特典-マーケティング4-事例に学ぶ経営戦略と数字の裏づけ

日常生活の中の「ちょっとした数字」を分析する

● ポイントカードはそんなにお得?

最近は、小売店でポイントカードを見かけることが多くなりました。
主婦ともなれば、ポイント目当てで、わざわざ遠くのスーパーまで買い物に行きます。
ポイントがたまると、商品券がもらえて得します。
だから、どうせ同じモノを買うのだったら、ポイントがたくさんたまっている店で買いたいと思うのは人情だと思います。

でも、そこでちょっと考えてみてください。

「このポイントカードは、いくら得なのか?」
「経営者の立場からすると、どれくらいの販売促進費や広告宣伝費に相当するのか?」

こんなスーパーがあるとします。
100円以上買うと、1ポイントもらえる。
250ポイントとたまると、500円の商品券がもらえる。

① 100円で1ポイントもらえて、250ポイントで500円の商品券がもらえるということは、何%の値引きになるのかを単純に計算します。

500円 ÷ ( 250ポイント × 100円 )×100 = 2%

② ただし、100円ごとに1ポイントなので、199円でも1ポイントです。

  つまり、250ポイントためるには、ピッタリ25,000円の買い物で良いわけではありません。
  倍の50,000円と25,000円の間と考えて、37,500円と仮定します。

( 500円 ÷ 37,500円 )×100 = 1.3%

なんと、たった1.3%の値引きでしかないのです。

さて、ここまでであれば、私があえて言わなくても、計算していた人もいると思います。
問題はここから先です。
この先が計算できたかどうかが、成功する経営者と失敗する経営者の別れ道なのです。

③ さて、めでたく250ポイントたまって、500円分の商品券がもらえたとします。

ここで注意しなければならないのは、500円分の「商品券」だということです。
500円の「現金」がもらえるわけではないのです。

  「何が違うんだ!?」と思われた方…まだまだ勉強不足です。

お客さんは、500円の商品券と引換えに、500円の商品を受け取りますが、
お店側からしてみると、実際に負担するコストは、商品の「仕入原価」だけです。

食料品であれば、平均粗利益率は約30%ですから、仕入原価は70%です。
つまり、お店側が負担するコストは、500円×70%=350円しかないのです。

これを値引率として計算するとこうなります。

( 350円 ÷ 37,500円 )×100 = 0.9%

あなたは、広告のチラシに「全品0.9%引き!!」と書いてあったら、その店までわざわざ買い物に行きますか?

つまり、ここで言いたいのは、こういうことです。

① 経営者であるなら、ビジネス上の取引を、「雰囲気」や「カン」で判断してはならない

見せかけの「お得感」に騙されることなく、キチンと「数字」で把握するクセをつけることが大事

② 逆に言えば、こうした「数字のマジック」を使うことにより、お客さんに実質的な値引き以上の「お得感」を与えることができる。

つまり、工夫次第では、「自分の会社を守る」という防御面だけでなく、
「効果的な販促方法を思いつく」といった攻撃面でのメリットもある

私の言う「計数管理が大事」という意味が、少しは分かってもらえたかと思います。
「計数管理」とは決して、「簿記」や「経営分析」といった小難しい理屈のことではありません。

ビジネス上の取引や出来事を、キチンと数字で考えることができるかどうかという、
「数字のセンス」のことです。

数字のセンスを身につけるためには、まず最初に、こうした日常生活のちょっとした数字に気を配ることが大切なのです。
数字の裏にある「本当の意味」を読み取ることができるようになれば、いろいろなアイデアが浮かんでくるようになりますし、経営判断も間違えにくくなります。

