特典-資金調達8-「信用格付け」で死ぬ会社、生きる会社

信用格付けとは

● すべては「格付け」から始まる!

あなたも起業したからには、経営者としての道を歩むわけですから、会社の存続にとって必要な知識を勉強しなければなりません。
勉強しなければならないことはたくさんありますが、その中でも特に、「これだけは絶対!」というものがいくつかあります。

その代表的なものが、「信用格付け」です。
「格付け」を無視しては、あなたの会社は存続できません。

では、「格付け」とはいったい何なのか?

格付けとは、銀行が行っている企業評価のことです。
あなたの会社の決算内容にもとづいて、銀行は、あなたの会社をランク付けしています。
そして、そのランクに応じて、融資の可否を決定したり、金利が確定します。
ランクの上位と下位とでは、金利差は3倍以上の開きがあるのです。

また、銀行では、格付けが低い会社に対しては、販売できない商品を決めています。
長期貸出、信用貸出、社員の個人ローン、為替予約などは、低い格付け先に対しては、
販売を控えています。

「格付け」とは、会社にとって最も重要な、生命線ともいうべきものなのです。

しかし、これほど重要であるにもかかわらず、なぜか、「格付け」の存在を知らない経営者は数多くいます。
理由は簡単です。
銀行が、その存在を公にしていないからです。

なぜ公にできないのか?
それは、銀行にとって、格付けとは、貸出審査の一部であるという認識が強いからです。

銀行というところは、融資を断る場合には、その理由を取引先に知らせないという慣行があります。
断る理由を明らかにしたため、トラブルに発展した例が過去にたくさんあったからです。
格付けに際して銀行は、決算書をもとに多くの数字を分析にかけます。
どの分析数値を使うかは、銀行によってまちまちですが、その数はおよそ15~20と言われています。
もちろん、その分析方法や配点については社外秘ですので、あなたがいくら聞いたとしても教えてくれません。

「じゃあ、どうしようもないじゃないか」と思われたかもしれませんが、悲観することはありません。
なぜなら、銀行が企業の財務内容をチェックする数値は、だいたい決っているからです。
私は長年銀行にいましたし、その後の業務で、どの決算書がどれくらいの格付けになるかということは、おおむね見当がついています。

逆に言えば、それさえ知っていれば、あなたの決算書の格付けを上げることもできるということです。

あなたは、格付けにビビる必要はありません。
銀行サイドの格付けを逆手に取り、いつでも低い金利で融資が受けられるような決算書を作成すれば良いだけなのです。

では、どういう決算書であれば、格付けの上位を確保できるのか?

また、格付けが低い場合は、どこをどうすればランクを上げることができるのか?

それらについて、これから説明していきます。

闇のベールに包まれた「信用格付け」。
その全貌について、すべてをお教え致します。

● これが格付けの流れだ!

あなたは、もしかしたら、「格付けとは言っても、自分のような小さな会社は関係ないんじゃないか」と考えているかもしれません。
そう考えたくなる気持ちも分かりますが、実際はそうではありません。
たとえ従業員が一人もいない、あなただけの会社であっても、銀行に決算書を提出する必要がある場合は、すべての会社が格付けされます。

では、銀行は、どのような手順で、あなたの会社の格付けを行っているのでしょうか?
その手順を、まず知っておいて下さい。

①「格付け」の決定

会社は、借入がある銀行には、毎年、決算書を提出することになります。
この決算書は、銀行内の審査部と呼ばれる部署に送られ、1~2ヶ月の時間をかけて、各項目を数字で評価し、あなたの会社の健全度を総合点で割り出していきます。
この総合点に基づき、およそ10段階のランクに細かく分類する作業を「格付け」といいます。

②「債務者区分」への振り分け

銀行の作業は、格付けだけでは終わりません。
格付け決定から3ヶ月以内に、すべての取引会社を「債務者区分」します。

「債務者区分」とは、金融庁の指導に基づき、銀行のすべての取引先を、信用度合いに応じて5つのランクに区分けする作業です。
この債務者区分により、すべての会社は「正常先」から「破綻先」まで、5段階に振り分けられることになります。

そして、どの区分に分類されるかで、その後の融資の可否や金利、担保・保証人の必要性が決定されるのです。

③「債権分類」の確定

銀行は、あなたの会社が、どの債務者区分に当てはまるかを決定した後、担保や保証の内容などを加味し、さらに4段階に分類します。
これを「債権分類」といいます。

債権分類における4つの区分により、金融庁は、銀行の取引先の貸出資産内容を把握します。
そして、その内容に基づき、貸出債権のリスクや貸倒引当金の有無をチェックするのです。

つまり、最初の分類である「格付け」が甘ければ、実質的には、銀行が金融庁から窮地に追い込まれる立場となるシステムになっているわけです。
ですから銀行は、いやがおうでも、「格付け」を厳格に行う必要があるのです。

● 格付けはどのようにして決まるか

昔の銀行の貸出審査は、その会社の地元での評判や前年までの貸出実績、担保評価と貸出残高のバランスなどで、融資実行の可否を決めていました。
しかし現在では、前期の決算書の財務分析に基づいて「格付け」を決定し、
それに従い審査を行うようになりました。

これにより銀行は、審査判断がスピードアップしただけではなく、格付け別に取引条件に違いがあることを、顧客に説明しやすくなりました。
つまり、取引先審査が、格付けにより、統一化・均一化されたということです。

以下は、ある信用金庫の実際の格付け評価シートです。

各金融機関によって、項目は事なり、点数の配分なども独自の評価方法が用いられています。
共通しているのは、この格付けをもとに、各銀行は、あなたの会社の今後の取引内容を
決定していくという点です。
この格付けにより、融資の決定や金利のパーセンテージが決まります。

