変貌する融資の現場から何が分かるか?
● 時代は大きく変わった
ここ一年で、世の中の状況は大きく変わってきました。
新聞やテレビでは、景気の回復を感じさせる情報が数多く見られるようになってきましたし、以前のように、金融機関の「貸し渋り」「貸し剥がし」といった話は、ほとんど聞かなくなりました。
「景気が良くなると、やはり違うなぁ」と、あなたは感じられているかもしれませんが、これは、現状の資金調達がスムーズになっているため、そう感じるだけであり、実は、その陰に隠れて、いろいろな点で変化が起きているのです。
そして、その変化は、起業家にとって、将来の大きな問題に結びつきかねないような変化でもあります。
その大きな流れとは、「融資先の差別化」です。
今後は、「借り入れがどんどん出来る会社」と「借り入れが出来ない会社」に選別されることになります。
景気回復の恩恵に浮かれていると、あなたの会社だけが、いつの間にか、どこの銀行からも相手にされないという事態になりかねないのです。
ここでは、そうならないための銀行との付き合い方について述べてみます。
私は銀行に10年勤務した後、金融会社をへて、企業の再生業務に取り組みました。
その過程で、数多くの融資案件の手助けを行い、銀行融資については隅々まで知り尽くしています。
私の業務の中で、最も得意とする分野です。
私がこれまでの経験から知り得た銀行の「急所」と、現役の銀行員の立場からは決して口にできない「本音」をお伝えしますので、起業家の銀行攻略にはこれ以上ないものだと思います。
今後の、あなたの会社の銀行取引を、有利に進めるための指針にして頂けたら幸いです。
● 最近の融資事情と借り入れのポイント
バブル崩壊から10年が経過し、かつては貸し渋りや貸し剥がしとまで非難された、銀行の融資引き締めの時代は終わりを告げました。
銀行の融資に関する記事では、「創業支援」という文字が目に付くようになり、銀行は今、お金を貸す先を必死になって探しています。
起業家にとっては、まさに絶好のチャンスかのように思えます。
しかし、実は、これがチャンスとなるかどうかは、あなたしだいなのです。
銀行からのお金の借り方を知らなければ、本当のチャンスを手にすることはできないのです。
ここで、最近の貸し出し事情について簡単に説明します。
ご存知のように、銀行はバブル崩壊により、多額の不良債権をかかえることになりました。
そして、自己資本比率や引当金の負担から、銀行自体の経営も立ち行かなくなり、銀行が倒産するという非常事態を向かえることになります。
銀行は、企業にお金を貸すどころか、スキあらば回収して、我が身を守ろうとしました。
いわゆる、貸し渋り・貸し剥がしといわれる行為です。
これにより、銀行からの融資で資金繰りをつないでいた企業は、次々と倒産を余儀なくされたのです。
あれから10年、業績の悪化した融資先は、貸出金額の大きいものから順番に引当金が積まれ、ほぼその処理は終わりました。
これが、いわゆる不良債権処理といわれるものです。
銀行を苦しめていた不良債権も、2005年4月のペイオフ解禁をもって、その処理の目処がたってきたのです。
そうなると、残るは、中小企業の不良債権処理だけです。
貸出金額の大きな不良債権処理が終わった今、銀行業界では、融資先の再生がテーマになってきています。
これを業界用語で、「リレーショナルシップバンキング」といいます。
実は、この動きは、すでに4~5年前から始まっています。
しかし、そのころ銀行では、不良債権の処理もしなければならず、そのためにはそれだけの利益も上げなくてはならないため、
とても融資先の再生どころではなかったのです。
けれど、ここにきてやっと、再生に取り組めるだけの状況が整ったというわけです。
中小企業にとって、銀行から融資を受ける最高のチャンスが到来したといえます。
しかし、そうはいうものの、銀行にも課題はあります。
それは、融資先が不良債権から「正常先に戻れるかどうかの判断をしなければならない」ということです。
ご存知のように、融資判断というものは、決算書の赤字・黒字だけで決定されるものではありません。
そこにはさまざまな要素が加味され、いわゆるグレーの部分の判断が融資の可否を決定付けます。
この傾向は、小さな企業であればあるほど、大きなウェイトを占めるようになります。
そうでなければ、ほとんどの中小企業は、融資など受けられる財務内容ではありません。
銀行融資というものは、すべてが四角四面の理屈通りに行われているわけではないのです。
しかし、悲しいかな、この、小さな企業にとって重大なウェイトを占める「グレー」の部分は、銀行で長年融資を担当していた人間でなければ知ることはできません。
知ることができなければ、対処のしようもないということです。
私は仕事柄、資金繰りに苦しむ数多くの経営者の方から、融資の相談を受けます。
当然ながら、そのほとんどは業績の良くない会社です。
私が経営者から決算書を見せてもらい、真っ先に見るのは、借り入れの内訳明細書です。
つまり、「どこの銀行からいくら借りているのか?」を見ます。
これが、融資交渉においては、非常に重要なカギになってくるからです。
そして、次は、その銀行の経営状況を調べます。
それにより、融資をしている銀行が、どんな反応をしてくるかの目処を立てます。
次のポイントは、「どんな借り方をしているのか?」です。
借り入れが長期なのか、短期なのか。
また、保証協会付きなのか、ビジネスローンなのか。
こういう観点から決算書を見ると、思わず首をかしげたくなるのが中小企業の決算書です。
固定資産の借り入れを短期で行っていたり、一時的な工事立替代金にもかかわらず、長期の借入金になっていたり。
これでは、資金使途と返済期間が一致しませんので、たとえ黒字であっても資金繰りに苦しむことになります。
そして最後に、「それらの借入れをどこの銀行でどうやっているのか」のバランスによって、どの銀行にいくら申し込むのかを決定します。
このあたりのバランス感覚と銀行交渉術は、銀行内部の審査基準を熟知している者でなくては分かりません。
業績の良い企業であっても、意味も無くメガバンクとだけ取引していたりだとか、金利が安いという理由だけで何も考えずに融資を受けたりしています。
「これでは、次にお金が必要になった時には、申し込む銀行がない」という状態です。
ましてや、業績の悪い企業であればなおさらです。
業績の悪い会社の場合は、銀行が融資を断ろうと思えば、いくらでも理由は見つけられます。
銀行が考えているのは、「貸せるか貸せないか」だけですから、あなたが納得しようがしまいが、そんなことは関係ありません。
中小企業、特に起業家レベルの融資の場合、銀行からお金を引っ張るコツは、「いかにして、断られる理由をつぶしていくか」です。
さらに一歩進んで、「いかにして、銀行を貸したい気にさせるか」「その根拠をどれだけ用意できるか」にかかっているのです。
● 融資先は今後どのように差別化されるか
2006年4月から、信用保証協会の保証の仕組みが大きく改定されました。
この改定は、今後の融資事情を示唆するものであり、決して安易に考えるべきものではありません。
では、どこがどのように変わったのでしょうか?