まず最初に、「数字のセンス」を身につけてください。

● “無料”という言葉の甘いワナ

先日、家電製品の量販店であるビッグカメラに行ったときのことです。
次のようなキャンペーン広告が目に付きました。

「レジのレシートにあたりが出れば、お買い上げ頂いた商品すべてタダ!
50人に1人の無料キャンペーン実施中!」

お客の立場からいうと、
「50人に1人なら、もしかしたら当たるかもしれない。半額どころじゃない、何せタダなんだから…」
と、ついつい「タダ」というフレーズにとらわれてしまいます。
そして、「無料に当たるかどうか」という方向からしか、物事を考えられなくなります。

これを経営者の立場から考えてみるとどうか。

「50人に1人がタダ」ということは、2%がタダということです。
つまり、全体的な視点から見ると、「2%の割引」ということなのです。

ボーナス時期になると、こうした量販店では、「今ならポイント2倍!」とか「ポイント15%還元!」という広告が立ち並びます。
今では、こうした広告は珍しくありませんし、お客もそのくらいではさほど喜びません。
それを「50人に1人がタダ!」と表現を換えるだけで、お客の興味をそそる広告になってしまうのです。

「無料」という言葉のインパクトに惑わされず、冷静に計算してみてください。
そうすれば、大して得でもないことを、別の表現で言っているに過ぎないことに気づくと思います。

この、「別の表現で言っている」ことにすぐ気づくかどうかが、経営者としての視点で物事を捉えているかどうかの違いです

● クレジットカードのカラクリとは?

あなたは、クレジットカードについてどれだけ知っていますか?

あなたが、洋服屋に行って、お気に入りの服を見つけたとします。
その服が1万円だったとしたら、レジで現金1万円を渡し、その代わりに商品を受け取るというのが、一般的な方法です。

もし、これをクレジットカードで支払った場合、洋服屋はあなたの選んだ服をその場で渡し、代金については、クレジット会社に請求するようになります。
クレジット会社は、洋服屋に代金を支払った後に、あなたの銀行口座から1万円を引き落とします。

よくできたシステムだとは思いますが、ここで素朴な疑問がわきます。

「クレジット会社の利益はどこにあるんだろう?」と。

実は、クレジット会社は、洋服屋から手数料を徴収しているのです。
洋服屋が本来受け取るべき1万円から、手数料を差し引いた9,500円を洋服屋に支払っているのです。
この差額500円を「手数料率」といいますが、クレジット会社が加盟店から得る手数料は、取引額と顧客のリスクによって違います。
取引額の大きなデパートやスーパーでは1~2%、一般の小売店では5%前後、スナックなどの水商売では7~10%といったところです。

ということは、この洋服屋からすれば、1万円の商品を9,500円に値引きして売ったのと同じことなのです。

洋服屋がクレジット会社と契約したのは、コストを上回る、「売上げの増加」を期待したからです。
利益率が低下しても、売上げが増えれば帳尻は合うというわけです。

現金の持ち合わせがない客でも、買い物をしてくれる。
クレジットカード取扱店であることにより、そうした客の増加が見込めるわけです。

さて、ここまでの話で、洋服屋がクレジット会社への手数料分だけ損をしているということがお分かり頂けたと思いますが、実はもう一つ、大きな損をしているものがあります。
経営者の立場から見ると、むしろ、こちらのほうが死活問題といえると思います。
それは何かというと、「時間」です。

ビジネスの世界では、価値のあるものにはすべて値段があります。
もちろん、「時間」にも値段があります。

あなたは、銀行にお金を預けるとなぜ利息がもらえると思いますか?

それは、あなたが銀行に、「時間」を売っているからです。
銀行預金とは、入金したあなたのお金を口座から引き出すまでの「時間」を、銀行が買うという取引なのです。
では、銀行は買った「時間」をどうやって売っているのか。
それが「融資」です。
今すぐお金がほしいという人や会社に対し、あなたが預けたお金を貸し出します。
本来なら、何年も時間をかけなければ手に入らないはずのお金が、すぐに入手できます。
銀行は、そうした取引先に「時間」を売っているのです。