「これまでの付き合い」「過去に築いた信用」といった、あいまいな判断基準は通用しなくなっているのです。

■ 格付け採点表(○○信用金庫の場合)

■ 格付けシート(○○信用金庫の場合)

格付けの全体像を知ろう

● 「格付け」はどのように審査されるのか

格付け審査は、3種類の面から総合的にチェックされます。

① 定量評価(第1次評価)

取引先の決算書から財務評価を行い、安全性、収益性、成長性、返済能力をチェックします。
あなたの会社の実力や借入返済能力を、すべて数値で表し、その数字だけで評価します。

② 定性評価(第2次評価)

会社には、財務数値で客観的に表すことのできない要素があります。
経営者の人柄、経営方針、販売力、技術力といった要素です。
これらの要素についても、最終的には点数化されます。

③ 潜在力評価(第3次評価)

これは、定性評価の第二次審査ともいえるものですが、財務諸表には表われていないが、会社を周辺から支えているような要素です。
具体的には、資産の時価総額や親会社との同一性、外部資金の調達能力など、会社の見えない支援状況をいいます。

会社は、これら3つの評価により、総合的に審査され、最終的な格付けが決定します。
銀行によって多少異なりますが、多くは10段階にランク分けされます。

■ 格付けの10段階評価

● 「格付け」これだけは知っておけ!

① あなたの会社が格付け5以上になることはない

言いにくいことですが、中小企業レベルの決算書では、格付けが上位になることは、
ほぼ皆無です。

ほとんどの会社は、格付けの平均である5ランクよりも下に分類されます。

これは、あなたの会社の財務内容が悪いというのではなく、評価基準が高いということです。
例えば、「自己資本額」と「売上高」を合わせると、100点満点中20点の配点があります。
しかし、ここで20点を取るためには、資本金100億以上で、売上も30億以上なければなりません。
起業家レベルでは、2点取るのがせいいっぱいです。
その他の項目についても、配点基準が厳格なため、中小企業のほとんどは、総合点で30点以下です。
これは、格付けでいうと、ランク6以下になります。
ランク8以下になると、融資を受けることは原則できませんので、まさにボーダーライン上での攻防となります。

つまり、いかに効率的に点数を獲得できるかが、会社の存亡を握っているわけです。

② 格付けランクが下になるほど金利が高くなる

銀行では、格付けごとに、どれだけの融資がコゲ付いたかをきちんと把握しています。
例えば、「格付け6の会社であれば、毎年1%の融資が返済不能になる」というように、
具体的な数字をつかんでいるのです。

だから銀行は、「格付け6の貸出し先に金利1%を上乗せすれば、予想されるコゲ付き分は、利息でカバーできる」と考えるわけです。

このコゲ付き予想に基づき上乗せされる金利のことを、「リスク・プレミアム」といいます。
これは専門用語ですが、銀行との交渉において登場する言葉ですから、覚えておいた方が良いと思います。

いずれにせよ、格付けが下がると、それに伴い貸出金利が高くなるということです。
あるメガバンクのケースだと、格付け1の企業に対する標準金利は1.375%であるのに対し、格付け4になると約2倍の2.5%になります。
格付け7では5.35%まで引き上げられ、金利差は約4倍にまで上昇するのです。

金利が上がるだけならまだマシかもしれませんが、格付け8以下になると、「足切り」が行われます。
新規で融資が受けられないばかりか、すでに受けている融資であっても、無理矢理返済させられます。
これが、「貸し渋り」や「貸し剥がし」と呼ばれる、銀行のやり方です。

ですので、あなたの会社は、なんとしてでも格付け7以上をキープしておかなくてはならないのです。

③ 格付けの8割は定量評価で決まる

格付けの全体像を知るためには、「格付け」「債務者区分」「債権分類」の3つの分類の関連性を知る必要があります。
それについては、後で詳しく説明しますが、まず最初に知っておいてもらいたいのは、
審査のウェイトの差です。

格付け審査では、「定量評価」「定性評価」「潜在力評価」という、3種類の評価により、格付けが決定します。
その中で最も高いウェイトを占めるのが、「定量評価」です。
格付けの8割は、定量評価により確定します。

それには、格付け審査の順番が大きく影響しています。
格付けは、まず、第1次評価である「定量評価」により、財務分析指標を中心に格付け区分を決定します。
次に、第2次評価・第3次評価である「定性評価」「潜在力評価」によって、独立した評価を行い、その結果で、第1次評価の点数による格付け区分や債務者区分が1~2ランク変更になります。

つまり、格付けの基本的なランクは、「定量評価」により決定され、「定性評価」や「潜在力評価」は、最初の格付け区分を1ランクほど上げるだけの影響力しか持っていないということです。

「じゃあ、定量評価を上げれば良いじゃないか」と思われるかもしれませんが、そううまくはいきません。
先ほども述べたように、定量評価の審査基準は、中小企業にとっては点の取りづらい内容だからです。

つまり、やり方は一つしかありません。
「定量評価」で確実に30点を狙い、格付け6~7を確保し、後は、「定性評価」「潜在力評価」で1ランクアップを狙うという方法です。
これで、あなたの会社は、格付け5~6にランクされることになります。

④ 格付けをアップさせるには、信用金庫か地方銀行を狙え

先ほど「格付けの8割は定量評価で決まる」と述べましたが、実は、メガバンクにおいては、ほぼ100%定量評価だけで決まります。

メガバンクは取引先の規模が幅広いため、比率だけでなく、絶対数も評価基準に採用されているためです。
自己資本が5,000万円あっても、1点しか配点はありません。
ましてや1円起業の場合は、0点です。
自己資本額の配点は、100点満点中15点ありますから、それだけで高得点は望めません。

