これまで「政策金融公庫」と「保証協会」の攻略法について述べてきましたが、起業家のあなたが最も知りたいのは、「どの順番で融資を申し込むべきか」ということではないでしょうか。
順番を間違えたために、本来あるべき「無保証人枠」が使えないこともありますし、前もって準備しなかったために、いざという時の資金調達に間に合わないこともあります。
資本の乏しい初期の段階であれば、「いかに効率的に融資を受けるか」ということは、会社の存続にかかわる最重要事項です。
ここでは、起業家にとって最も効率的な融資申し込みの順番について解説します。
それと同時に、それぞれの融資制度の注意点も述べてみます。
大切なことですので、起業家であるあなたは、必ず頭の中に入れておいて下さい。
① 起業時
起業時には、政策金融公庫・保証協会ともに、創業支援のための融資がありますが、第三者保証人がいないケースでは、「自己資金と同額まで」しか借りられません。
ですから、起業を決意した段階で出来るだけ自己資金を貯めて下さい。
自己資金額以上に資金が必要な場合の借り方については、これまで述べた方法を参考にしてください。
また、この時期で注意しておいてもらいたいのは、起業6ヶ月を経過した時点から、
「商工会議所や商工会の経営指導」を受けておくということです。
創業後1年を過ぎると、マル経融資を申請できる条件がそろいますので、事前に準備をしておくことが大切です。
「商工会議所の推薦」があれば、過去に延滞がない限り、かなりの確率で融資を受けることが出来ます。
その際の判断基準で最も重視されるのは、「返済できるかどうか」という点です。
つまり、「年間の借入金返済額の合計」が、「当期利益+減価償却費」の範囲内に収まっているかどうかです。
なお、この算式では、借入金の返済が捻出できない場合には、「役員報酬額の一部を返済原資」として組み入れてもらって下さい。
そのあたりの注意点については、すでに説明しました。
また、マル経融資は、政策金融公庫の他の制度で融資を受けたばかりの人は利用できません。(通常1年以上経過していることが条件になります)
それと同時に、ほかの金融機関の融資を含めて「4,000万円以上の残高」があると利用できません。
これらの点にもご注意下さい。
② 起業1年後
起業時の融資判断は、自己資金の額が基準になりますが、事業を開始して1年を経過すると、一気に資金調達の道が開けます。
もちろん、ある程度の財務内容であることが大前提ですが、1年経てば、決算書次第では、かなりの額を無担保・無保証人で借りることができるようになります。
政策金融公庫の「マル経融資」については前述した通りですが、それ以外で必ず知っておかなくてはならないのが、「保証協会付きの制度融資」です。
その中でも、「これだけは絶対!」といえるのが、市区町村による「特別小口資金」と、都道府県の「小規模事業融資」です。
「特別小口資金」は、市区町村によって取扱いが異なるため、すべての説明は出来ませんが、一般的には1,250万円を限度として実施されます。
(地域によりこれより少額のケースもあります)
その上、多くの市区町村で利子補給を行っているため、地域によっては、政策金融公庫よりも安く借りることが出来ます。
要件として重要なものは、以下の2点です
・対象となる市区町村で1年以上事業を営んでいること
・市区町村税の納付を滞納していないこと
市区町村に認定してもらい、保証協会の審査が通れば、ほぼ確実に融資を受けることが出来ます。
ですから、役員報酬を減額してでも、何とか「黒字」を獲得し、少しでも良いから「納税」して下さい。
たった数千円の節税が、会社を死に追いやることもあります。
市区町村の「特別小口資金」の枠を使い切ったら、次に利用するのが都道府県による「小規模事業融資」です。
この融資は、一般的に、単体で1,250万円、市区町村の「特別小口資金」と合わせて、
2,000万円の融資枠を持っています。(東京都の場合では最大8,000万円まで可能です)
「特別小口資金」に比べれば、利子補給を実施している自治体は少ないのですが、それでも金利は優遇されています。
こちらの要件も、「特別小口資金」と同様に、1年以上事業を営んでいることと、納税していることです。
ちなみに納税については、赤字の会社であれば法人住民税と消費税しか発生しませんので、そちらを完納していれば、融資の対象にはなります。
しかし、そうはいっても赤字の会社であれば、保証協会の審査が通りにくくなることは否めません。
それと同時に、市区町村の「特別小口資金」については、「代表取締役であるあなた個人の税金が未納であれば、融資の対象にはならない」ケースが大半です。