つまり、銀行の収益というのは、「時間」の購入代金(預金金利)と販売代金(貸出金利)の差額ということです。

さて、先ほどの洋服屋の話に戻りますが、この場合、損をしている「時間」とは何でしょうか。

あなたが服を買い、その支払いをクレジットカードで済ませます。
私の持っているカードの場合だと、毎月15日締めの翌月10日払いですから、最短で25日、最長で55日、支払いを先延ばしすることができます。
つまり、あなたは、その「時間」を買っていることになるのですが、それに対し、利息や手数料は一切不要です。

あなたが「時間」を無料で買っているということは、どこかに「時間」を無料で売っている人がいるということです。
本来であれば、あなたは「時間」の対価を払わなければなりません。
それを支払っていないということは、誰かが損をしているのです。
その損をしているのが、洋服屋なのです。

カードでの売上が確定して、クレジット会社から洋服屋にお金が入金されるまでの期間は、契約内容により違いますが、だいたい60~80日後です。
本当であれば、銀行の例で話したように、その期間に相当する利息をもらわなければなりません。
その分だけ、洋服屋は、クレジット会社に対し、手数料以外の部分で損をしているのです。

また、この入金日までの期間(60~80日)は、資金繰りに窮することとなります。
いくら商品が売れても、手元に現金がないのですから、たちまち仕入れにも困ることになります。

このように、クレジットカードの利用は、販売店の収益を大きく圧迫します。
それならいっそ、現金払いにすれば良いのかもしれませんが、これだけのカード社会になると、そうも言ってられません。
店の売上げを上げるためには、仕方がないのです。

それともう一点、洋服屋がクレジット会社と契約する理由として、欠かせないものがあります。
それは、買物をしてくれたお客さんの「支払い能力」に対する「リスク」です。

洋服屋は、そのお客の財布の中身を知っているわけではありません。
もしかしたら、無一文の人間かもしれません。
けれど、クレジット会社と契約している限り、その販売代金は、確実に回収できます。
いくらお客の口座にお金がなくても、クレジット会社がそのお客に代わって支払ってくれるからです

これまでの一連の話から、カンのいい人は気づいたはずです。
「いま目の前にある1万円」と、「将来もらえるはずの1万円」では、値段が違うということを。

現実に手にした1万円であれば、将来に渡り運用し、運用益をプラスすることができます。
しかし、将来もらえるはずの1万円では、今日の食料にも困ります。
また、未来は誰にも分からないわけですから、将来もらえるはずの1万円が、確実に受け取れるという保証はどこにもありません。
けれども、目の前にある1万円は、間違いなくあなたのものであり、そうしたリスクを考える必要はまったくありません。

つまり、「将来の価値」というものは、「現在の価値」に「その期間の運用益とリスク」を加えたものでなければ、釣り合わないということです。
これが、ビジネスの世界の「お金」というものの大原則です。

このことが理解できていないと、経営者としては失格です。
周りから「お人好し」のレッテルを貼られ、いいように利用されることになります。

この話をもっと掘り下げていけば、お金そのものの見方も変わってきます。
あなたが、今、手にしている1万円札は、「日本」という国が担保した「紙切れ」に過ぎないのです。
将来、確実に1万円の価値になるであろう、引換券のようなものです。

だから、国の担保が脆弱になれば、その価値は下がります。
国家破綻した国の紙幣が暴落するのは、そうしたメカニズムによるものです。

では、国の担保とは何か?
昔は金の保有量でしたが、今はそうではありません。
現在は「国債」です。
これは、国が発行する「借用証書」のようなものです。

つまり、国力がなくなれば、その価値もなくなります。

これは、ビジネスというお金の世界で生きていく以上は、最低限知っておかなければならない知識です。

● 儲けの基本的しくみとは?

あなたは、商売の目的は何だと思いますか?

答えは、利益を上げることです。つまり、儲けるということです。

そんな当たり前のことを聞くなと叱られそうですが、以外に、このことを本当に理解できている人は少ないのです。
利益を上げる方法は2つしかありません。
売上を上げるか、コストを下げるかです。
売上からコストを引いた残りが利益ですから、当たり前のことです。

あなたは、この「売上」と「コスト」、どちらから先に手をつけるべきだと思いますか?