その点、信用金庫や地方銀行は違います。
定量評価による審査基準も、メガバンクに比べれば若干甘いうえに、第2次・第3次評価のウェイトが高く、経営計画や技術力・販売力等の将来性、潜在能力を評価してくれます。

これは平成14年6月に公表された「金融検査マニュアル別冊」の影響によるものです。
金融庁は、この中で、中小企業の債務者区分は、大企業や中堅企業とは一線を画して、
機械的で画一的な判断をせず、総合的な見方をするようにと指導しています。
そして、そのマニュアルの中で、具体的な16事例をあげ、中小企業独自の格付けのやり方を提案しています。
(これらの事例については、上級編で、そのポイントを詳しく解説します)

金融庁は、メガバンクには厳しい査定を要求しましたが、地域の金融機関には、地元の中小企業を積極的にバックアップするように求めたのです。
その証拠に、メガバンクに対しては明快な不良債権処理の数値目標を求めましたが、地方金融機関には具体的な数値目標を設定しませんでした。
ですから、信用金庫や地方銀行は、メガバンクに比べ、中小企業でも格付けが上にくるように評価基準を設定しています。
(先ほど紹介した、信用金庫の格付け評価シートの配点を見てもらえれば、ご理解いただけると思います)

ですから、設立間もないうちは、メガバンクよりも地方の金融機関と取引することが秘訣です。

格付けと債務者区分の関係を知ろう

● 債務者区分とは

10段階の格付けによってランク分けされた会社は、金融庁が公表した「金融検査マニュアル」により、5段階の「債務者区分」に分類されます。

上から順に、「正常先」「要注意先(要管理先)」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」の5つの区分です。

「格付け」のどのランクからどのランクまでを、どの「債務者区分」に入れるかは、各金融機関によって異なりますが、「格付け」と「債務者区分」との間には整合性がなければならないということが通達されています。
特に、「要管理先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」については、全ての銀行で共通でなければならないと決められています。

なぜなら、銀行では「要管理先」以下を、「不良債権」と呼ぶからです。

「不良債権」になると、銀行は、多額の貸倒引当金を積まなくてはなりません。
引当金を積むということは、銀行にとって「お金」は商品ですから、商品である「お金」が不良在庫として寝てしまうということです。
せっかく利息を払って調達したお金を、会社に融資できないわけですから、収益が減少してしまいます。
その上、負債だけが増えるわけですから、自己資本比率が悪化します。

つまり、金融庁は、銀行の資産である貸出債権を一つ一つチェックして、その健全性を評価し、その集計により、銀行の自己資本比率を査定しているのです。

自己資本比率が、ある一定基準以下になれば、その銀行は国の管理下におかれるか、
経営破綻することになります。
「りそな銀行」や「足利銀行」が、その顕著な例といえます。

貸倒引当率(メガバンク)

● 格付けと債務者区分の関係

銀行は「債務者区分」により、あなたの会社の取引条件を確定します。
融資の可否、金利、担保・保証人の追加、貸出金の回収などは、すべて「債務者区分」により判断します。

銀行にしてみれば、金融庁の検査官によるチェックされるわけですから、背に腹は変えられません。
「勝手に自分の会社を格付けするのは不愉快だ」と思うかもしれませんが、銀行も金融庁の指導には逆らえないのです。

では、10段階の「格付け」が、どのように「債務者区分」に反映されるのかを見てみます。

■ 格付けと債務者区分の関係

先ほどお話ししたように、債務者区分の「要管理先」以下は、格付けの8~10ランクに振り分ける事が決まっています。
つまり、この部分は定位置だということです。
原則、ここにランク付けされると融資を受けることはできません。
なぜなら、格付け8~10ランクは、「不良債権」扱いとなるからです。

では、最初にお話しした定量評価による「格付け」と、「債務者区分」の関係をもっと詳しく見てみます。

■ 第一次評価(定量評価)と債務者区分

ここでの最大のポイントは、中小企業の決算書では、定量評価で40点以上獲得することは、不可能に近いということです。
詳しい配点基準については、ここでは書けませんが、ほとんどの中小企業は、格付け6~8に分類されます。
つまり、良くて「正常先」の最下位、悪ければ「要管理先」だということです。

仮に、あなたの会社が定量評価35点で、格付け6だとします。
これは、債務者区分ではギリギリ「正常先」とみなされますから、安心できるかといえばそうではありません。

実は、定量評価の点数とは別に、決算書の内容と借入金の返済状況がチェックされる しくみになっています。
ここでの条件をクリアしていなければ、いくら定量評価が25点以上あり、「正常先」にランク付けされていたとしても、格付け7の「要注意先」に降格となります。

この判定表は、本来、定量評価25点未満の会社に適用されるものですが、25点以上あっても、この判定表で「A」でない限りは「要注意先」にランク付けされてしまうのです。

■債務者区分の判定表

この表で、絶対に知っておいてもらいたいことが一つあります。

それは、決算が赤字になれば、それだけで「要注意先」以下にランクされるということです。

ですから、決算書は絶対に赤字にしてはいけません。
たとえ1円でもいいですから、黒字にしておいて下さい。

● 第2次・3次評価でランクアップを図る

おそらく、あなたの会社は、第1次評価では、「正常先」と「要注意先」のボーダーラインのあたりに位置していると思います。
財務内容が悪ければ、「要管理先」「破綻懸念先」かもしれません。
そうなると、今後の資金調達は極めて難しいといわざるを得ません。

しかし、ここで、あきらめてはいけません。
なぜなら、第2次・3次評価で高得点が得られれば、債務者区分はワンランクアップするからです。

第1次評価は財務分析が中心ですから、改善に着手したからといって、すぐに効果が現われるものではありません。(実は方法がないわけではありません。それについては後述します。)
しかし、「定性評価」「潜在力評価」は違います。
チェック項目によっては、今すぐにでも得点できるものもあります。