ここでは、その改正点と、今後予想される貸し出しの流れについて述べてみることにします。
①保証料率の差別化
従来の保証協会では、財務内容の良好な企業もそうでない企業も、原則として、1.35%という同じ保証料率を負担していました。
ところが、今回の改定により、財務内容の良い企業の負担は軽くし、内容の厳しい企業については重くするようになったのです。
ただし、このように企業の経営状況により9区分の保証料率に変更されたとはいえ、まだまだ正確に財務内容を反映した料率とはいえません。
本来、保証料率は、保証協会の代弁率を反映したものであるべきですので、財務内容の悪い企業であれば、10~20%の保証料率も十分ありえます。
しかし、今の改正では、最も負担の重い保証料率は2.2%に過ぎず、最高の財務内容の企業でも0.5%ですから、その差はわずか1.7%しかありません。
このように、今回の変更は、実際の利用者からするとさほどの負担にはなりません。
逆に言えば、大きな騒ぎにならないように、最新の注意を払って改正に踏み切ったといえます。
しかし、ここでの注目点は、「差別化の制度を導入した」ということです。
これは、今後の起業家にとって、大きな急所となりかねない重大な改正といえます。
つまり、ここで「差別化」という実績を作ってしまえば、今後は、「適用料率を変更する」だけで保証負担を重くすることができるわけです。
これにより、財務内容の良くない企業は、保証協会を利用して融資を受ける場合でも、大きな負担を覚悟しなければならなくなります。
起業家にとって保証協会付きの融資は、絶対になくてはならない存在です。
これが困難になるということは、すなわち、金融機関からの資金調達が難しくなるということなのです。
なお、保証協会の保証料率決定の仕組みについては、今のところ開示されていません。
ただし、何を基準にして決定しているのかは分かります。
それは、中小企業信用リスク情報データベース(CRD)と呼ばれるものです。
CRDは、経済産業省、中小企業庁の主導により、全国100万社の中小企業の財務データを用いて構築されています。
業界内での各財務指標の優劣を比較できるだけでなく、債務不履行に陥った企業と比較することで、経営の危険度についても知ることが出来る、日本最大のデータベースです。
CRD協会のホームページには、「経営自己診断システム」があり、あなたの会社の財務数値を入力するだけで診断結果が表示されます。
保証料率決定の基礎となるものですので、一度試してみるのも良いかもしれません。
②連帯保証人の免除
これまで金融機関から融資を受ける際には、連帯保証人を求められることが少なくありませんでした。
そして、そのことが財務内容の厳しい中小企業にとって、借り入れを困難にする理由の一つでした。
今回の改正で、信用保証協会では、法人の借入れの場合、一部の例外を除き、代表者以外の連帯保証人の徴求が不要になりました。
さらに、これまですでに連帯保証人を徴求している融資についても、更新時には、原則として連帯保証人を徴求しないとしています。
しかし、本当に今回の変更は素直に喜んで良いものでしょうか?
そもそも連帯保証人とは、貸し倒れが発生した場合、そのリスクを軽減することが目的で徴求するものです。
連帯保証を単純にはずして、貸し倒れ負担に影響がないのであれば、もっと早くからこうした変更が行われていたはずです。
連帯保証人なしで融資を受けた企業が、これまでと同水準もしくはそれ以上の倒産を発生させたなら、この制度の改定は意味が無くなってしまいます。
そうなった場合、どのようなことになるでしょうか?
「やはり連帯保証人を徴求する」ということになれば、政策の失敗を国が認めることになります。
そうであれば、「連帯保証人がいなくても大丈夫な企業にだけ、保証を認める」ということになるのは目に見えています。
つまり、今後は、これまでよりも借り入れが難しくなるということです。
③部分保証制度の導入
「部分保証」とは、信用保証協会の保証を前提とした借り入れであっても、これまでのように全額を保証協会が保証するのではなく、一定の部分については銀行がリスクを負担するというものです。
例えば、3,000万円の融資の場合、これまでは保証協会が全額保証していましたが、部分保証制度の比率が70%の場合には、保証は2,100万円までで、残りの900万円のリスクについては銀行が負担することになります。
つまり、これにより、「銀行が確実にリスクを負う部分が発生する」ということです。
こうなると銀行は、これまで多少の不安のある融資先については保証協会付きの融資で対応していましたが、自分のところでリスクを負うのであれば、当然審査基準は厳しくなります。
これまで当たり前のように受けてもらっていた融資が、いきなりストップすることも考えられます。
これまでの説明でお分かりのように、公的・制度的な借り入れにおいても、一見公平化が進むように見えて、実は融資先の差別化が進んでいるのです。
今後は、「どの金融機関からも資金調達できる会社」と「どこからも相手にされない会社」に、明確に区別されることになります。
銀行からの借り入れにおいて、保証協会の占める位置づけは、ますます高まっています。
銀行は、これまでのように不動産担保を重視するのではなく、保証協会の保証を好むようになっているからです。
だからこそ、ここで説明した保証制度の変更が、あなたの会社の銀行からの借り入れそのものに、直接結びつくものであることを知っておいてもらいたいのです。
そして起業家であるあなたは、「銀行から資金調達するにはどうすれば良いか」を真剣に考え、今からその準備をしておく必要があるのです。
融資取引に有利な会社形態と銀行選びとは?
●なぜ法人化した方が有利なのか?
2006年5月から新会社法が施行され、新聞、雑誌はもとより、これに関連する書籍が数多く出版されています。
しかし、それらの書籍のほとんどは、「新会社法によりどんなことが可能になったか」という手続き上の問題や制度上のメリットを説明しているだけであり、「融資を受ける立場」から書かれたものは、ほとんど見られません。
これは、書いている人自身が、その道の専門家であるため、借り入れに苦労した経験がないのですから仕方のないことかもしれません。
しかし、起業家であるあなたが本当に知りたいのは、「新会社法において銀行取引を有利に進めるためにはどうしたら良いか」ということではないでしょうか?
ですので、ここでは、「銀行融資」という点に絞って、法人設立から銀行選びのコツまでをお教えしたいと思います。
まずは、法人設立についてです。
すでにあなたが会社の代表者であるなら、今後も大きな変化はありません。
設立に資本金が必要なくなりましたので、ライバル会社が増加して競争は激しくなるとは思いますが、銀行取引については従来通りです。
問題は個人事業主の場合です。
あなたが現在、個人事業主で、今後事業を拡大していきたいと考えているのであれば、できるだけ早目に法人化すべきです。
なぜなら、事業を拡大していくためには、金融機関からの資金調達が必ず必要になり、そのためには「法人の方が有利」だからです。
「法人か個人事業主か」という問題は、よく税金面を中心として議論されますが、実は、それ以上に「今後の資金調達」の面から検討されるべき問題です。
もちろん、個人事業主であっても金融機関から借り入れをすることはできます。
しかし、その幅はかなり限られているのが現実です。
今回の新会社法の施行における最大の変化は、新たに法人化しようと考える起業家が激増するということです。
その結果として法人形態が増えた場合、金融機関は「法人」と「個人事業主」のどちらの融資に積極的に取り組むと思いますか?
銀行内部の人間でなければ分からないと思いますが、実は、銀行員は、個人事業主の財務諸表については苦手意識を持っています。
ビックリされたかも知れませんが、銀行員が「決算書」の数字に詳しいのは、特に会計の勉強をしているからではなく、膨大な数の決算書を見て経験を積んでいるため、結果的にそうした知識を身に付けているだけなのです。
ここで「決算書」といいましたが、「決算書」とはあくまで「法人」の財務諸表のことで、「個人事業主」のそれではありません。
もちろん、個人事業主の場合でも、青色申告をしている場合には財務諸表の作成が義務付けられています。
しかし、個人事業主の作成する財務諸表は、法人と比較して、正確性の面で信用に足るかどうかと聞かれれば、疑問だと言わざるを得ません。
また、個人事業主の決算書には、法人の場合では見たことも無い「元入金」や「事業主貸」「事業主借」などの勘定科目も数多くあります。
さらには、こうした財務諸表の作成方法も、人によってかなりの違いがあります。
したがって、普段目に触れることの少ない個人事業主の決算書について、銀行員が苦手意識を持つのは当然なのです。
ましてや、現在の銀行融資は、効率を一番に考え、機械的に融資案件を処理するようになっています。
個人事業主の決算書のように、多岐にわたる特殊性は、現在の銀行の融資体制と、そこで働く銀行員には馴染まないといえるのです。
新会社法の施行により、今後ますます法人は増加していきます。
その結果、どのようなことが起こるでしょうか?
