● 創業融資(事業開始前・開始後)のポイント
新規開業者の場合、銀行との取引がないのがほとんどですし、担保・保証人が用意できないケースが大半です。
前述したように、そうした人の場合は、政策金融公庫の「新規開業資金」がまず頭に浮かびます。
融資の限度額は4,800万円ですが、担保や保証人が必要なため、実際には無担保・無保証人の限度額である750万円となるケースが大半です。
しかし、店舗や設備が必要な業種の場合だと、もう少し大きな金額の借入が必要となります。
東京都では、創業間もない起業家に対して、最大2,500万円の無担保・無保証人の制度があります。
ですから、政策金融公庫の融資だけでは資金が不足する場合には、保証協会の制度融資の利用を考えて下さい。
それに付随しますが、政策金融公庫と保証協会の制度融資は、「同時に」申請して構いません。
例えば、飲食店を開業される方は、多額の資金が必要になります。
これを、政策金融公庫のみで調達するのは困難ですので、その場合は、保証協会の制度融資も同時に申し込んで下さい。
同時申請であれば、まだ融資してもらっていないわけですから、開業計画書の借入残高の欄に残りの一方を記入する必要はありません。
これが一方の融資を受けた後だと、その部分を記入しなければ、「虚偽申請」になってしまいます。
それと同時に、その場合だと、返済金額が増えますから、返済能力の点で否決になってしますケースも多々あります。
政策金融公庫と保証協会の個人情報はお互い見ることができませんので、両者を有効に活用してください。
なお、これはすべての制度融資についていえることですが、必ず事前に、「開業予定地の自治体の最新情報」を集めて下さい。
制度融資には、利子補給(市や区が利息の一部を払ってくれること)があり、東京23区では、金利が1%程度かそれ以下のところも多いのです。
また、創業融資については、無利子という太っ腹な自治体もあります。
加えて、自治体によっては、保証協会の保証料を全額、または半額免除というところもあります。
ですので、政策金融公庫より実質金利が低いケースも多々ありますし、起業準備段階であれば、「本店登記をどこにするのか」で大きな違いが出てきます。
事務所で登記するのか、自宅で登記するのかによって、20~30万円程度の金利の差はラクにあります。
法人設立費用が丸々浮いてしまうこともありますので、十分情報を入手してから行動することをお勧めします。
①創業融資(事業開始前)
<対象となる人は?>
① 今現在、事業を営んでいない人
② 1ヶ月以内に個人事業主として、又は、2ヶ月以内に法人を設立する予定の人
③ 借り入れ希望金額と同額以上の自己資金があること
④ 許認可事業の場合は、原則として許認可を受けていること
すでに法人を設立してしまった人については、次で解説する創業融資(事業開始後)を参考にしてください。
ただし、法人設立後1年を経過していない場合は、「自己資金」の縛りについては、ほぼ同等の扱いを受けますので、次で解説する「自己資金」について確認しておいてください。
<自己資金とは?>
下記のAからBを差し引いた金額を、自己資金とみなします。
A.創業しようとする方が、事業に充てるために用意した資金
B.借入金
自己資金における注意点とポイントについては、政策金融公庫のところで前述した内容とほとんど同じです。
再度、そちらで詳しく解説した内容と照らし合わせ、落ち度のないよう準備しておいて下さい。
②創業融資(事業開始後)
事業開始前と開始後の融資条件を比較してもらえるとお分かりいただけると思いますが、この2つの融資はほとんど同じです。
以下に、相違点を述べてみます。
1.創業した日から5年未満の法人・個人が対象である
この場合の「創業日」とは、登記簿上の会社設立登記日、又は、売上発生等の、「事業開始が確認できる日」を指します。
ただし、個人で創業し、同一事業で法人成りした場合は、法人設立日から5年ではなく、
「個人で創業した日から通算で5年未満の方」となりますのでご注意してください。
2.信用保証料が高くなる
事業開始前の創業融資の保証料については、一般の料率より低い「特例関係保険」料率が適用されます。
そのため、借入利率は同じでも、事業開始前の保証料のほうが低いため、実質金利は、事業開始後の創業融資のほうが高くなります。
3.担保・保証人が必要になるケースがある
事業開始前の創業融資であれば、自己資金と同額以下の融資については、第三者保証人は100%必要ありません。
しかし、事業開始後の融資については、自己資金の縛りがないため、その分、担保や保証人を請求されることになります。
すでに事業を開始しているため、自己資金の確認が取りづらいことがその要因です。
何度も言うようですが、金融機関の融資において最も重要視されるのは、「資本金」です。
それは過去のデータから、資本金が過小な会社は倒産する確率が極めて高いからに他なりません。
「自己資金の重要性」は、ビジネスを開始する上で、経営者は、必ず念頭に入れておかなくてはなりません。
なお、起業して1年を経過していない人の場合は、自己資金の範囲内の借入であれば、第三者保証人を請求されることは滅多にありませんのでご安心下さい。
③操業計画書の書き方
以下が、東京都制度融資の申し込みに提出する「創業計画書」です。
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/kinyu/yuushi/18sougyou-keikakusho.pdf
見て頂けるとお分かりだと思いますが、内容的には政策金融公庫の「開業計画書」とほとんど同じです。
したがって、書き方のポイントは、政策金融公庫の「開業計画書」のポイントを参考にしてもらえば結構です。
→政策金融公庫の「開業計画書」のポイントはコチラ
政策金融公庫も保証協会も民間の金融機関と違い、「国民生活の向上に寄与する」という大義名分があります。
その点をしっかり押さえて、事業内容や創業動機を書き込んで下さい。
なお、配点についても、政策金融公庫の「開業計画書」と同様ですので、そちらを参考にしてください。
→政策金融公庫の「開業計画書」の配点についてはコチラ
起業二年目からの融資はコレだ!