ここでは、決算書に表われていない真の会社の実力や強みを評価されます。
起業家にとっては、ここでワンランクアップできるかどうかが、会社の明暗を分けます。
そのためには、第2次・3次評価のチェックポイントを知ることです。
チェックポイントを知って、高得点が得られるよう準備することが最優先事項なのです。

● 第2次・3次評価のチェックポイント

具体的なチェック項目については後述しますが、ここでのチェックポイントは次のようになっています。

① 第2次評価(定性評価)  合計105点

 ・経営者能力          10点
 ・業歴                5点
 ・製品開発力(技術力)    20点
 ・マーケティング(販売力)   20点
 ・経営計画、財務管理     40点
 ・銀行取引、情報開示     10点
 ・ネガティブチェック      ▲5点(この項目は減点法です)

ここで注意してほしいのは、「経営計画・財務管理」と「銀行取引・情報開示」の項目です。
この2つの項目を合わせると50点ありますが、いくら他の項目の点数が良くても、この2つの合計点が30点未満の場合は、ランクアップしません。

特に「経営計画・財務管理」の項目は、配点が40点もあり、全体の40%近くを占めています。
この項目での高得点獲得は必須です。

② 第3次評価(潜在力評価)  合計70点

 ・バランスシートの業態、個人収支、資産余力 20点
 ・他者支援                      50点
 ・返済状況チェック                 (この項目は減点法です)

債務者区分の銀行との交渉において、最も重要となるのが第3次評価です。
資金繰りの苦しい会社では、ここでの交渉が会社の命運を分けることになります。

「金融検査マニュアル別冊」に公表された16事例を参考に、銀行に対しアプローチをかけることになりますが、おそらくあなたがその16事例を読んだとしても、ポイントを確実に把握することは難しいと思います。
会社によりアプローチのやり方はさまざまですし、私のこれまでの再生業務においても、ここでの攻防が重要なウェイトを占めます。

ですから、この部分については、上級編でわかりやすく解説しますので、そちらを参照してもらえたらと思います。

さて、こうして第2次評価(合計105点)と第3次評価(合計70点)の合計点数を、
次の基準に照らしてランクアップを判定します。

※ただし、「経営計画・財務管理」と「銀行取引・情報開示」の合計が30点未満の場合は、いくら合計点数が70点以上あってもランクはそのままです。

こうした手順で、あなたの会社の最終的な「債務者区分」が決定します。
そして銀行は、その債務者区分に基づいて、あなたの会社との取引条件を変更してくるのです。

債務者区分と債権分類の関係を知ろう

● 銀行が最も恐れる債権分類

銀行はあなたの会社を独自に格付けし、すでに紹介したように、正常先から破綻先まで
5段階のいずれかに分類していきます。
そして、第2次・3次評価を加味し、最終的な債務者区分を決定します。

債務者区分が決定すると、銀行は、さらにもうひとつの分類作業を行います。
それが、「債権分類」です。

債権分類とは、あなたの会社を、担保や保証の保全割合に応じてさらに区分し、
次の表のようにⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの4段階に分類することです。

銀行にとって、この「債権分類」は重要な意味を持ちます。
なぜなら、分類が下位の債権に対しては、金融庁から貸倒引当金の大幅な増額や迅速な償却が求められるからです。
そして、その集積結果としての自己資本比率によっては、金融監督庁が銀行に対し、制裁措置を発動することになるのです。

この表の貸倒引当率を見てもらえば分かるように、第2分類以下の債権については、かなりの引当金を積まなくてはなりません。
例えば、銀行が1億円の融資をした場合、これは債権ですから、銀行のバランスシートでは、「資産」の部に計上されます。
もし、その債権が第3分類にランクされれば、実際の資産価値は5,000万円しかありません。(50%の引当率の場合)
そんな先に、3%程度の金利で融資していたのでは、銀行は大損してしまうのです。

だから、「要管理先」以下の債務者区分には、銀行は融資をやりたがらないのです。

融資を受けるためには、この分類表の「Ⅰ」に属していなければなりません。
つまり、「正常先」か「要注意先」のいずれかということです。
確かに、「破綻懸念先」でも、優良担保・保証があれば「Ⅰ」に分類されますから、融資してもらえます。
しかし、優良担保というのは、預金や国債のことです。
換金性の高いものがあるのに、それを担保に、わざわざ銀行から借り入れする人はいないはずです。

また、「不動産を所有しているから安心」という考え方も通用しません。
「要管理先」以下では、いくら不動産を担保にしたからといっても、「Ⅱ」に分類されてしまうのです。
銀行の審査において「土地神話」は、すでに崩れ去っているのです。

銀行は、貸倒引当金を積むのがイヤだから、「要管理先」以下の格付け先には融資をやりたがりません。
しかし、実は、いくら融資しても引当の対象からはずれる融資が存在します。

それが、保証協会付きの融資です。

保証協会付きであれば、銀行は何のリスクもないわけですから、要管理先であってもお金を貸してくれます。
(ただし実際は、事後処理の手間を考え、保証協会付きであっても融資を控える銀行が増えています)

ですから、まずあなたは、保証協会の融資についての知識を持たなければなりません。
(政策金融公庫の融資についても、銀行が貸し出すわけではありませんので、格付けは関係ありません)

これについては、別のセクションで詳しく述べていますので、そちらを参照して頂ければと思います。

あなたの会社を格付けしてみよう~格付けスコアリングシート~

これまでの説明で、格付けの概略はご理解いただけたと思います。

では実際に、「あなたの会社は何点なのか」を採点してみます。

決算書2期分を手元に置いて、支持された項目に数字を打ち込んでみてください。

また、第2次・3次評価についても、スコアリングシートを作成しました。
この部分については、銀行も最近は厳しい判定を行う傾向にあります。
あなたが考えるよりも若干厳しめに採点してもらえたらと思います。