融資量の拡大を目指す銀行は、こうした個人事業主向けの融資には、積極的に取り組まなくなる可能性が大です。
そのため、あなたが個人事業主という形態を取る限り、資金調達の面で苦労を強いられることになると考えます。
「法人か個人事業主か」について、ほとんどの人が議論する内容は、「税金はどちらが得か?」ということです。
私から言わせてもらえば、そんなことは儲かってから考えても十分間に合います。
もちろん、私が直接相談を受ける場合には、考えられるあらゆる情報をお聞きした上で、最良の事業形態と今後の方針を提示します。
その場合でも、あなたの会社が明らかに初年度から利益を計上でき、それがしばらくの間続くことが見込まれない限り、税金対策など必要ないのです。
今後の人生を左右する、会社の「継続」に絶対必要な「資金調達」を無視した議論は、私にしてみれば、経営を知らない人達の戯言のような気がしてなりません。
まるで、当たってもいない宝クジの使い道をあれこれ考えている平和ボケしたサラリーマンの発想です。
経営者になったのであれば、小さな金銭的な損得ばかりを先行させる考え方は捨てるべきです。
その先には、あなたが想像もしないような大きな地獄が待ち受けているのですから。
●法人であればそれで良いのか?
融資を前提として考えた場合、注意すべき点は、あくまでシンプルな「株式会社」の形態をとることです。
新会社法についての書籍を読むと、「LLC」「LLP」といった、何となくカッコイイ、時代の先端を行くような響きのある会社形態が解説してあります。
説明を見ると、確かにメリットがあるような気もするかもしれませんが、こうした形態は、少なくとも銀行融資を考える上では何の役にも立ちません。
むしろ、弊害の方が多いといえます。
確かにLLCやLLPは、事業内容や仕事をする仲間によっては、効果的な組織形態といえるかもしれません。
しかし、あなたの会社が、黙っていても銀行が寄ってくるような特殊なノウハウを提供する事業内容であるならともかく、通常の資金調達が必要なのであれば、この特殊な形態は、かえってマイナスに働くことになります。
なぜなら、銀行が融資をしようと思っても、どんな点に注意しなければならないかが分かりにくいからです。
もちろん、銀行サイドも、こうしたケースに備えて融資マニュアルを整備すると思います。
しかし、実際に融資案件を採り上げ、実行するのは「現場」なのです。
あなたもご存知のように、銀行というところは「ミス」を極端に嫌います。
一度の失敗で、一生、暗い書庫室で書類の整理をするということもあり得るのです。
黙っていても、熟知している「株式会社」から融資の申込みがあるのに、なぜよく分からない「LLC」や「LLP」を相手にする必要があるのでしょうか?
あなたは、「プロなんだからそれくらい勉強しろよ!」と文句の一つも言いたくなるかもしれませんが、そんなことを言ったところで何が変わるわけでもありません。
であれば、今現在の融資事情に合わせて、自分にとって最も有利な状況を準備することが、本当のプロの経営者といえるのではないでしょうか。
起業家に対する融資の最大の問題は、実行に至るまでに「手間がかかる」ことです。
そして、銀行の課題は、それを「いかに効率良く進めていくか」です。
通常の企業であれば、過去3期分の決算書の数字を分析し、「この会社ならいくらの融資が可能か」を決定します。
しかし、起業家の場合は、過去の数字を見てもたいしたことはありませんし、独立したばかりであれば、3期分の決算書が揃うどころか、実績すらない場合もあります。
銀行員も人間ですから、実行できそうなものから順番に処理していくことになります。
私がLLPやLLCを勧めないのは、ただでさえ忙しい現場が、マニュアルを見ながら、馴染みの無いこうした特殊な形態の会社に対して、積極的に融資を取り組むとはとても考えられないからです。
もちろん、会社形態は、これから行う事業によって決められるべきです。
しかし、今後の融資を考えた上では、起業家にとって「大きな障害となる可能性が大」だと言わざるを得ません。
どんなビジネスでもそうですが、「本音」と「建て前」を区別し、それにうまく対応できた者だけが生き残ることができるのです。
●なぜ起業家には信用金庫が最適なのか?
ここ数年、起業家からの相談を受けることが多くなりましたが、その中でも特に多いのが、「どの銀行と取引したら良いのか?」というものです。
そして話を聞いて感じるのは、「何も分かっていない」ということです。
当然、あなたは経営者になって間もないわけですから、それは当たり前のことだと思うのですが、「銀行選び」は、会社にとって最重要課題の一つです。
この選択一つで、会社が生き延びることもあれば、潰れることもあります。
その理由を話していたら一冊の本になりそうなので、ここでは、起業家レベルで最低限知っておいて欲しい「銀行選びのコツ」について述べてみます。
もし現在の銀行選びが間違っていると感じたら、早急に、あなたの会社に合った銀行と取引できる方向にもっていって下さい。
中小企業の場合は通常、「預金」「決済(振込みや引き落し)」「融資」の3つの機能を求めて銀行と取引します。
その内、「預金」と「決済」については、預金金利や手数料を銀行間で比較しても、その差はたかが知れています。
一番差があるのは、「融資」です。
各銀行の融資体制を見極めた上で銀行を選ばないと、企業の生命線でもある「資金調達」の面で、何の役にも立たないということになってしまいます。
「銀行取引」イコール「融資取引」だと考えて下さい。
起業家の「銀行選び」について、結論から先に申し上げます。
最初に選択すべき銀行は、「信用金庫」か「信用組合」です。
以下、その理由について述べてみます。
①融資の判断基準が甘い
同じ金融機関とはいっても、銀行と信用金庫・信用組合では、大きな違いがあります。
銀行は「株式会社」ですが、信金・信組は株式会社ではありません。
つまり、営利の追求を第一にしているのではなく、地域の組合員の相互扶助を目的にしているという特異性を持っています。
もう一つの特徴は、営業地域が限定されているということです。
信金・信組の支店が、全国に点在することはありえません。
また、信金・信組が融資を行うことのできる企業も限られています。
それぞれの業種により、資本金や従業員数などの企業規模に限度があるのです。
つまり、これらのことから分かるように、信金・信組は、「地域の中小企業のためにある金融機関」といえます。
信金・信組レベルの規模であれば、メガバンクや地方銀行のように、信用格付けやビジネスローンのためのコンピューターシステムの導入は、コストがかかり過ぎてしまいます。
仮に導入したとしても、限られたエリアでしか営業していないため、大量のデータがあるわけではありません。
さらに、利益追求を第一にしているわけではないので、メガバンクのように、大企業向けの評価システムをそのまま地域の中小企業に適用していいのかという問題もあります。
同じ評価方法を採るのであれば、「どこにも融資できない」という結果になりかねません。
つまり、同じ業績の中小企業を評価した場合、「銀行よりも信金・信組のほうが甘い」ということです。
②格付けが上位にランクされる
「信用格付け」のカテゴリーで述べたように、企業の評価や格付けの方法は、銀行の規模によって違います。
メガバンクは「定量評価」オンリーですが、地銀や信金・信組は、「定性評価」もある程度加味してくれます。
つまり、経営者の人柄や会社の技術力といった、数字には表わしにくい部分も評価対象にしてくれるのです。
そのため、メガバンクで「要注意先」との低評価を受けた企業であっても、信金と取引を始めると、いきなり「正常先」にランクアップし、積極的に融資を勧められるケースも珍しくありません。
例えば、メガバンクの場合だと、「資本金が1,000億円以上、自己資本比率が60%以上」の会社でなければ、その時点で100点満点中60点からのスタートとなります。
中小企業レベルで、そんな財務内容の会社など皆無です。
いかにメガバンクと取引すると不利かということです。
こうしたことを知らない人は、つまらない見栄やメンツで、無理してメガバンクと付き合おうとします。