これも簡単な問題でした。答えは「コスト」ですね。
なぜなら、「売上」を上げるには、相手のあることですから、いくらあなたが努力したところで、思い通りの効果が期待できないケースが多いからです。
その点「コスト」は違います。
コストダウンの努力は、ほぼ確実に効果が表れます。

経営者である以上、まず出来ることから手をつけるのは当然のことですね。

さて、次に「売上」ですが、売上げを増やすには「単価」と「数量」の両方を増やす努力が必要です。

売上 = 単価 × 数量
この公式も、あなたはすでにご存知でしょう。
でも、この公式の意味を、本当に理解できている人は意外に少ないのです。

さて、ここで問題です。

「単価」と「数量」、このどちらかを同じ割合で増やすことができるとしたら、
あなたはどちらを増やした方が得でしょうか?

どちらを選んでも、割合は同じですから、売上金額に差はありません。
単純に考えると、どちらでも同じような気がしますが、決定的に違うものがあります。

それが、私が冒頭に申し上げた、商売の目的である「利益」です。
「利益」に差が出るのです。

「どちらを増やせば利益が大きいのか」の説明を、ラーメン屋のケースで具体的に説明してみます。

あなたは1杯1,000円のラーメンを1日1,000人のお客さんに食べてもらっているとします。

1日の売上金額は、 1,000円×1,000人 = 1,000,000円 ですね。

① 単価をあげた場合

1杯1,000円のラーメンを1,100円に値上げしたとします。

売上金額は、1,100円×1,000人=1,100,000円ですね。

単純に値段を上げただけですから、差額の100円はすべて利益です。

(1,100円 ― 1,000円) × 1,000人 = 100,000円の利益が増えたことになります。

② 数量が増えた場合

今度は、1杯1,000円のラーメンを食べてくれる人が1,100人に増えた場合です。

売上金額は、1,000円×1,100人 = 1,100,000円ですから、単価をあげた場合と同じです。

さて、ここからがポイントです。

実は、ラーメン1杯1,000円の中には「原価」というものがあります。
材料費や運送費などです。
こうした費用(コスト)を「変動費」といいます。

仮に、この変動費を700円とした場合、利益はどうなるかというと、

(1,000円 - 700円) × 1,100人 = 330,000円 です。

数量が増える前の利益は、

(1,000円 - 700円) × 1,000人 = 300,000円 です。

①の「単価」を上げた場合の利益10万円と比べて、3万円しか増えていません。

今回のケースでは、それぞれの数値を10%増やしただけですが、もし、倍に増やしたケースで考えると、
利益は、①の場合は4.3倍の130万円にもなりますが、②の場合では2倍の60万円にしかなりません。
その差は歴然です。

つまり、「数量」に比べて「単価」は、利益に与える影響が大きいということです。

さっきの例でいけば、単価に10%上げた場合と同じ利益を、数量でカバーするためには、33.3%増やさなければなりません。
商売をされている人は分かると思いますが、お客さんを3割増やすのは並大抵のことではありません。

ですから、起業家のあなたは、まず、価格設定に気を使ってください。

「安くないと売れない」と考えるのではなく、「どうやって高く売ろうか」と知恵を絞ってください。
その具体的方法については、上級編に譲りますが、皆さんにここで覚えておいて欲しいことは、「価格設定を安易に考えてはいけない」ということです。

「そうは言っても・・・」と言いたくなる気持ちは分かりますが、それは単なる「甘え」や「言い訳」に過ぎません。
これからの時代、ますますお客さんのニーズは多様化してきます。
多様化するということは、「選別される」ということです。

たとえ高価であっても、自信を持って薦めることのできる商品を提供しない限り、ビジネスの世界で生き残ることはできません。

特に起業家のように、経営資源の乏しい状態では、投資効率を上げるしか方法はありません。
そのことを肝に銘じ、経営に携わるべきだと思います。

● おまけと割引、どちらが得か?

