資は、ここでいう「利益」ではありません。
本来は、「利益」から税金を引いたものに、「減価償却費」をプラスしたものになります。
しかし、開業計画書レベルであれば、そこまで気を使うことはありません。
単純に、ここの「利益」の70%以内に返済額が収まるようにしておけば大丈夫です。
最後に、注意すべきことを一点述べておきます。
それは、この「創業後の見通し」の部分は、「自分の手で書く」ということです。
最近の起業家は、エクセルやパワーポイントを使って、何枚にもおよぶ立派な事業計画書を作ったりします。
こうした書類の見映えを良くすれば、融資が下りやすいと考えているのだと思います。
しかし、これは大きなカン違いです。
そんなものにダマされるほど、政策金融公庫の担当者はバカではありません。
中には、会計事務所で作ってもらった、どうみても本人が作ったとは思えない書類を提出する起業家もいます。
ハッキリ言って、逆効果です。
それでなくても、創業後の見通しなど信用していないところに、他人が作った計画書や、根拠のない数字を羅列したものを見せられたら、はなから、検討しようという気も失せてしまいます。
私も起業家から事業計画書を頼まれることがありますが、その場合は必ず2枚以内にまとめます。
そして、その上で、その資料を本人の直筆で書き写してもらいます
それくらいの細心の注意が必要なのです。
加えて、もう一点述べておきます。
利益を上げるために、売上原価を過小に記入する人がいます。
これも逆効果です。
商売は、業種により、その原価率はほぼ決まっています。
それを過小に評価したのでは、利益を上げるための粉飾だとすぐにバレてしまいます
相手は融資のプロなのですから、姑息な手段をとれば、今後二度と融資を受けることは出来なくなります。
くれぐれもご注意下さい。