しかし、メガバンクと付き合うメリットなど何一つありません。
起業家レベルであれば、会社の身の丈にあった銀行と付き合うべきであり、カッコつけたいだけでメガバンクをメインバンクにしても、会社を潰される危険性を残すだけなのです。
③起業家にとって本当に必要な情報が得られる
銀行を良く知らない社長さんがおっしゃるのは、「信金レベルでは必要な情報が手に入らない」ということです。
ハッキリ言って、これは大きなカン違いです。
例えば、銀座の高級クラブで話されているような日本経済に関する情報が、本当にあなたの会社の役に立つものでしょうか。
地元の居酒屋での話題の方が、よっぽど地域に密着しており、明日からの商売にすぐにでも役立つのではないでしょうか。
全国的な事業展開を図っていくケースや、M&Aに取り組むのであれば、メガバンクの情報は貴重なものだと思います。
しかし、仮にそうだとしても、メガバンクには大手の会社との取引もたくさんあります。
地元の有力者のお客様も多いでしょう。
そうした中で、起業家レベルの中小企業は、残念ながら、「その他大勢」のお客さんに過ぎません。
そうしたお客様に対して、銀行側の十分なサービスを期待できるとは思えません。
また、信金・信組は、メガバンクなどと違い、頻繁に転勤することがありません。
転勤したとしても、同地域内での転勤であることがほとんどです。
そのため、起業家の生命線となる保証協会付きの「制度融資」について、タイムリーな情報を提供してもらえます。
地域特有の制度融資に精通している点は、メガバンクと比較して、大きなメリットといえます。
④ビジネスの内容を前面に打ち出すことができる
起業家にとって、自社の技術力や営業力、ビジネスモデルといった、数字に表れない部分を高く評価してもらい、それを融資に反映してもらいたいというのは、切実な願いだと思います。
しかし、銀行は大手になればなるほど、中小零細企業に対する融資審査は機械的になっており、担当者が頻繁に企業に通って情報を収集し、それを融資に結びつけるというケースはほとんどありません。
その点、地元密着の信金・信組の中には、企業との密接なコミュニケーションを重視し、中小零細企業への融資を積極的に行っているところが数多くあります。
技術力等に自信があり、自社の事業内容をしっかり見てもらいたい企業にとっては、信金・信組は心強い見方といえるのです
銀行取引の裏ワザと最低限知っておくべきこと
起業家であれば、信用金庫・信用組合との取引が最適だという理由はお分かり頂けたと思いますが、ここでは、銀行取引における注意事項と、その後の取引を有利に進めるためのコツをお教えします。
どれも起業家にとっては必須事項といえるものですので、必ず覚えておいて下さい。
● 銀行取引は必ず2つ以上にする
ここでいう銀行取引とは、融資取引のことです。
一つの銀行とだけ融資取引するのは危険すぎます。
なぜなら、その銀行から融資を断られたら、他に行くところがなくなってしまうからです。
また、2つ以上の取引は、金利交渉をする場合にも有利に働きます。
他行が融資に積極的だというニュアンスを含ませれば、交渉を有利に運ぶことができます。
こうした銀行同士を競わせるやり方は、融資の可否にも影響を与えます。
特に、他県から出店したばかりの銀行というのは、積極的な融資攻勢をかけてきます。
それをうまく利用し、シェア争いを激化させることにより、本来難しい融資であっても通すことは十分考えられます。
銀行と複数取引する場合の注意点は2つあります。
まず第一は、「小規模の金融機関から取引する」ことです。
例えば、地方銀行と融資取引していて、何年後かに突然、信用金庫に融資の申込みを行ったとします。
この場合の信用金庫の反応は、「地方銀行に断られたからコチラに来たんだろ」というふうにかんぐられます。
これでは、出る融資も出なくなってしまいます。
これが逆であれば、「信用金庫だけではモノ足りなくなって…」という説明で十分です。
預金口座を開設するのは、どちらが最初でも良いですが、融資取引の場合は、最初に規模の小さい金融機関から始めるのがコツです。
もう一つの注意点は、「資金使途によって借入先を分ける」ことです。
「経常運転資金」なのか、「設備資金」なのか、または「つなぎ資金」なのかによって、借り方や借入先を分けるのが、融資のコツといえます。
毎月の返済金額や取引銀行の融資シェアのバランスを考えながら、融資が断られないように調整することが大切です。
これについては、高度な専門知識を要しますので、「銀行との交渉」のカテゴリーで詳しく説明します。
● 業績の良い銀行との取引を避ける
これはおそらく、「なぜ!?」と思われた方が多いのではないでしょうか。
理由は、あなたの会社が業績の良い銀行と取引していた場合、もし会社の業績が低迷したとしたら、融資がストップする可能性があるからです。
なぜそうなるのか?
ここからは少し専門的な話になりますが、銀行は融資先の業績の応じて、貸倒引当金を計上させられています。
融資先が連続赤字だったり債務超過になると、貸出金利の何十倍もの引当金を計上しなければならない決まりになっています。
これを業界用語で「自己査定」といいます。
つまり、銀行としては、「貸せば貸すほど損をする」ということです。
しかも、この貸倒引当金は経費になりません。
つまり、税金がかかるということです。
あなたは、「儲かっている銀行なら別に問題ないんじゃない?」と思われたかもしれませんが、実は、その反対なのです。
儲かっているからこそ、引当金を積まされた融資先には、「倒産でも何でもしてもらったほうが良い」と考えるのです。
業績の良い銀行は、もう十分に引当金を積んでいますので、融資先が倒産したとしても、逆に、貸倒損失として経費として認められるようになります。
つまり、過去の引当金に対して支払った税金が戻ってくるわけです。
言葉は悪いかもしれませんが、「倒産してくれた方がメリットがある」のです。
ですから、銀行取引を行う上でまず考えなければならないことは、「自分の会社の決算書は、銀行からどう評価されているのか?」ということです。
それと同時に、「取引している銀行の財務内容はどうなのか?」ということです。
3月末の銀行の決算が出たあたりから、経済誌には銀行のランニングが掲載されます。
その財務数値の中で特に注意すべきところは、「自己資本比率」です。
自己資本比率が高い銀行は、経営に余裕があるということです。
もしあなたが、その銀行と一行取引であるなら、早目にリスクをカバーする行動を取るべきだといえます。
● 銀行取引は会社の成長規模に応じて変えていく
年商数億円程度の規模であれば、信金・信組であっても、十分資金調達には対応できます。
しかし、年商が10億円に近づくにつれ、信金・信組だけでは対応しきれなくなります。
融資の申込み金額が大きくなっていくため、こうした金融機関では荷が重くなってしまうからです。
メガバンクにとって1億円の融資は日常茶飯事ですが、信金・信組にとっては重大な金額です。
万一、貸倒が発生した場合、規模の小さなところであれば経営破たんの原因になりかねません。
年商5億円を超えてくるようだと地方銀行を、10億円を超えてくるようだとメガバンクを、融資のラインナップに加えることをお勧めします。
● 他県から進出している銀行は、メインバンクにはしない
先述したように、銀行同士を競合させたり、銀行融資のバランスを考えた上で融資の申込みをする場合、他県から進出している銀行を利用したほうが有利なケースはあります。
しかし、借りやすいからといって、こうした他県の銀行をメインバンクにしてはいけません。
他県から進出している銀行は、その時々の状況により、いつなんどき撤退したり縮小するかも分かりません。
もしそうなった場合、地元の銀行が融資を引き受けてくるかどうかは、はなはだ疑問といえます。
地元の銀行から考えた場合、「なぜ他県の銀行やメガバンクをメイン取引にしていたのか?」という単純な疑問が残るからです。
こうしたケースでは、ほとんどの場合、保証協会やビジネスローンの枠を目一杯使い切っており、プロパー融資では一切取引していないというケースがほとんどです。