ですから、市区町村民税などの個人の税金については、申し込み前に「完納」しておいてください。
ここで、非常に重要なことを一点述べておきます。
それは、最初に都道府県の「小規模事業融資」を使ってしまうと、もう市区町村の「特別小口資金」は利用できないということです。
なぜなら、市区町村の特別小口資金の利用条件が、「他の保証協会の利用残高のない人」となっているからです。
借入の順番を間違えただけで、せっかくの無担保・無保証人枠を無駄遣いしてしまうことになります。
これは非常に大切なことなので、よく覚えておいて下さい。
なお、政策金融公庫のマル経融資については、保証協会付の融資ではありませんので、この制約は受けません。
ただし、前述したように、政策金融公庫の融資を保証協会を付けて使った場合には、この制約を受けることになります。
くれぐれもご注意下さい。
③ 起業2年後
起業2年を経過すると、政策金融公庫・保証協会に加えて、民間金融機関の無担保・無保証人融資が受けられるようになります。
それが、一般に「ビジネスローン」と呼ばれるものです。
これは審査も早く、融資限度額も1,000万円~1億円と大きいため、起業家にとっては夢のような商品です。
その上、この商品は、従来のように銀行との取引が全く無くても構いません。
会社の財務内容さえ良ければ、初めての銀行でも数千万円単位で融資してもらえます。
このように良いこと尽くめのビジネスローンですが、ただ一点最大の難関があります。
それは、「決算書」です。
決算書の分析数値が、ある一定以上の点数を獲得しないと、融資の対象にはなりません。
銀行も取引の無い会社にお金を貸すわけですから、それ相応の財務内容を要求するのは
当然といえば当然です。
もちろん、銀行が審査する決算書の主要数値は決まっています。
ただし、それは1つや2つの数字ではありません。
100近いさまざまな数値をコンピューターで分析します。
一般の中小企業の決算書レベルでは、到底合格点には達しません。
しかし、ビジネスローンは、会社が生き残るためには避けては通れない資金調達の手段です。
経営者であるなら、必ずマスターする必要があります。
ビジネスローンの分析数値については、別のカテゴリーで詳しく解説しますので、そちらを参照下さい。
また、2年を経過すると、国民金融公庫の「第三者保証人等を不要とする融資」を受けることが出来ます。
これは従来には無かったもので、国民金融公庫が中小企業のニーズにこたえるため創設されました。
要件として重要なものは、以下の2点です。
・税務申告を2期以上行っていること
・所得税等を期限内に完納していること
マル経資金と同様に、第三者の保証人を必要とせず、期間は運転資金で5年、融資枠は単独で1500万円になっています。
マル経とは別枠ですので、「融資枠が広がった」と喜ばれるかもしれませんが、一概にはそう言えません。
実は、国民金融公庫では、内部規定で、1社あたりの無担保融資枠を1500万円に定めている場合が多いのです。
ですから、マル経や他の無担保融資と合わせて1500万円以上の融資を受けることが出来ない場合がありますので注意してください。
最後になりますが、こうした起業家向けの融資制度については、銀行員は、あなたが思っているほど詳しくありません。
その上、融資制度の条件自体も頻繁に改正されます。
また、各自治体で、利子補給や保証料の減免、保証人条件の緩和など、独自の有利な融資を実施しているところも少なくありません。
ですので、融資は銀行員に任せるのではなく、あなた自身の手で最新の情報を入手することが大切です。
各自治体のホームページを確認したり、担当部署に問い合わせして、常に最新の情報を手に入れてください。
あなたが思っている以上に、中小企業を支援する制度があることに気づかされると思います。
以下は、資金調達の情報が掲載されているサイトの一部です。
東京都にある中小企業向けの資金調達に関するサイトを集めてみました。
東京以外の各地方自治体のサイトについては、各々個別に調べていただければと思います。
ぜひ参考にしてみてください。
●国民生活金融公庫
政策金融公庫の実施する融資の詳細を解説
●東京商工会議所
国・東京都・各区の制度融資を解説
●東京都産業労働局
東京都が実施する制度融資・助成措置を解説
●GIAC
関東圏1都10県ごとに利用可能な融資を掲載
●中小企業金融公庫
政策金融公庫よりはやや大きな企業向けの融資を実施
●E-LOAN
銀行およびノンバンクが実施するビジネスローンの比較