● なぜ起業したいのか?
これまで私のところに相談にきた起業家の中で、
この質問に明確に答えることが出来た人は、残念ながら、半数にも達しません。
起業は、ただの「手段」に過ぎないのであって、決して、「目的」ではないということです。
このことを理解できないまま起業したとしても、
その後起こりうるであろう、さまざまな経営問題を乗り越えることは出来ません。
それでは、起業の「目的」とは、何なのでしょうか?
それは、あなたが、「起業することによって、何を得ようとしているのか」ということです。
この「何」の部分が、これから先、あなたに降りかかるであろう困難を、
乗り越えていけるだけの、「モチベーションとなり得るのか」ということです。
起業すれば、あまりの辛さに挫折しそうになることが、数限りなくあります。
「失敗しても諦めない限り、いつかは成功する」とは、良く聞くフレーズであり、確かにその通りです。
しかし、本当に難しいのは、この「諦めない」ということです。
皆これが実行できないからこそ、起業しても成功しないのです。
どんな困難に直面しても、挫折しないだけの、確固不抜たる「動機付け」が出来ていない限り、
そして、その動機付けが、自らの「心の底からの激情」でない限り、
成功への道を歩き続けることは出来ません。
● 目標達成までのスケジュールは?
私がこの質問をすると、大半の起業家がこう答えます。
「できるだけ早くです」
話になりません。
「時間」は、起業家にとって、最も重要な要素の一つです。
「時間」は、すべての人に平等に割り当てられた資産であり、かつ限られた量しかないものです。
このかけがえのない資産を、どのように配分し、投資するか。
まさに、この「時間の使い方」に、ビジネスの成功はかかっているといっても、過言ではありません。
「できるだけ早く」では、有効に時間を使おうという姿勢は見えても、そこには、計画も配分もありません。
あるのは、やみくもにペースも考えず、「とりあえず全力で走ってしまおう」という発想だけです。
しかし、それでは、「目標達成までに、電池切れを起してしまう」ことになります。
起業家の持っている資産は、限られています。
ほとんどの起業家は、「ヒト」「モノ」「カネ」すべてにおいて、不足した状態でスタートします。
唯一、平等に割り当てられている「時間」を有効利用しないで、
どうやって、ビジネスの世界で勝ち抜いていくというのでしょうか。
「時間配分」と書くと、ほとんどの人が、受験勉強の際の勉強時間を思い浮かべるかもしれません。
こうした時間配分と、起業した場合の時間配分には、大きな違いがあります。
それは、「答えがない」ということです。
受験勉強であれば、「これだけの参考書と問題集をクリアすれば、目標達成できる」という、ゴールが見えています。
それを、いかに効率よく時間配分するかが、大きく合否に影響します。
しかし、起業は、これだけの参考書と問題集の「答え」を暗記すれば大丈夫、という性格のものではありません。
「答え」は、いつも変わり続けるものであり、
もともとの「答え」自体が、その人の性格、環境、やろうとする事業によって、すべて違うのです。
最近、「メンター」という言葉を良く聞きます。
「精神的支柱になる相談相手」といった意味ですが、起業家は、基本的に「経営の素人」です。
そうしたメンターが周りにいるなら、その人の意見を聞くのも、大事なことだと思います。
ただし、「経験豊富である」ことが条件です。
「道場」の中でいくら強くても、ストリートで実践のない空手家に教えを請うたところで、実際に襲われた場合対応出来ません。
話がそれましたが、この「時間配分」についてのカン違いをしたまま、計画を立てると、
必ず途中で、「時間的な余裕」がなくなってきます。
余裕がなくなると、冷静な判断が出来なくなり、有効な解決策を見出すことが出来ません。
そして、結果として、取り返しのつかない事態に陥ることとなるのです。
● 商品は何なのか?
今まで、私のところに相談に来た起業家の中で、
この質問に、私が納得できる答えを用意できた人は、ほとんどいません。
みんな、自分の扱う「商品についての説明」に終始し、
肝心の、その商品の「機能」について、理解できていないケースがほとんどです。
私が知りたいのは、
起業家が消費者に直接提供する「商品」のことではなく、
ビジネスモデルとして、どんな「機能」を消費者に提供できるのか、ということです。
この区別ができていない起業家が、本当に多いのです。
なぜ、区別ができないのでしょうか?
それは、自分の作ったビジネスモデルの、本当の「商品性」というものを掘り下げていないからです。
「どこが他と違い、どんな優位性があり、どうやって多くの消費者に認知させるのか」ということを、詰めていないのです。
しかし、これが明確でないと事業計画も立てられませんし、マーケティングも的外れのものとなってしまいます。
自分の商品の「機能性」がハッキリしているからこそ、
その商品の具現化に向けた、「資源対策」「事業戦略」が鮮明になるのです。
● マーケティングができているか?