そうした状況で、今さら地元の銀行を頼ったところで、相手にされるわけがありません。
他県から進出してきた銀行が簡単に融資してくれるからといって、調子に乗ってメイン取引をしていると、後で後悔することになります。
あくまで全体のバランスを考え、先を見越した銀行取引を心掛けてもらいたいと思います。
●メガバンクからのアプローチには注意する
最近は、これまで声もかからなかったメガバンクから、あなたの会社に融資の勧誘が来ることがあります。
そうした場合、安易にそれに乗ることは避けるべきだといえます。
特に注意すべきは、あなたの会社の近隣の支店からではなく、「○○銀行ビジネスローンセンター」などのようなところからの融資の勧誘の場合です。
こうしたところは、「お金の貸し借り」だけを目的とした、非常にビジネスライクな取引を行うためにアプローチをかけているのです。
ビジネスローンについては別のカテゴリーで詳しく解説しますが、この商品は、メリットと同時に大きなデメリットもある商品です。
それを知らずに利用すると、後で大きな痛手をこうむることになります。
この商品の特徴は、原則として「決算書の数字だけで融資の可否を判定する」というところです。
そのため審査は早いかもしれませんが、決算書の数字が前年より悪化した途端に、融資枠が縮まる危険性をはらんでいます。
つまり、一般の銀行融資のように、「数字上は苦しいけれど、そこのところを何とか」といった交渉の余地は全くありません。
こうした商品を最初から前面に打ち出してくる銀行は、あなたの会社と今後、親密な関係を作っていこうという気はさらさらありません。
「メガバンクに認められた」などと喜んでいるようでは、単に人の良い経営者のレッテルを貼られるだけです。
確かにビジネスローンは、今後の起業家の融資取引にとって、欠かすことのできない商品です。
しかし、金利の高さと返済期間の短さを考えると、まだまだ起業家レベルの人が使いこなせる商品ではありません。
資金繰りも含め、会社の今後の融資取引を総合的に予測できるレベルに達していないと、逆に会社の倒産を早める結果となります。
起業家にとっては、電話やファックスなどだけでなく、実際に足を使って、あなたの会社を頻繁に訪問してくれる銀行員こそが、本当のビジネスパートナーになってくれるのです。
● 銀行の営業マンには早目に決算書を見せる
あなたの会社にも、銀行の得意先係が新規融資の勧誘に訪れてきたことがあるかもしれません。
銀行の担当者は、一般の営業マンと違い、行き当たりばったりで融資開拓の訪問をしたりはしません。
一般の営業であれば、モノを売ればそれで終わりかもしれませんが、銀行マンが融資を売り込む場合、きちんと期日に返してくれる見込先に対してでなければなりません。
そして、その期日とは、短い場合で半年くらい先、長い場合には何年も先のことになるのです。
ですので、銀行の営業マンの新規開拓とは、相手を見極めながら、融資という商品を売り込む必要があるのです。
こうした営業活動を難しいものにしているのは、「お客様からすぐに決算書を見せてもらえない」ことです。
銀行マンは、会社の財務内容を知りたいのはやまやまなのですが、それを切り出そうものなら「何でお前に、うちの大切な決算書を見せる必要があるんだ!」に一喝されて、二度と出入り禁止になる怖れがあるため、言い出す勇気がないのです。
そこで会話の中で必要な財務情報を入手し、銀行に持ち帰って分析した上で、問題ない先に対してようやく融資という商品を販売することを決定するのです。
ですので、あなたは、訪問してきた銀行員には早目に決算書を見せてしまうことです。
この行為が、銀行員との人間関係を築くきっかけになります。
仮に財務内容が悪くて融資に結びつかなかったとしても、銀行には守秘義務があるため、その情報が外部に流出することはありません。
逆に、今後のアドバイスでもしてもらえれば、それだけでもプラスになります。
銀行員は、自分の利害に直接関係しない場合には、はっきりした意見を言ってくれます。
特に、「取引銀行に対してどんな交渉をしたらよいか」については、具体的に聞くようにして下さい。
それを他の取引銀行の担当者にぶつけてみることによって、あなたの交渉能力もアップしますし、先方も一目置くようになります。
● 銀行が融資を売込みに来ない場合はどうするか
銀行は、財務内容が良好な企業を予めリストアップして、そこに集中的に訪問活動を行います。
リストアップの方法は、帝国データバンク等の信用調査機関のデータを元に、その点数が一定以上の企業を抽出します。
信用調査機関のデータは、すべての会社を網羅しているわけではありませんので、おのずとそこには限界があります。
特に、起業家のように、業歴が浅く規模の小さな企業の場合は、分析対象となるデータなどなく、そのためリストアップ先として浮かび上がってくることはありません。
したがって、こうした企業に、銀行員が融資を売込みにくることは滅多にないといえます。
では、起業家の場合はどうしたら良いでしょうか?
よく耳にするケースは、政治家の先生を使って銀行を紹介してもらう方法です。
これは手っ取り早い方法のように感じるかもしれませんが、有効なやり方とはいえません。
以前、保証協会のマル特融資が社会問題になりましたが、大量のコゲ付きが発生した融資先のほとんどは、政治家や有力者の紹介によるものでした。
それ以来、銀行は、こうした人たちから紹介された企業については、かえって身構えてしまうようになりました。
仮にそうでなくても、うさん臭さを感じてしまうのです。
また、あなたの会社の税理士さんに紹介してもらう方法もあります。
これであれば銀行の方も、経営者の人間性や業務内容に問題のない先だと安心しますので、有効な方法だと思います。
しかし、税理士は保守的な人が多いため、「もし融資先として紹介したにもかかわらずコゲ付いたらどうしようか」と考えがちです。
そのため、あなたの申し出をすんなりOKしてくれるかどうかは、はなはだ疑問と言わざるを得ません。
私が最もお勧めするのは、「知り合いの会社に自分の取引銀行を紹介してもらう」方法です。
この方法であれば、銀行もあなたの会社を大切に扱います。
ただし、それは、紹介してくれた会社の業績が良い場合に限ります。
実は、このことが、この方法を私が勧める最大の理由です。
こうした紹介を依頼して、銀行がすぐに対応してくれるということは、「その会社は銀行からの信頼が厚い」ことを意味します。
銀行は、業績の悪い取引先から会社を紹介されても、なかなか前向きに動くことはありません。
その会社からの紹介自体が、不安要素になるからです。
今後、あなたは、数多くの取引先とビジネス上の関係を結んでいくことになります。
その場合、大切となることは、良い会社と悪い会社を見分けることです。
業績の悪い会社、業績が良くても人間性に問題のある会社、こうした会社に銀行を紹介してもらうことによって明確になるのです。
まさに起業家にとって、一石二鳥といえる方法だといえます。
銀行交渉で主導権を握る秘訣とは?
銀行交渉とは、イコール「融資交渉」のことを指します。
あなたもビジネスを行っている限り、いつかは「融資」のお世話になります。
他のカテゴリーでもお話しましたが、経営者にとって融資とは「経営の応用編」です。
もしかしたら、あなたは、「借りることができれば、それでイイじゃないか」と考えられているかもしれませんが、お金の借り方一つで、会社は大きく成長したり、潰れたりします。
ここでは、こうした実情を踏まえ、銀行員の弱点を知る者だけが話せる実践的なノウハウをお伝えします。
もちろんここで紹介するのは、銀行との融資交渉においては初歩といえるものです。
会社の「生き死に」にかかわるタフな交渉については、ある程度の専門知識を必要としますので、上級編で、過去の事例を交えながら詳しく解説します。
とはいえ、ここで紹介するノウハウは、あなたが今後、銀行と対等以上に付き合っていくためには、必須といえるものです。
これからの銀行取引の指針として役立ててもらえればと思います。
● 取引を焦るな!
例えば、あなたの会社に新規の銀行が訪問してきて、「最初ですから短期の借り入れから始めませんか?」と勧誘を受けたらどうしますか?