ドラッグストアに行くと、「10本セットでおまけ1本」や「10本セットで1割引き」の栄養ドリンクを売っています。
普段なにげなく見過ごしがちですが、経営者の立場で考えるとどちらが得なのでしょうか?

「おまけ付き」と「割引」のどちらが利益を生むかを考える場合、一本当たりの価格で考えるのがコツです。

栄養ドリンク1本の販売価格が110円だとしたら、「10本セットでおまけ1本」ということは、1本当たりの価格は次のようになります。

110円×10=1,100円 1,100円÷11本=100円

これに対し、「10本セットで1割引き」の場合だと、

110円×10本×90%=990円 990円÷10本=99円

つまり、経営者の立場からみると、「10本セットでおまけ1本」で売るほうが、得だということです。

では次に、栄養ドリンクのメーカーの立場で考えてみます。

メーカーからドラッグストアへの卸値が、10本で770円だとすると、1本当たりの卸値は77円です。
「10本セットでおまけ1本」だと、11本で770円ですから、1本当たりの卸値は70円になります。

「10本セットで1割引き」の場合、10本で693円(770×90%)ですから、1本当たりの卸値は69.3円になります。

つまり、メーカーにとっても、おまけ付き販売の方が得だということです。

ということは、あなたがドラッグストアの経営者だとしたら、商品の仕入に関しては、1割引でメーカーから卸してもらい、それをおまけ付きで販売するのが一番得だということです。

もちろん、メーカーの社長が数字に強ければ、こうした交渉も難しいかもしれませんが、数字に強ければ強いで別の交渉方法があります。

それは、工場の稼働率により、コスト計算してもらうやり方です。

この栄養ドリンクを製造する変動費が1本に付き40円、固定費が20円だとします。
そして、栄養ドリンク1万本を製造すれば固定費が回収できる計算になるとします。

このメーカーの工場設備に、まだ十分な余裕がある場合、1万1本目からは固定費の負担がなくなりますので、卸値が40円以上であれば利益を生み出すことができます。

メーカーの社長が数字に弱ければ、1本77円の卸値を50円にしろと交渉しても相手にされないかもしれません。
しかし、工場の稼働率に余裕があるなら、損益分岐点を超えている限り、変動費以上で販売すれば必ず利益が上がるのです。
数字に強い社長であれば、少し説明すれば必ず理解してもらえるはずです。

この考え方は、製造業に限らず、すべての業種に応用できます。
いずれにせよ、何が得かを考える場合には、数字で考え、数字で説明する以外にはないのです。

さて、これまでは、「どちらが得か?」という「利益」について考えてみました。
けれど、「利益」というものは、経営に必要な数字の一部分でしかありません。
ご存知のように、利益が生まれる算式は次のとおりです。

つまり、経営においては、次の両面からの視点が重要になります。

  ①売上をいかに伸ばすか
  ②コストをいかに下げるか

先ほどのドラッグストアの事例でも、「どちらが得か」を解答するためには、「計算」に強い人であればすぐに正解を導き出したことと思います。
しかし、「計算に強い」ということと「数字に強い」ということでは、全く意味が違います。
本当にあなたが「数字に強い」のであれば、先ほどのドラッグストアの栄養ドリンクの問題においても、上で述べた①②の視点についてピンとくるものがあったはずです。

「数字」に強くなるためには、計算能力を高めるのではなく、一つの問題をいくつもの視点から見る目を養うことが大切です。
日常のビジネス活動で出会う数字を見たときに、いくつのことがヒラめき、その数字をいかに論理的に展開できるかが「数字に強い」ということなのです。

ではここで、先ほどのドラッグストアの事例に似た問題を出してみます。
この問題から、いくつのことを思いつくことができるかが、あなたの経営者としての経営能力だともいえます。
そのつもりでトライしてみて下さい。