第1次評価(定量評価)

第2次・3次評価(定性・潜在力評価)

あなたの会社の格付けはこれで上がる!~誰も知らない格付け実践ノウハウ~

● 確実に「正常先」にランクさせるには

格付けをアップさせるためには、まず第1次評価である「定量評価」で30点は確保しなければなりません。
その上で、第2次・3次評価により、ワンランクアップを狙うというのが、格付け攻略の定石といえます。

第2次評価の「定性評価」の中には、今日から取り組んだとしても、すぐに成果を出すことが可能な項目がいくつかあります。
経営者の理念を掲示することや、社員の電話応対、挨拶のマナーなどはその代表例です。
特に、ネガティブチェックについては減点法ですので、絶対に落とすことのないように気をつけて下さい。

第3次評価については、会社の内容によりケース・バイ・ケースです。
自社のアピールポイントを見落とすことなく、銀行と交渉することが大切です。
これについても格付けアップの重要項目ですので、第2次評価のアップ法と共に、上級編で具体例を交え、詳しく解説します。

いずれにせよ、まず大切なことは、格付けの80%のウェイトを占める「定量評価」の点数を上げることです。
ここでの秘訣は、受験問題と同様に、最も配点の高い項目を絞り込み、その数値の引上げに努力することです。

定量評価は、決算書から財務分析を行い、「安全性」「収益性」「成長性」「返済能力」の 4つの項目について評価します。
どの分析数値を使い、どれだけの配点にするかは、各銀行でまちまちですので、これと
いったものに統一されているわけではありません。

しかし、銀行がこれら4つの項目を分析する場合の財務数値はおおむね決まっています。

安全性…自己資本比率、ギアリング比率、固定比率、固定長期適合率、
      流動比率、当座比率、実質利益、借入月商倍率
収益性…売上高経常利益率、総資本経常利益率、収益フロー、
      売上高支払利子率
成長性…経常利益増加率、自己資本額、売上高
返済能力…債務償還年数、インスタレスト・カバレッジ・レシオ、
      キャッシュフロー額、経常収支比率

これらの分析数値の中でも、特に重要と思われるものを選別したのが下の表です。
配点については、これまでの業務から推測される点数に振り分けました。
多少の誤差はあるかもしれませんが、それほど間違った配点ではないと自負しております。

大きく分けると4つの分析項目がありますが、これらの中で最もウエイトの高いのは、
「安全性」と「返済能力」です。

この2つで、全体の3分の2を占めます。
つまり、この2つの項目にある財務指標の分析数値を、重点的に上げれば良いということです。

ここには、全部で13の財務指標がありますが、もちろん、その全てを引き上げることはできません。
この中でも、特に配点が高いのは、「自己資本比率」「ギアリング比率」「債務償還年数」「キャッシュフロー額」の4つです。

「自己資本額」も12点の配点がありますので、これも重要な気がしますが、実はそうではりません。
この項目は、審査基準が厳しく、資本金が3億円なければ2点以下になってしまいます。
満点取るためには、100億円以上の資本金が必要です。
逆に、資本金5,000万円以下の場合の配点は、1点か0点です。
小さな会社の場合は、こんな項目を上げようと努力しても、ムダに終わってしまいます。

まずは、先ほど紹介した4つの財務指標に注目して下さい。
そして、都合の良いことに、残りの財務指標の構成要因も、これら4つの指標と相互に関連性を持っているのです。

各財務指標を引き上げるには、その指標の分子と分母を構成している科目を好転させることが有効です。
ここで全ての公式を説明しているとキリがありませんのでやりませんが、要は、数値を好転させるための勘定科目は決まっているのです。
その勘定科目とは、次の4つです。

1. 自己資本額
2. 有利子負債額(長期借入金+短期借入金+社債)
3. 総資本
4. 営業利益

これらの勘定科目を好転させることにより、ほとんどの分析数値を引き上げることが可能となります。
言ってみれば、魔法の杖のようなものです。

具体的には、次のようなアクションを起こせば、格付けのアップが狙えます。

1. 「自己資本」の増額
2. 「有利子負債」の圧縮
3. 「総資産」の圧縮
4. 「営業利益」の増額

● 自己資本を増額するには

① 社長借入金を債権放棄する

貸借対照表の負債・資本の部の項目にある、長期借入金・短期借入金・未払金の中に、
社長に対する借入金がある場合の裏ワザです。

中小企業の場合は、苦しい経営の初期段階で、社長から会社に対し、資金投入してやり繰りした会社が数多く存在します。
一時的に現金が不足したため、社長の役員報酬で調整したり、社長個人の預金を会社に貸し付けたりしたことがあると思います。
こうしたお金は、貸借対照表に、役員からの借入金、未払金として記載されているはずです。

このような資金は、社長としては、会社から返済してもらうことを期待していないお金です。
それならば、貸付金として残しておくよりも、社長借入金を資本金に振り替えて増資すれば良いのです。

社長借入金を債権放棄すると、会社は本来返さなければならない債務を免除されるため、債務免除益という利益が発生します。
ただし、過去の欠損金があれば、通算されて税金は発生しませんので、安心して債権放棄して下さい。

② 社長借入金を資本金に振り替える

社長借入金は、資本金に振り替えることができます。
社長は、会社に対する債権を放棄する代わりに株式を取得できるのです。

社長借入金を放棄したいが、債務免除益と通算できる欠損金がなく、税金が課税されてしまう会社には、こちらの方法がお勧めです。

ついでながら、過去の欠損金がある場合の、細かいテクニックを一つ紹介します。

役員借入金を資本金に振り替えて増資した場合、資本金が1,000万円を超えると、均等割税が年間11万円増えてしまいます。
この場合、過去の欠損金があるならば増資した後、欠損金と相殺して、資本金を1,000万円以下に戻すのです。
つまり、欠損金の填補のための減資(資本金を減少する手続)をとるということです。