資金繰りで苦労したことのない経営者であれば、何も考えず銀行の言われるままに融資を行うかもしれません。
経営の初心者は、一般的に「短期」の借り入れのほうを好みます。
なぜなら、長期に比べて「金利が安い」からです。
そしてもう一つの大きな理由は、「期日に一括して返済すればよい」からです。
しかし、原則、借り入れは「期間の長いもの」ほど会社にとって有利になります。
そのほうが、資金繰りに安定性があるからです。
長期借入金は、毎月一定額ずつ返済していくため、会社側に特別な問題が発生しない限り、「すぐ返せ」と言われることはありません。
これを業界用語で「期限の利益」といいます。
それに対し、短期借入金は、いったん借りてしまえば、月々の返済をすることなく、例えば1年後の期日まで利用することができます。
そしてこれの便利なところは、何もなければ、また同じ期間で更新できることです。
つまり、長期借入金のように月々の返済をすることなく、しかも安い金利で、実質的に長期の資金を調達できるわけですから、これほどオイシイ商品はありません。
しかし、この商品には落とし穴があります。
この落とし穴のせいで、バブル崩壊後は、数多くの企業が資金繰りに苦しめられ、最後には倒産していったのです。
その落とし穴とは、先ほど説明した「期限の利益」です。
短期借入金の期日が到来した時点で、あなたの会社は「期限の利益」を失うことになります。
つまり、銀行から、「期日が来たのでいったん返済して下さい」と言われれば、それに従うしかないのです。
これが、世間の批判を浴びた「貸し剥がし」です。
人とは弱いもので、借り入れ金の期日に毎回ジャンプしていると、それが当たり前と考え、楽な資金繰りを行うようになります。
「今回返済してくれたら、翌日には同額融資するから」という銀行員の言葉を信用して当てにしていると、とんでもない事態に陥ることになります。
ですから、もし銀行員から短期借入金の売り込みをされた場合、「短期ならいいです。長期の借入を考えていますので」と言ってみて下さい。
「それでせっかくのチャンスを逃したらどうするんだ」と心配する人もいるかもしれませんが、そんなに焦る必要はありません。
待てば待つほど、良い条件を引き出すことができると考えて下さい。
銀行のノルマのサイクルは半年毎です。
そして、そのノルマは、まさに気が遠くなるような数字です。
銀行から見て、新規に融資できる対象先などそう多くはありません。
したがって、次第に融資先の条件のバーは低くなっていきます。
融資先を探すのが困難になってくればくるほど、取引条件は、借り手にとって有利になっていきます。
これこそが、銀行員の心理につけこむ急所といえます。
● 最初のお付き合いは少なめに借りろ!
もし、あなたの会社が、拡大傾向にあり、今後も資金ニーズが発生することが明確であるなら、その時々で目一杯借りることもアリだと思います。
また、今後の業績に不安があり、次回の決算書では融資が難しいと思われる場合も同様です。
しかし、「せっかく貸してくれるというのだから」と、当面必要のない資金まで借りてしまうと、そうしたお金でもいつの間にか無くなってしまうのが、経営の恐ろしいところです。
特に、銀行は、保証協会付きの融資に関しては、他の銀行に取られることのないよう、保証枠を目一杯使って貸し出しをしようと考えます。
銀行との融資取引のとっかかりは、ほとんどの場合、保証協会付きの融資からスタートします。
その枠を使い切っていたのでは、もう他の銀行では相手にされません。
これでは、その後の取引は、その銀行の言いなりになるしかありません。
融資の主導権を握るためには、借入額は少なめにして、とりあえずお付き合いを始めてみることです。
私が一円起業をお勧めしないのは、こうした長期的視野に立った、余裕のある銀行取引が取りづらいからです。
目先の資金不足を解消したいがため、何も考えることなく、ただ「借りれば良い」という発想になりがちだからです。
借り入れ金利は、これから上昇していきます。
大多数の借り入れは変動金利ですから、金利が上がってくればそれだけでも大きな負担になってきます。
資金繰りのやり方も分からず、融資を受けやすい決算書の作り方も知らない起業家が、そうした借入を積み重ねることは、まさに自殺行為といえるのです。
● 保証協会の保証枠は戦略的に活用せよ!
あなたは、銀行から、「まずは保証協会付きの融資で始めましょう」と提案されたらどうしますか?
起業したばかりで、自己資金もロクにない状態でのスタートなら、これもやむを得ないかもしれません。
しかし、本当は、こうした融資取引が一番つまらない方法なのです。
銀行で行う融資を、銀行にとってリスクの高い順に並べると、次のようになります。
①プロパー融資(無担保)
②プロパー融資(有担保)
③保証協会付き融資
プロパー融資とは、銀行が直接お金を貸し出し、他の機関の保証が付かない融資のことをいいます。
保証協会付き融資は、融資先が倒産して返済ができなくなったとしても、保証協会が代弁してくれますので、銀行の懐が痛むわけではありません。
したがって、この保証協会付きの融資は、どの銀行でも競って取り扱いたい商品なのです。
つまり、この融資だけの取引をするのであれば、どこの銀行でも同じということです。
これでは、あなたの会社のメリットは何もありません。
しかも、あなたの会社が利用できる保証協会の枠には、一定の限度があります。
つまり、いくつかの銀行でその枠を使い切ってしまえば、他の銀行からは同様の融資を受けることができないのです。
ここで大切なのは、「どうすれば保証枠を有効に活用できるか」ということです。
その最良の方法は、「プロパー融資をセットにしてもらう」ことです。
銀行にとってありがたい融資である保証協会付き融資を実行する見返りとして、銀行からプロパー融資を引き出すのです。
会社の規模や財務内容にもよりますが、融資残高を増やしたい銀行にとっては、この提案は決して検討対象外のものではありません。
なぜなら、銀行には、「保全カバー率」という考え方があるからです。
例えば、「おたくの銀行から保証協会付き融資を1,000万円借りるから、プロパー融資を500万円上乗せして、1,500万円の融資にしてくれませんか?」と打診したとします。
もし、200万円のプロパー融資だけを実行したとすると、保全のとれていない裸の部分だけですので、保全カバー率は0%です。
これに対し、今回の提案の場合は、1,000万円部分が保証協会で保全がとれていますので、保全カバー率は66.6%になります。
金額面では、裸の部分が300万円多くなっているにもかかわらず、保全カバー率では後者の方が高くなるのです。
数字遊びのように思えるかもしれませんが、銀行が融資案件を検討する場合には、この「保全カバー率」という考え方は案外重要なのです。
なぜなら、銀行員にとって、「融資の一部が焦げ付いた」場合と、「融資の全額が焦げ付いた」場合では、受けるダメージが全然違うからです。
後者の場合は、上司から大目玉をくらうことになり、場合によっては出世の芽を失ってしまうことにもなりかねません。
ですので、保証協会を利用する場合は、必ずプロパー融資もセットで申し込んでみて下さい。
それに対し反応がない場合は、他の銀行へのアプローチも考えるべきです。
保証協会の保証枠は、使い切ってしまえば、それでお終いです。
他の銀行と駆け引きをしようにも、保証枠が残っていなければ、交渉の余地はありません。
先ほど説明したように、一つの銀行でこの枠を使い切ってしまうようでは、経営者として失格ですし、素人の極みだといえます。
● どの銀行が最も親身になってくれるのかを知れ!
「メインバンク」という言葉を聞いたことがあると思いますが、あなたは、会社にとってのメインバンクとはどんな銀行のことを指すと思いますか?
結論から言うと、「一番お金を貸してくれる銀行」です。
いくら取引している期間が長くても、預金残高が多くても、振込口座に指定していても、融資をしてくれない銀行はメインバンクとは呼びません。
ですので、メインバンクとすべき銀行を選別したら、その銀行とのパイプを太くするため、さまざまな布石を打っておくことが大切となります。
この布石については上級編で説明しますが、ここではメインバンクの見分け方を説明します。
先ほど「一番お金を貸してくれる銀行」といいましたが、実は、それほど単純なものではありません。
メインバンクとは、「実質の融資残高」が一番多い銀行のことをいいます。
この「実質」とはどういう意味か?