● 小規模企業融資・自律経営融資のポイント
自立経営融資
どちらも、最も一般的に利用されている制度融資です。
内容的にはほとんど同じですが、決定的に違うのは、「小規模企業融資」は、小規模な事業者向けの融資だということです。
従業員数が、製造業で30人以下、卸・小売・サービス業で10人以下の中小企業に限定されています。
その分、融資利率については、「自律経営融資」よりは低く設定されています。
また、両者とも「信用保証料」の欄が、「保証協会の定めるところによる」とされていますが、過去の保証協会付き融資が遅延することなく返済されていたり、財務内容が優れている場合には、最大0.1%の割引が適用される場合があります。
しかし、金利と保証料を合計すると、資金調達コストは3%を越えることになりますので、政策金融公庫と比べるとコスト高になるといえます。
資金繰りに困った時にはまずコレを!
● 経営支援融資(セーフティネット保証)のポイント
中小企業が、保証協会付きで融資を受ける際に、非常に有利な制度があります。
金利も保証料も優遇されているため、これを利用しない手はありません。
それが「セーフティネット保証制度」と呼ばれるものです。
この制度は、取引先の倒産や取引銀行の破綻などによって、「経営の安定に支障」が生じている「中小企業の資金繰りを助ける」ための制度です。
制度名として、「セーフティネット保証制度」の名称を直接用いてはおらず、東京都では、経営支援融資「市区町村認定書必要型」として分類されています。
名称については、各都道府県により様々ですので、担当窓口でご確認下さい。
上の表でお分かりになると思いますが、金利は1.7%~2.2%以内、保証料は0.4%~0.8%に設定されており、他の制度融資と比較して、非常に低コストでの借入が可能となっています。
その上、この制度は一般保証とは「別枠」で、
1.無担保 8,000万円
2.無担保・無保証人 1,250万円
3.無担保 2億円
が設定されているという、夢のような制度です。
ただし、この制度を利用するためには、銀行と保証協会の審査の他に、市区町村の認定を受けることが必要です。
そして、その認定を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。
これらのうち、最も認定が受けやすいのは、
5号の「業績の悪化している業種」と、7号の「金融取引の調整」です。
1号の「連鎖倒産防止」は、地元で騒がれる程度の大きな倒産が起こった場合に適用されますが、認定を受けるためには売掛債権額や取引比率に条件があり、実際に認定を受けられるケースはあまりありません。
2号の「取引企業のリストラ等による事業活動の制限」については、現在のところ、アメリカ産牛肉のBSE問題の影響を受けている会社等ですが、該当するケースは少ないといえます。
3,4号の「突発的事故」も、今のところ三宅島火山活動の影響を受けている会社に限定されていますので、こちらも少ないでしょう。
6号と8号も非常に特殊なケースですので、一般的ではありません。
最初に述べたように、セーフティネット保証制度の認定を受けるためには、5号か7号に、自社が該当しているかどうかを確認してみて下さい。
該当していれば、認定をもらうことにより、非常に有利な資金調達が可能になります。
以下にそのポイントを述べてみます。
5号:業況の悪化している業種
これは、全国的に不況業種といわれる中小企業者の資金繰りを助けるためのものです。
不況業種として指定されているのは次の業種です。
事業内容によっては、指定業種に該当するかどうかがハッキリしないケースもありますので、分からないときは市区町村の窓口に問い合わせてみてください。
認定を受けるためには、これらの指定業種に属する事業を行っていて、なおかつ最近3ヶ月間の平均売上高が、前年同月期に比べて5%以上減少していることが必要です。
手続きとしては、最近3ヶ月および前年同月期の売上高が分かる資料と、許認可業種であれば許認可証の写しを持って、市区町村の窓口に申請します。
書類から要件を満たしていることが分かれば、認定はすぐにもらえます。
7号:金融機関の合理化に伴う金融取引の調整
これは、金融機関の支店の統廃合などによって、借入が減少していたり、貸出抑制を受けている中小企業の資金繰りを助けるためのものです。
経営合理化を進めている金融機関として指定されているのは、次の銀行です。
認定を受けるためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
① 金融機関からの借入残高の総額のうち、指定金融機関の占める割合が10%以上であること