まずは前回同様、「どちらが得か」を計算してみます。

こうした場合、1本当たりの平均販売価格で比較するのがコツですから、次のようになります。

A店…2,000円×85%=1,700円
B店…(2,000円×5本)÷6本=1,677円

仕入価格は、どちら店も1,400円ですから、それを差し引いた金額が利益になります。
つまり、A店では1本当たり300円の儲け、B店では267円の儲けですから、A店の方が1本当たり33円多く儲かるということです。

さて、ここまでは私が説明しなくても計算できたと思います。
問題はここからです。
単純に、「A店の方が儲かるんだなぁ…」で終わってしまったのでは経営者として失格です。

もしあなたがB店の経営者であればどう考えますか?
A店のマネをして15%引きで販売しますか?

ここで先ほどの「利益」が生まれる算式を思い出して下さい。

  ①売上をいかに伸ばすか
  ②コストをいかに下げるか

「利益」が生まれるのは、あくまで「売上」から「コスト」を差し引いた残りです。
ここに問題の本質が内在しています。

まず、「コスト」面から考えてみます。

A店は、シャンパン5本を1セットとして木箱詰めにしています。
ということは、箱代が余分なコストとしてかかっているはずです。
仮にこの木箱が200円だとすれば、1本当たりのコストは40円余分にかかります。
先ほどの計算では、A店の方が33円余分に儲かりましたが、この40円を加えると逆転してしまいます。

また、お客さんが箱詰めを欲しがるということは、贈答品として購入するケースが多いとも考えられます。
包装も必要になりますし、従業員の対応時間や負担も重くなります。
その分、材料費、人件費といったコストが余分にかかることになります。
一方、B店の場合は、オマケで1本手渡すだけですから、追加コストは考える必要がありません。

従業員の負担といっても、あなたは「その程度なら…」と考えるかもしれませんが、そんなことはありません。
従業員の作業効率は、利益を上げている会社であれば徹底的に管理しています。
製造業に限らず、小売業、飲食業などでも、在庫を配置するスペースから運搬の導線に至るまで、最も効率的な作業工程を組み立てます。
そして余った時間で生産性のある業務を行わせ、収益率を高めます。
作業工程の効率化により、営業利益は簡単に何%も改善することができるのです。

「コスト」について、もう一つ気付くべきことがあります。

B店では、5本販売するところを1本プラスした6本での販売となります。
ということは、新規顧客が増えないと仮定した場合でも、取扱数量は確実に20%アップするということです。

ご存知のように、一般の商取引では、購入数が増えると仕入先から有利な条件で買い付けることができます。
A店に比べて20%増の仕入を行うわけですから、少なくとも同じ仕入金額だということはないはずです。
仮に、1本当たり50円の値引きだとしても、儲けは317円になり、A店の儲けを逆転することになります。

次に「売上」の面から考えてみます。

冒頭で計算したように、A店の平均販売価格は1,700円であり、B店は1,667円です。
つまり、消費者の側から考えるとB店の方が33円安いのです。

ということは、対A店で考えるなら、「A店よりも安い」ということをアピールすることによって売上の拡大が計れるということです。
ここから先はマーケティングの世界に入りますが、その部分を強調することにより、いっそうの割安感を提示することは可能なはずです。

これは一部マーケティングの発想が必要ですが、分かりやすくするために極端な例で説明してみます。
例えば、A店とB店の通常の売上が月に各500本ずつだとします。
ということは、両店を合わせた市場規模は1,000本です。
今回はお互い特売セールを行っていますので、一時的にこの市場が30%拡大したとします。
つまり、販売数量が300本増えるということです。

では、この300本をどう考えれば良いでしょうか?