プロパー融資を出している銀行であっても、担保でガチガチに固められているようでは、あなたの会社の為に頑張ってくれているとは言えません。
逆に、不動産に担保を設定していても、順位が下位で実質的な担保価値がないにもかかわらず、プロパー融資を出してくれるところは、あなたの会社を何とか支援しようという意識のある銀行といえます。
一方で、保証協会付きの融資や、預金担保の融資しかしていないところは、あなたの会社に対して、全くリスクを取る気はないということですから、付き合う意味はありません。
保証協会付きの融資であれば、他の銀行が喜んで肩代わりしてくれるはずです。
銀行が「どれだけリスクを取ってくれているか」を知るためには、次のような表を作成すると分かりやすいと思います。
単純に融資残高だけを比較すると、A銀行がメインバンクのように思えます。
しかし、こうして実質融資残高を比べると、一番リスクを取ってくれているのはC銀行です。
今までメインバンクだと思っていたところが、実は一番役に立っていなかったということはよくあることです。
現状の取引内容を分析し、本当にあなたの会社のために頑張ってくれている銀行はどこなのかを検討して下さい。
● 預金口座の残高のバランスに注意しろ!
先ほどの「メインバンクの見分け方」に関連してですが、「預金残高>融資残高」となっている銀行は、取引してもあまり意味がありません。
「預金」は、正式に貸権設定していない場合でも、銀行サイドから見れば一定の債権保全効果があります。
なぜなら、返済が滞った場合に、差し押さえることができるからです。
複数の銀行と取引している会社でも、管理上の問題から売上代金の振込口座は一つにしていることが多いものです。
日々残高は増減するものの、常に一定額以上の金額は口座に残っているはずです。
リスクを取らない銀行の預金口座に、そのお金を置いていても、融資の面では何のメリットもありません。
また、保証協会付きの融資しか行わない銀行も同様です。
実質的にプロパー融資をしてくれている銀行に振込口座を変更するか、預金を移すことができれば、それを評価してくれて、さらに融資枠の増額を検討してくれる可能性があります。
このように、プロパー融資、担保、預金の観点から取引を見直すことで、融資の交渉をする場合、どの銀行に力点を置けば効率的かが分かってくるはずです。
起業したばかりの時は、融資の幅は非常に狭いものとなります。
保証協会でも、一般の制度融資は一年以上の営業が条件になっていますし、ビジネスローンも会社設立後2年以上で無ければ融資対象にはなりません。
こうした起業家にとっては、政策金融公庫か保証協会の創業者向け融資を利用するしかありません。
しかし、こうした「融資取引の基本」を知った上で経営を行うことは、年数を重ねて取引銀行が徐々に増えるにつれ、その意味と重要性に気付かれることと思います。
銀行に「型」にはめられた後では、取り返しがつかないのです。
● 理論武装で銀行に勝て!
銀行は、金利の引き上げや追加担保を要求するとき、もっともらしい理由をつけてきます。
「あなたの会社は規模が小さいのでリスクが高い。その分、金利を引き上げさせてもらいます」
こう言われると、銀行の要求が正しいような気がして、反論できない経営者が多いのが実情です。
あまり知られていないことですが、大企業は資金管理がしっかりしているため、銀行であっても対等の取引を行っています。
つまり、銀行にしてみると、儲からないお客さんなのです。
その点、中小企業は、さまざまなお付き合いをさせられるため、銀行にとっては「儲かるお得意さん」です。
こうしたケースでは、「大企業と違って、私たちは高い金利を払い、さらに預金も預けているのですから、相当儲けさせているはずですが」と反論して下さい。
さらに銀行に対して、「実効金利」を突きつけると効果抜群です。
「実効金利」とは、会社が銀行に対して実際に支払っている金利のことをいいます。
実効金利は、次のように計算します。
借入残高とは、手形貸付、証書貸付、当座貸付、手形割引の期中平均残高です。
預金残高は、普通預金、定期預金、積立預金、当座預金の期中平均残高です。
これを実際の数字で説明してみます。
中小企業の場合、1億円の貸金に対して、その2割くらいの定期預金と、やはり2割くらいの流動性預金を銀行においているものです。
それから計算すると、借りている平均金利は3.4%でも、実質的に負担している金利は6%にもなるのです。
相手の機先を制し、こちらから、「実効金利を落としたいので、定期をくずしたいと思っているのですが」というと、「それは勘弁して下さい」という話になるはずです。
また、具体的な実効金利の数字を言わなくても、「うちの実効金利はいくらになっているの?」と聞くだけで、銀行マンはひるみますので、その後の交渉を優位に進めることができます。
銀行に、「この社長は手強い」と思わせることが、銀行交渉の秘訣といえるのです。
● 融資は各銀行間のバランスを考慮せよ!
これは銀行取引において、最も重要かつ難易度の高い技術を必要とするものです。
これができるようになれば、あなたの銀行交渉能力はかなりのレベルに達していると思います。
しかし、実際には、年商100億円以上の規模の経営者であっても、これが出来る人は滅多にいません。
ましてや、起業家レベルでは皆無といっても良いと思います。
詳しくは上級編で解説しますので、ここでは、そのさわりの部分だけを述べてみます。
プロパー融資をどれだけ出してくれるかで、あなたの会社に対する銀行の融資姿勢が分かることはすでに述べました。
ネームバリューがあるからといって、消極的な融資姿勢の銀行と取引しても、何のメリットもありません。
ですから、プロパー融資の金額、担保の設定額、融資形態、預金残高を整理し、最も効率的に融資を実行してもらうことが、あなたの会社を資金繰り地獄から救うことになります。
特に、業績が悪化し、その上取引銀行も多い会社に対しては、銀行は、他の銀行の動きに非常に敏感になります。
なぜなら、「他の銀行が抜け駆けして追加担保を取っているのではないか」「融資枠を徐々に減らしてきているのではないか」と危惧するからです。
つまり、自分の銀行だけが損をすることを極端に恐れるのです。
プロパー融資で頑張ってくれている銀行をメインバンクにしたとしても、いくらでも無担保融資が出るわけではありません。
2位以下の銀行に比べて、あまりにもリスクが高い状態になれば、稟議も通らなくなってきます。
逆に、メインバンクが突出してリスクを取って融資しているということであれば、2位以下の銀行も、「もう少し融資しても大丈夫かな」という気にもなってきます。
ですから、融資残高や担保状況といった取引のバランスを考えると、メインバンク以外の銀行に申し込みをした方が通りやすく、かつ各銀行も納得するということもあり得るのです。
これを、銀行員が稟議者を書きやすいような資料を準備し、各銀行間の調整をすることにより、融資をコントロールするのが、銀行交渉の最高位に位置する職人技です。
ただし、この交渉は、一歩間違えると一斉に融資を引き上げられる危険性をはらんでいます。
私がやってきた企業再生業務においては、こうしたギリギリのタフな交渉は日常茶飯事でした。
銀行内部の事情に詳しく、かつ金融の専門知識が豊富であることが前提の、一種の職人技ともいえる交渉術だと思います。
こうした交渉の秘訣は、冒頭で話したように、「いかに断られる理由を潰していくか」「どうやって銀行を貸したい気にさせるか」にかかっています。
そのためには、まず、「自分の会社を知り、それに対する相手の出方を予測する」ことです。
そして、「各銀行の融資バランスを考えながら、彼らをうまくコントロールする」ことが絶対条件になります。
ここで学ぶことは、こうした交渉術の第一歩となるものです。
「貸す気にさせる」交渉術をマスターすべく、精進してもらえたらと思います。
● 割引手形の銘柄にうるさい銀行とは取引するな!
銀行の頑張り具合は、融資の形態でも分かります。
一般に、銀行として最も融資しにくい形態は、証書貸付による「長期資金」です。
しかも、これを無担保のプロパー融資で出してくるところは、大事にしなければなりません。
一方、一番簡単な融資形態は「手形割引」です。
しかも、手形の銘柄を優良上場企業だけに厳しく限定している銀行は、リスクと取るつもりがないということです。
企業側としては、どこでも割引してもらえる優良企業の手形よりも、その他の雑多な手形を少しでも早く資金化したいという悩みがあります。
割引の扱いを優良企業の手形に限定するということは、その優良企業の信用力のみに頼って取引しているということであり、あなたの会社の信用力を評価しようという考えはないわけです。
そうした銀行と本気で取引しようものなら、いつ裏切られることになるか分かったものではありません。
早急に取引の変更を検討すべきだといえます。
● 借りやすいタイミングはコレだ!