③ 関連会社を合併する

節税のため、いくつかの別会社を運営しているケースがあります。
すべてが儲かっていれば良いのですが、分散したため管理コストが大変で、赤字基調になっている場合もあります。

また、本業が赤字になり、副業としている業務からの収入に頼っている会社もあります。

こうしたケースでは、別会社を合併して、自己資本を高めるとともに、副業的収入を営業利益に加算すべきです。
そうすることにより、決算書の格付けがアップすることになります。

● 有利子負債を圧縮するには

① 定期預金を解約して借入金と相殺する

有利子負債の一番手っ取り早い圧縮方法は、手持ち預金による銀行借入の返済です。

当たり前と思われるかもしれませんが、地方銀行と取引されている会社の場合は、必要以上の定期預金が塩漬けになっていることが多いものです。
特に、信用金庫・信用組合への定期預金残高の多さは驚かされます。

格付けは、すべての金融機関の総借入残高の合計で評価されます。
ですから、仮に一つの銀行で預金担保借入を行い、それが塩漬け状態で何年もたっていた場合、その銀行は良いかもしれませんが、他の銀行の格付けは下がることになります。

これが結果的に、銀行からの資金調達力を低下させてしまうことになり、金利の引き上げにもつながります。

「定期預金を解約すれば、銀行から文句を言われるのではないか」と心配される経営者もおられますが、そんなことはありません。
銀行では、定期預金が多いから格付けを引き上げるということは絶対にありません。
それよりも、格付けが上がることの方を喜びます。

将来の流動性リスクを回避できるだけの預金残を算出して、残りは借入金の返済に当てることをお勧めします。

それに付随してですが、銀行担当者の中には、銀行の決算対策として、貸出と同額もしくは一部を預金することを頼んでくるケースがあります。
付き合いもあると思いますが、こうした行為ほど、あなたの会社の格付けを引き下げる行為はありません。

預金と貸出残高の増加、総資産の増加で、格付けにおける最重要項目である、「自己資本比率」「債務償還年数」「ギアリング比率」のすべてが悪化します。

銀行期末月の預金協力は、評価されないばかりか、かえって格付けアップに逆行する行為であることを知っておいて下さい。

②「運転資金」の借入残を減らす

いろいろな手法で手元資金を増やし、借入金の返済に回すことを見当します。

売掛債権を圧縮するために、販売先の回収機関を短くしたり、現金比率を上げてもらいます。

また、仕入先が大手企業ならば、自社の事情を十分理解してもらってから、支払サイトを延ばしてもらったり、現金支払比率を下げてもらいます。
自社の受取手形を、仕入先に割引いてもらうことも一策です。
資金的なゆとりのある仕入先であれば、銀行より安い割引料で割引いてくれるケースもあります。

さらに、在庫の回転率を上げて、在庫滞留期間を圧縮することも効果的です。
このようにして手元資金を増やし、その剰余分で、既存の借入金を返済することが格付けアップにつながります。

③ キャッシュフローについての基本を知る

先ほど運転資金の話をしましたので、キャッシュフローについて、基本的なことをお教えします。

「キャッシュフロー」とは、一言で言うと、お金の流れのことです。
これは、格付けだけでなく、会社にとっての最重要項目ともいえる「資金繰り」に深くかかわっています。
ですから、起業家であるなら、キャッシュフローについての基本だけは最低限知っておく必要があります。

たとえば、決算書の損益計算書において「原価7万円の品物を仕入れて10万円で販売し、3万円の利益を得た」と記載されていたとします。
ところが、仕入の方法や販売の方法によって、同じ3万円の利益を得ても現金の動きは大きく4つのパターンになります。

① 掛けで仕入れて掛で売った場合

利益は3万円ですが、売り上げた時点で手元には現金がありません。

② 掛で仕入れて現金で売った場合

利益は3万円ですが、掛で仕入れての現金販売ですから手元に現金が10万円あります。

③ 現金で仕入れて掛で売った場合

仕入れる際には現金が必要ですから、どこからか借りなければいけません。
ところが掛での販売ですから現金の入金がありません。
結果は、利益は3万円出ているものの、手元には7万円の借入金が残された事になります。

④ 現金で仕入れて現金で売った場合

現金で販売しますから借入金を返済して手元には3万円の現金が残ります。

このように、同じ3万円の利益を生む商売でも、ある時点での財務状況はまったく異なる事がお分かり頂けると思います。
これがキャッシュフローであり、格付けをおこなう際にも、評価の対象となっていく財務項目です。

キャッシュフローには、大きく分けて3種類のキャッシュフローがあります。

そのひとつが、「営業キャッシュフロー」です。
これはあなたの会社が製品を製造するために投じた仕入代金や、販売によって生じたキャッシュの増減、営業活動から生じたキャッシュの増減など、会社の本業から生じるキャッシュの増減を表示したものです。

2つめが、「投資キャッシュフロー」です。
これは、設備投資から生じるキャッシュの増減、貸付金の支出および回収によるキャッシュの増減を示したものです。
ちなみに、営業キャッシュフローから、投資キャッシュフローを差し引いたものを「フリーキャッシュフロー」といい、経営者が自由に使える資金を表します。

そして最後は、「財務キャッシュフロー」です。
これは、銀行からの借入や返済、社債の発行、増資などによるキャッシュの増減が示されたものです。

格付けをアップさせるポイントは、ここに紹介した3種類のキャッシュフローのバランスなのです。
全てのキャッシュフローが、プラスになっていればいいというものではありません。