消費者は1円でも安いものを買いますから、B店の割安アピールがうまくいったなら、A店よりもB店で購入しようとするはずです。
その結果、B店が200本のシャンパンを獲得すれば、A店は100本しか獲得できません。

この場合の両店の儲けを比較してみます。

A店…300円×(500+100)本=180,000円
B店…267円×(500+200)本=186,900円

お分かりのように、両店の儲けは逆転しています。

私はこのほかにもいくつかの手法を思いつきますが、あなたにとって大切なことは、この例題を読んでB店の方が33円安いと気付いた時、何がヒラめくかです。
計算してB店が安いことを確認しただけでは何の意味もないのです。
経営者として大切なのはその先です。

相手が有利なように思えるが、どこかに弱点はないのか?
その弱点をついて形勢を逆転するにはどうしたら良いのか?

相手より割安感をアピールできれば、販売数量を拡大できる。
数量が増加すれば、仕入先からの調達コストを削減できる。
調達コストが下がれば、利益が増える。
それと同時に、A店の従業員と比較して余るはずであろう時間で、彼らに何をやってもらうか。

このように、論理的かつ多面的に戦略を展開していくためには、どうしても数字のセンスが必要になります。
雰囲気だけでは、具体的な戦略までには到達できないのです。

この例題を読んで、「どちらが得か」も分からない人は論外として、その先の展開まで論理的に説明できないようではまだまだです。
ここに挙げた私の説明程度であれば、すぐに思いつかないといけません。
この程度は、経営者として最低レベルだとお考え下さい。

「全然ダメだった…」とお嘆きのあなた。悲観することはありません。
このサイトの主旨は、そうした、経営者に必要な最低限の基礎能力を身に付けてもらうことにあります。
今流行の「儲かるノウハウ」といった、その場限りの蜃気楼のような知識を知ってもらうことではありません。

そんなものは後でいくらでも入手することができます。
大切なのは、時間をかけないと本当には身につかない能力です。

半年や1年くらい熟成させただけのワインは、どんなに素材が良くても、決して上質のワインにはなりません。
何年もねかせるからこそ、その間に熟成され、最高のワインとして世の中に受け入れられるのです。
この時間だけは、どんなに短くしようとしても、短縮することは出来ません。

あなたの、経営者としての経営判断能力もこれと同様です。
時間は多少かかるかもしれませんが、方法さえ間違えなければ、確実に良質のものに仕上がってきます。
これは私の経験からもはっきりと断言できます。
そして、これを一度身に付けてしまえば、考えるよりも早く体が動くようになります。
「儲かるノウハウ」などというものは、人に教えてもらわなくても自分でヒラめくようになるのです。

経営というものは、所詮は一人で判断するしかないのです。
そのためには、自分の基礎力を高めるしか方法はないのです。

それに必要なプログラムがここにはあります。
2年後、3年後に同じ文章を読んだとしても、あなたの読解力は大きく進化しているはずです。

近い将来、大きく変わったあなたの姿を楽しみにしています。

● 赤字製品の取扱いをやめると赤字幅が増えることもある

これは、先ほどのシャンパンの事例をメーカーに置き換えて、別の角度から検証したものです。

あなたの会社が、2種類のシャンパン製品を生産、販売しているとします。
コストの内訳は下の表のとおりで、B製品は赤字になっています。
この場合、B製品の生産はやめるべきでしょうか?

B製品は100円の赤字になっていますので、生産をやめれば会社の利益は上がるようにも思えます。
しかし、実際はそうはなりません。
B製品の生産を中止すると、赤字が拡大することになります。

B製品の生産をやめた場合の損益計算書です。

単純にB製品の生産をやめただけだと、300円の赤字になってしまいます。
なぜ、このような結果になってしまうのか?
それは、B製品を生産中止しても、固定費は変わらないからです。

A製品とB製品の2つを生産していたときには、固定費を半々で分担していました。
しかし、B製品がなくなることにより、固定費のすべての部分をA製品だけで賄うことになってしまったのです。
(このあたりの説明が理解できない人は、「数字を使って未来を予測するマーケティング」のカテゴリーを参照して下さい)