② 指定金融機関の借入残高が、前年と比較して10%以上減少していること
③ 金融機関からの総借入残高が、前年と比較して減少していること
手続きとしては、指定金融機関とその他の金融機関からの、直近および前年同期の残高証明書と決算書を持って、市区町村の窓口に申請します。
こちらも、書類から要件を満たしていることが分かれば、すぐに認定してもらえます。
● 実行までの流れ
保証協会付きの制度融資の場合は、まずセーフティネット保証の対象となるかどうかを検討してみて下さい。
対象になるのであれば、まず、市区町村の窓口に認定をもらいに行ってください。
どの窓口か分からない場合は、「セーフティネットの認定をもらいたいのですが」と伝えれば、担当窓口を教えてもらえます。
一般的には、商工課などが担当しています。
認定を受けたら、次に、銀行か信用金庫への融資の申し込みをして下さい。
この際、必ず認定書を提出するのを忘れないで下さい。
保証協会の審査が通れば、融資が実行されます。
なお、認定日から保証協会の受付日まで30日を経過すると、認定書の再交付が必要になりま
す。
ですから、認定書をもらったら、必ず30日以内にセーフティネット保証の申し込みを行ってください
返済が苦しいときにはコレ!
● 借換融資のポイント
「借換融資制度」は、保証協会付きの融資について、返済期間を延ばしたり、借入金が複数ある場合にこれらを一本化することにより、毎月の返済額を減らすものです。
保証協会の保証付きで借りたお金の返済が難しくなったときには、ぜひこの制度を利用してください。
毎月の返済額が減ることにより、資金繰りはずっと楽になるはずです。
この借換融資の一番のメリットは、「事故扱いにならない」ということです。
普通、銀行から借りたお金が約定通りに返せなくなり、返済額を減らしたりした場合は、事故扱いになります。
これを「リスケ」といいますが、リスケをすれば、それ以降、銀行からの融資はまず出来ません。
これに対し、借換融資を利用すれば、毎月の返済額を減らしたとしても、事故扱いにはならないのです。
国が設けた制度であるため、銀行との関係も、保証協会との関係も、良好に保たれることになります。
具体的には、既存の保証協会付きの融資を、新しい保証付きの融資に借り換え、一本化することにより、毎月の返済額を減らすというものです。
利用するための要件は以下の通りです。
① 保証協会付きの融資を1年以上約定通り返済していると
② 複数の保証協会付き融資を一本化することにより、返済負担が軽減できること
注意点としては、一本だけの融資を借り換えることは出来ませんし、保証協会付き以外の融資も借り換えることは出来ません。
以下に、借換融資の注意点を述べてみます。
① 借り換えは、まずセーフティネット保証を検討する
既存の借入金が、セーフティネット保証を使っていない場合は、まず自社がセーフティ
ネットの要件に該当するかどうかを検討して下さい。
要件を満たすのであれば、迷わずセーフティネット保証で借り換えです。
金利、保証料ともに、そちらの方が安くなるはずですから、そちらを利用して下さい。
② 「増額融資」もできる
返済期間を延ばすだけでも、資金繰りは非常に楽になりますが、コレだけでは不十分だという場合には、新たな融資を上乗せして実行してもらうことも出来ます。
この方法を使えば、毎月の返済額を減らすだけではなく、新たな資金を調達できますので、二重で資金繰りを改善することが出来ます。
③ 「信用保証料は一括」で支払わなければならない
メリットだらけの制度に感じられる借換融資ですが、一つだけデメリットがあります。
それは、保証料の支払いは、「最初に一括」で行わなくてはならないということです。
せっかく借換によって10年に返済を延ばしてもらったとしても、10年分の保証料を
一括で支払うことになります。
これは、会社にとっては大きな負担です。
分割払いもありますが、それでも「実行時に30%以上の保証料」を支払うことになります。
また、従来よりも金利を引き上げられることも多々あります。
せっかくの便利な制度ですが、申し込んだ後に計画が狂うことのないよう、早めに銀行の窓口に相談することをお勧めします。
④ その後の新規融資が出にくくなる
確かに事故扱いにはなりませんが、借換を行えば、新たな保証協会付きの融資が受けにくくなります。
また、利益が上がっていない会社が、借り換えで返済を引き延ばすことは、「問題の先送り」に過ぎません。
借換融資で一息つくのは良いのですが、その間に「財務体質の改善」や「事業計画の見直し」など、抜本的な問題にメスを入れないと、いつまで経っても資金繰りの問題は解決しません。
借換融資は、会社の問題に正面から向き合う「最初で最後のチャンス」といえるかもしれません。