起業する上で欠かせないのが、マーケティングです。
せっかく良いアイデアを思いついたとしても、
どれだけの顧客がいるのか、その顧客がどれほどのカネを落としてくれるのかが予想できなければ、
商売自体が成立しませんし、資本投下も出来ません。
しかし、ここでも起業家は、カン違いしてしまいます。
「市場を分析して、顧客がいるようなら、商売しても大丈夫ではないか」という考えです。
いかに有望な市場を見つけようとも、
自分の扱う商品の「機能性」を明確にしていなければ、完全に的ハズレなものになってしまいます。
私は、元来、マーケティングなどというものは、
前もって、あれこれ時間をかけて行うものではなく、歩きながら試行錯誤してこそ、初めて意味があると考えています。
それ以前に、自分の商品の「機能性」が理解できていないのに、どうやってマーケティングをやるというのでしょうか。
マーケットの規模ひとつとっても、
売るべき商品の本質が見えてなければ、設定すべきマーケットが分からないではありませんか。
マーケティング手法にしても、それにかける費用にしても、
すべて、その「マーケット」と「商品次第」なのです。
「商品」について的外れのとらえ方をしていながら、必死にマーケティングを行っている起業家をみると、
「ご苦労さん」と、哀れみの気持ちになってしまいます。
商品の機能性とは、
「何を、誰に対して売りたいのか」ということを、掘り下げて考えるということです。
このことが理解できないで起業するのであれば、間違いなくそこには「地獄」が待っています。
● 他社との違いは何か?
その商品の持つ「機能性」が、他社とどこが違い、どんな優位性があるのかということは、非常に重要なことです。
この点においても、カン違いしている起業家が多いのです。
「本当にその新機能が、既存他社との差別化となり得るのか」ということを考えた場合、
はなはだ疑問と言わざるを得ないことがよくあります。
ほとんどの商品が、
これまでの既存他社の商品に、「少しだけ手を加えた」というレベルのモノにすぎないのです。
仮に、この新機能が、新たに多くの顧客を開拓できたならば、
他社もすぐに同じような機能を、追加サービスして対抗するのではないか、そんなレベルの新機能なのです。
この手の機能は、ビジネスモデルでも何でもありません。
既存の企業が、わずかなコストと時間で追加できるようなモノが、ビジネスモデルになり得るはずがありません。
確かに、その商品を開発するのに、多大な時間と、大量の開発費を注ぎ込んできたのだと思います。
しかし、こうした企業努力は、他社も同様にやっているのです。
ライバル達も、あなたと同じく、もしかしたらそれ以上に、
マーケットの占有率を増やすべく、日夜考え続けているのです。
よく使われる言葉に、「反対する人が多いほど、アイデアとしては勝れている」というものがあります。
なぜ、ほとんどの人に反対されるのでしょうか。
それは、普通の人にとって、その商品・サービスが、
あまりに意外性のあるモノであったり、対象となるマーケットが想像できなかったりするからです。
コンビニを例に挙げてみます。
普通考えると、食品や雑貨を買うのであれば、スーパーや量販店に行った方が、安くて品数も豊富です。
一般的に言われるのは、コンビニは、24時間営業を行うことで、消費者の得られる「時間の利便性」、
他店舗展開することにより、消費者の「手間の利便性」を提供したということです。
そして、これらの利便性を、よりシステマティックにするために、
売れ筋商品や供給システムを、コンピューターで管理することにより、
消費者のニーズに合った店舗展開が可能になり、成功したと言われます。
しかし、それは、「表面的な」機能性の問題であって、「根本的な」成功原因ではありません。
最も重要かつ、見落としがちな点は、
コンビニを、単なる「店舗」と考えず、消費者の「遊びの空間」ととらえたことです
コンビニを、「遊びの空間」と位置づけることにより、
別にこれといった用事もないのに、つい入ってしまいたくなる仕掛けを施したのです。
そして、その仕掛けにより、
既存のスーパーや量販店が取りこぼしていた顧客層と、顧客ニーズを開拓できたのです。
コーラを安く買いたいのなら、スーパーに行けば良いのであって、
わざわざ、コンビニで買う必要はないのです。
つまり、本当のビジネスモデルとは、
その後想定される、他社との競争を勝ち抜いていけるだけの、
「アイデア」と「設計図」がなければ、ダメだということです。
おそらく、「コンビニ」というビジネスモデルを、最初に立案した人は、相当な反対にあったと思います。
数字で計り切れるモノでなく、最終目的地も、雲をつかむような話です。
「やってみなければ分からない」ことが多すぎるのです。
しかし、起業とは「リスクを負う」ということであり、
それがゆえに、「成功するアイデアは多くの人に反対される」という定義が成り立つのです。
あともう一点、重要なことがあります。
本当に素晴らしいビジネスモデルを思いついたとしましょう。
そして、それを世に出すことによって、確実にマーケットの占有率を凌駕することができ、
多大な利益をもたらす可能性に満ちているモノだとします。
この場合、陥りやすいのが、
「その全ての利潤を、自らの手に収めてしまおう」とすることです。
特に、商品開発にすでに多額の資金を投入している人は、こういう考えになりやすいので、
注意しなければなりません。
これは大きな間違いです。
起業家のように、資金や人材が潤沢でないケースでは、間違いなく失敗します。
私は、これまでこういった相談を幾度となく受けていましたが、
全部自前でやろうとして成功したケースは、一件もありません。
経営者にしてみれば、今までリスクを負ってやってきたのですから、ハイリターンを望むのは当然ですが、
ちょっと落ち着いて考えてほしいのです。
「本当に、そのビジネスモデルを、自分の力で最後まで完結することができるのでしょうか?」
「それに耐えうるだけの余力が、自分に残っているのでしょうか?」
残っていないようであれば、早々にその事業モデルを他社とライセンス契約するなどして、
ローリスク・ローリターンのビジネスモデルに転換する必要があります。
そうしないと、ますます深みに入り、最後には、「地獄」を見ることになります。
このように、自分の商品の持つ「機能性」については、
「商品開発」、「マーケティング」、「資金調達」など、あらゆる経営要素から、総合的に判断しなければなりません。
どれが欠けても失敗します。
ビジネスとは、そういうものなのです。