優良企業は、本業でキャッシュをつぎつぎと生み出しつつ、得たキャッシュを原資にして、次の利益のために積極的な設備投資を行います。
そのため、投資キャッシュフローは一年で見ると、マイナスになっていることもあります。
この場合は、数年間の推移を見て判断されることになります。

財務キャッシュフローも、年度によって数字が異なってきます。
銀行からの借入や社債の発行、増資を行ったりするとプラスになり、借入金を返済したり社債の配当をおこなうとマイナスへと向かうわけです。

格付けがアップするのは、営業キャッシュフローが前年度よりも伸び、それを設備投資に回して、なお余剰があり、借入金の返済や配当をおこなっていることが示されている会社です。

反対に評価が下がるのは、営業キャッシュフローの数字が悪化し、それを賄うために土地や建物を売却し投資キャッシュフローがプラスになり、それでも借入金をしたために財務キャッシュフローが悪化した数字になっている会社です。

● 総資産を圧縮するには

総資産の圧縮は、有利子負債の圧縮と同様に、自社だけの努力で、比較的早く改善できる項目です。
点数配分の高い自己資本比率を高めるには、有利子負債の圧縮によっても達成されますが、その他の勘定科目の圧縮も合わせて行うことにより、さらに効果が高まります。

① リースを活用する

事業をやっていると、新規設備の導入が必要になることがあります。

一般には、「設備資金」として銀行からの借入に頼る会社が多いのですが、
そうなると、その設備投資は、バランスシートの総資産の部に計上されることになります。
これにより自己資本比率が悪化し、格付けが下がる要因になってしまいます。

では、どうやれば、総資産を増やさないで設備投資ができるのか?
それには、リースを活用するのです。

リースで設備した場合、その設備金額は、バランスシートに計上されません。
どれだけ設備をしても総資産が変わらないため、自己資本比率を悪化させることはないのです。
その上、銀行からの借入をしないことで、今後の借入余力を残しておくことができます。
つまり、有利子負債の圧縮にもつながるのです。

ただし、デメリットもあります。
金額費用がかさむことです。

リース料率は、おおむね銀行の融資利率よりも高いため、リースを導入することにより、会社の金融費用は増加することになります。
ですが、格付けの「要注意先」にランクされれば、5%の金利を支払うことになりますので、かなり競争力のある金利といえます。
しかも、リース料には節税効果もあります。

土地や工場を買う場合にはリースは使えませんが、機械やプラント、車などはできるだけリースを利用し、バランスシートを身軽にしておくことが、格付けアップのみならず、今後の会社の存続を左右することになります。

② 資産価値のないモノを償却する

売掛金や在庫の中には、塩漬けになっているものや、価値の減額しているものがあるはずです。
また、長期貸付金、長期前払費用、無形固定資産、投資有価証券、仮払金、借受金、前受金、預り金といった雑勘定などについても、すでに資産として意味をなさないものがあるはずです。

しかし、そうした、資産の部に計上されている価値のないものを、極力圧縮して、総資産をスリム化すると、それだけ利益は減少することになります。
ですから、収益の見通しが立った時点で実施するのがベストだといえますが、それにこだわる必要はありません。

赤字決算だとしても、中長期経営計画を示しながら、その数字が一過性のものであることを銀行に説明し、納得してもらえれば、格付けが下がることはありません。

注意しなければならないのは、何も言わなければ、格付けがダウンするということです。

「銀行は分かっているはずだ」と勝手に思いこむのではなく、直接担当者と前もって打ち合わせ、今回の赤字が恒常的なものではないことを納得してもらうことが重要です。

③ 決算直前でバランスシートを改善する

貸借対照表は損益計算書と違い、決算月の最終日1日だけの財務状況を表したものです。ですから、極端な話、その日だけ格付けが上がるように改善することも可能です。

■ 決算日までに借入金を返済する

資金繰りを考えた上で、2ヶ月くらい先の支払資金が手元に残っている場合には、銀行に再貸出の確約を取った後、決算日までに一旦借入金を返済してしまうことが効果的です。

また、総合口座で当座貸越を行っている場合でも、決算日には返済しておくことをお勧めします。

■ 売掛金の回収に全力を挙げる

決算日までに、滞っている売掛金の回収を急いで下さい。
特に、大口の売掛金が滞っていれば、全力を注いで回収して下さい。

そして、その回収したお金で、借入金を返済することです。
少しでも売掛金を減らし、借入を圧縮させることが重要です。

■ 在庫や貸付金を圧縮する

決算日までに、在庫や貸付金などの現金回収できるものは極力回収して、借入金の返済に充てて下さい。

■ 決算直前の預金協力はしない

決算直前に、銀行が預金協力の依頼に来たとしても、必ず断ってください。
担当者の、格付けの悪化要因になるということを説明し、理解してもらって下さい。

● 営業利益を増額するには

営業利益の増加は、企業経営の大きな目標です。
しかし、売上高を増加させると、売掛金・在庫などの総資産の増加につながり、格付けが下がってしまうことになりかねません。

ですから、大切なのは、「売上高を上げずに利益を増加させる」ことです。

これは無理難題のように思えますが、やり方によっては可能です。

① 利益率の高い分野を開拓する

メーカーとして、自社製品を販売する会社がありました。
その会社は、自社製品のみを販売するのではなく、周辺機器も仕入れ販売するようになりました。
その結果、それらの製品や商品の使用法を指導するようになり、利益率の高い分野を開拓できました。

また、自社販売している商品が使われている製造ラインの保守修理を行っていくうちに、そのサービス事業の収益が、本業の収益を抜いてしまったケースもあります。

他にも、本業の自社製品が価格競争力を失ったために、過去の販路を活かして、保守整備業務にシフトした会社や、建設業から、自社の手がけた住宅をターゲットにしたリフォーム業へ業態変更した会社もあります。