まず大前提知っておいてもらいたいのは、借り入れの申込みにもタイミングがあり、そのタイミングしだいで通ったり通らなかったりすることがあるということです。
「お金が急に必要になったから、慌てて銀行に駆け込む」では、銀行はまともに取り扱ってはくれません。
例えば、あなたの会社が業種から季節変動があり、夏場は好調ですが冬場は厳しいとします。
こうしたケースの場合、夏場の好調なデータを試算表で示し、それをもとに銀行との借入交渉を行います。
もちろん、銀行の担当者も、そんなことは分かっています。
「おそらく冬場になれば厳しくなるんだろうな」と分かっていたとしても、融資の稟議書に添付する試算表の数字がとりあえず好調で、その理由をコメントできる状況であれば、とりあえず今回の借入が承認される可能性は高いのです。
つまり、「自分の会社をよく見せるためにはどうした良いか」を考えることが、借入交渉の第一歩といえます。
次に、銀行の内部事情からみた「借りやすい時期」についてお話します。
通常、各銀行は、ライバル銀行と熾烈な数字の競争をしています。
その中でも、「融資残高」は最大の重点項目です。
銀行の営業活動サイクルは、4~9月、10~翌3月までの半年ごとであるため、各銀行は、9月と3月末の融資残高がピークになるように競争してきました。
私も昔は、3月31日に得意先企業に頼み込んで、無理やり融資を実行してもらったりしたものです。
しかしこれでは、言わば“瞬間風速”の競争であって、手間ばかりかかり本当の意味は何もありません。
そこでその後、こうした期末の数字の競争をやめて、3月、9月の1ヶ月間の平均残高で数字を競おうということになりました。
そのため各銀行は、その前月、つまり2月末と8月末までに出来る限り融資案件を積み上げ、翌3月、9月の頭から実行していく作戦に出たのです。
つまり、銀行の融資増強モードが高まるのは、2月と8月の後半にかけてだということです。
この時期は、借りる側にとっても大きなチャンスだといえます。
逆にマズイのは、4月、10月です。
この時期は決算が終わったばかりで、担当者も一段落しており、何が何でも数字を上げなくてはという目標達成マインドが高まっていません。
それに加え、この時期は、営業本部から実績として評価される対象が決まっていないことも多いのが実情です。
つまり、「どんな対象先に融資を実行すれば、担当者の成績として評価されるか」が明確に決まっていないのです。
これでは担当者は具体的な行動が起こせませんので、ついつい融資案件は後回しになってしまいます。
融資申込の時期についてもう一つ知っておいてもらいたいのは、「支店長の在籍期間」です。
一般的に、支店長の在籍期間は2年、長くて3年というところです。
信用金庫などの地元密着型の銀行では、もう少し長いと思いますが、メガバンクをはじめとする大手銀行ではだいたいそのくらいで転勤になります。
新しい支店長は、最初の1ヶ月は、前任の支店長の引き継ぎやあいさつ回りに忙殺されます。
現在の銀行は成果主義ですので、最初のひと月くらいは仕方がないとしても、次の月からは全力で走り出さなくては間に合いません。
そうはいっても、まいた種がすぐに成果に結びつくわけではありませんので、最初の半期(6ヶ月)はこれといった結果も出ないまま終了します。
勝負は、次と、その次の半期です。
つまり、支店長として着任してから「半年経過後の1年間」です。
支店長なら誰もが、この機関に成績を残して、次の栄転につなげたいと考えます。
現在のように、銀行全体が融資増強に力を注ぐ流れの中では、この1年間で大きく融資残高を伸ばしたいと考えるはずです。
したがって、このタイミングで融資を申し込むのが、最も効果的だといえます。
逆に、支店長が着任して2年近くになると、銀行員特有の「守り」の姿勢になってきます。
「無視して数字を伸ばすよりも、大きな事故なく在任期間を終えよう」と考えるのです。
この時期は、難しい案件であればあるほど通りにくくなります。
● 融資審査を急がせるにはこうしろ!
ここでは、銀行に融資の結論を急がせるテクニックをお話します。
起業して初めて融資の申込みを行う場合でなければ、あなたの会社の取引銀行がいくつであっても使える方法です。
まず銀行に融資を申し込む際に、「とりあえずおたくの銀行に申し込むけど、他からも借りてくれと言われているので、もし時間がかかるようなら他を使うからいいよ」と言っておいて下さい。
銀行に対して、最初から、「早くしてくれ」と急がせるのは得策ではありません。
「ここに貸して大丈夫かな?」と不安にさせるからです。
そして、それでも審査スピードが遅いようなら、すぐに他の銀行に申し込んでください。
「メインバンクが怒りはしないか」という心配があるかもしれませんが、あなたは、まず他行に先んじてメインバンクに申込みをし、その際に仁義も切っているのです。
それに迅速に反応しないメインバンクが悪いわけですから、気にすることはありません。
ここで一つ、あなたの取引銀行が、あなたの会社に対してどう考えているかを知るための簡単なテクニックを紹介します。
具体的な計画がなくても良いですから、「このところ業績も上向いてきたので、そろそろ積極的に設備投資でもやろうかと思っているんだ」と軽く投げかけてみて下さい。
この質問に対し、担当者が的確な回答ができないようであれば、いざという時には頼りにならない可能性があります。
また、担当者が持ち帰ったとしても、銀行としてあなたの会社に積極的な方針でない場合は、期待するような答えは返ってこないと思います。
このテストの結果が満足のいくものでなければ、本気で他の銀行との取引を考えたほうが良いかもしれません。
さて、次の段階ですが、先ほどメインバンクが遅いようなら他の銀行に申込むという話をしましたが、あなたの頭の中には、「メインバンクでも融資が難しいのに、次に申込んだ銀行で借りられるのだろうか」という不安があると思います。
ここでのテクニックは、まず、メインバンクの申込みから、次の銀行の申込みまでの時間をあまり開けないことです。
せいぜい一週間くらいです。
そして、ここで大切なのは、「当初考えていた銀行で断られたので、慌ててこちらの銀行に駆け込んできた」という印象を与えないことです。
申込みの段階で、銀行にこのように受け取られてしまうと、かなり不利な交渉になってしまいます。
そして、もう一つ大切なことは、たとえ融資がうまくいきそうであっても、「途中経過の確認」を忘れないことです。
融資案件をスムーズに通すためには、「急がせる」テクニックが必要です。
あなたは、かなり前に余裕をもって融資の申込みをしたのに、結論が出たのはギリギリだったという経験はありませんか?
最終的に承認になったわけですから、案件としては無理なものではなかったはずです。
それがギリギリになったということは、単に担当者のところで抱えられていただけです。
銀行員は、取り扱いたい融資案件であれば、たとえ稟議書を夜中に本部へ持参してでも間に合わせようとします。
よほどの案件でない限り、一週間も時間があれば結論が出るのが普通です。
ここでの目的は、そうした余裕を銀行員に与えないようにすることです。
具体的な途中経過を確認することにより、「いいかげんな回答で引き伸ばしさせない」ことが本当の目的です。
それと同時に、普段から、他の銀行の影をちらつかせることも大切です。
「景気が回復したせいか、うちのようなところにも他の銀行さんが来るようになってねぇ…」と、軽くジャブを打っておくことです。
他行からもらったカレンダーや手帳を机の上に置いておいても、銀行員は敏感に反応します。
こうしたことによって、担当者の頭の中では、「あなたの会社=他行もマークしている会社」というインプットが行われます。
私の経験からも言えますが、担当者にとって、自分の融資担当先が他の銀行に取られるほどショックなことはありません。
そんなことになれば、店は支店長以下、上へ下への大騒ぎです。
こうした銀行との駆け引きを可能にするためにも、前に述べたように、二つ以上の銀行と取引するのが重要なのです