これらの会社は、いずれも売上高を増加せず、コンサルティング料とか保守修理料などの利益率の高い業務を開拓し、利益をあげることに成功しました。

ただし、注意しなければならないのは、こうしたケースでは、利益は増加しても売上はそれほど上がらないということです。
そのため、借入金の売上高に占める割合が一時的に悪化することになり、格付けが下がる恐れがあるのです。

その場合は、銀行に、「今は資金の立替ニーズがあるため借入依存度が高くなっていますが、一巡すれば、借入残高も圧縮されるので、この比率は改善します」と自信を持って説明することです。

そして、その立替資金の借入金を、着実に返済していくことが大切です。

格付けの採点項目には、「売上高」があります。
しかし、この項目は、少々頑張ったところで高得点は狙えません。
年商5億円未満であれば、0点か1点です。
そんな項目で点を取るために、無謀な形での売上高の引き上げや、一時的な利益増加を狙う行動は、将来の足かせとなります。

他の指標との関係上、自己資本比率や債務償還年数のマイナスにつながることは、絶対にやってはいけません。
「いかに効率的に格付けアップを狙うか」だけに焦点を絞り、最善の策を選択して下さい。

② 損益計算書のしくみを利用する

これから説明するいくつかの方法は、「営業利益」や「経常利益」を増加させるための
裏ワザです。

損益計算書のしくみを知れば、科目の組み替えだけで簡単に、これらの利益を増加させる事が可能になります。

営業利益を増やすには、まず「営業外収益」をチェックします。

もし、営業外収益に受取家賃があれば、この家賃収入を売上の部に持ってくることを検討します。
倉庫や社員寮を賃貸マンションやアパートに改修して、家賃収入を上げている会社の場合は、この家賃が営業外収益に計上されていることがあります。
定款の目的変更を行い、これらの収入を売上に計上するだけで、最終的な当期純利益は変わりませんが、営業利益は上がります。

また、「雑収入」の中を見直してみることです。

よくあるケースが、雑収入の中に仕入のリベートが含まれている場合です。
この仕入リベートを「仕入」勘定に持って行き、仕入金額からマイナスします。
これにより、営業利益は、仕入リベート分だけアップします。

他にも、節税のために掛けている「保険」にも注意してください。

節税目的で保険を掛けているケースでは、一般に、保険料勘定や福利厚生費勘定で経費にしてあります。
この保険を何年か先に解約したときの解約払戻金は、「営業外収益」の雑収入となります。
ということは、この保険料は払う時も、営業外費用に保険料勘定をつくって、「営業外費用」で落とすほうが合理的だといえます。
保険料が経費で計上されないわけですから、その分、営業利益はアップします。

経常利益を増やすには、「特別損益」と「営業外損益」の項目をチェックします。
まずは、費用のうち、特別損失に持って行けるものがないかを検討します。

例えば、「貸倒損失」や「退職金」です。
これらは、毎年必ず発生するものではありません。
数年に一度の臨時的なものです。
ですから、販売費及び一般管理費や営業外費用にある「貸倒損失」や「退職金」を、
「特別損失」に持ってくれば、それだけで経常利益はアップします。

「固定資産売却損」や「固定資産除去損」も検討の余地があります。

営業外費用ではなく、特別損失にすれば、経常利益はアップします。
これら、特別で臨時的な科目は、特別損失に持っていって下さい。

経常利益がアップすると、「債務償還年数」だけでなく、「売上高経常利益率」「総資本経常利益率」も同時にアップします。
これらの配点は、合計で25点もあります。

このように、損益計算書の利益項目の見直しをして、営業利益や経常利益をアップさせることが、格付けアップにおいて有効な方法となります。

最後に

これまで、格付けの概略と、格付けアップの方法について述べてきました。
あなたは、これまでの話で、格付けの重要性とその対処法についての知識を得られたと思います。

何度も言うようですが、「格付け」は、経営者であれば絶対に知っておかなくてはならない知識です。
これなしでは、会社の存続は難しいと言っても過言ではありません。

なぜなら、「格付け」とは、銀行の融資判断の材料になるだけではなく、健全な会社経営に必要なエッセンスが詰まっているからです。

銀行が融資を実行するということは、その会社がちゃんと最後まで返済をしてくれるという見込みがあるからこそです。
すなわち、格付けが上位だといくことは、財務の面でも経営者としても、一人前の会社だということです。

格付けとは、それを判断するモノサシなのです。

本当は、格付けについては、まだまだ書き足りません。
実務的には、第2次・3次評価の、銀行との交渉が重要項目となりますし、財務分析である第1次評価についても、格付けアップできるウルトラC技が多数存在します。

「資産のオフバランス化」といった、売掛金や手形、不動産を流動化して現金に変える手法があります。
また、借金を資本金に変える、ウソのようなスキームもあります。
また、借入金はそのままで、金利負担だけを軽減する方法もあります。

その他にも、さまざまな合法的手段により、格付けをアップすることは可能なのです。
私はこれまで、こうした手法を駆使して、倒産寸前の会社を建て直してきました。

あなたにお教えしたいのはやまやまなのですが、こうした手法を理解するためには、ある程度の財務知識が必要です。
また、銀行との交渉術においても、やはり経営の基礎知識がなければ、金融のプロである銀行員には太刀打ちできません。

あなたがこの初級・中級編で基礎知識を吸収され、厳しいテストをくぐり抜け、黒帯コースへ進まれることを期待しています。
そこでは、もうワンランク上の実践ノウハウをお伝えするつもりです。

黒帯コースで再びお会いできることを楽しみにしております。

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