つまり、B製品は単独でみると赤字でしたが、限界利益(売上-変動費)はプラスであり、その限界利益分だけ固定費を吸収していたのです。
B製品の限界利益である400円分(2,000円-1,600円)だけ、会社全体の赤字が増えていることからもお分かりいただけると思います。(営業利益100円→▲300円)

経営においては、赤字よりも、限界利益があるかどうかが重要です。
限界利益のある商品は、たとえ赤字であってもやめるわけにはいかないのです。

もちろん、赤字のままでいいわけがありません。
赤字を減らす対策を練ることが必要になります。

B商品の限界利益を増やすためには、販売価格を上げるか、変動費を下げる。
または、固定費を下げるかしなければなりません。
それが無理で生産を中止する場合には、A商品の製造・販売を増やすことにより利益を確保することができます。

特にA製品の場合は、B製品に比べて限界利益率が高いですから、販売数量が増加すると、利益の増加幅も大きくなります。
このように、生産量について判断する場合には、限界利益の大きさに着目することが大切です。

● スポットの仕事は受けるべきか?

では、次に、追加でオーダーが入ってきたケースを考えてみます。

こうしたスポットの仕事については、「限界利益」と「生産設備の稼動状態」で判断することがコツです。

例えば、あなたの会社が下の2つの製品を製造・販売しているとします。

ここでA製品について追加オーダーがありました。
追加ですので、先方も値引き要求をしています。
設備に余裕がある場合、あなたは、いくらの値引きまでなら、この仕事を受けても良いと思いますか?

もちろんお分かりでしょうが、答えは200円です。
A製品の変動費である200円よりも高い価格であれば利益が出ることになります。

なぜなら、既に、固定費部分をカバーできているからです。
両製品とも黒字ですので、限界利益で固定費を吸収しています。

このように、生産体制に余裕があり、限界利益がプラスであるなら、遊んでいる設備を活用して売上を上げたほうが、会社にとってはメリットがあります。

ただし、これは、あくまでもスポットの仕事についてということです。

もし、あなたの会社がA製品のみしか扱っていないケースで、現在の生産量と同程度の仕事を継続的に行う必要がある受注が入った場合には、気をつけなくてはなりません。
いくら限界利益があるからといっても、200円では固定費まで吸収しているわけではありませんので、会社全体で考えると赤字になってしまう場合もあるからです。
こうしたケースでは、全体の利益がどう変化するのかをキチンと計算してから判断すべきだといえます。

では、次に、会社の設備の稼働状況に余裕がない場合は、どう考えたら良いでしょうか?

生産体制に余裕がない場合、次の3つの対策が考えられます。

①従業員に残業してもらい、稼働時間を延長する

普通に考えれば、この方法が最もオーソドックスだと思いますが、残業により人件費が割高になるため、販売価格を上げるか、それができないならば、利益が減少することを前提に判断しなくてはなりません。

②アウトソーシングする

アウトソーシングの利点は、固定費を上げることなく、顧客の要望に応えることができるところです。
また、設備投資の必要がありませんので、財務上のリスクをかかえることもありません。

しかし、品質維持のために、アウトソーシング先には細かい指示が必要になります。
これを怠ると顧客との間のトラブルが生じますので注意しなくてはなりません。
また、アウトソーシングすると、先方に対し委託料が発生しますので、どうしても自社で生産するのに比べ割高になってしまいます。
そして、何より注意するのは、ノウハウの流出です。
自社のコア・コンピタンスの部分を委託してしまうと、それが外部に流出してしまう危険性がありますので、細心の注意を払う必要があります。

③新たに生産ラインを組み立てる

これは、追加の設備投資を行い、仕事がこなせるだけの生産体制を組み上げるということです。
もちろん、リスクを伴いますので、あらかじめ最低限発注量と単価を決めてもらい、追加の設備投資が十分回収できるかどうかを計算しなければなりません。
うまくいけば、安定的な売上基盤の強化に繋がりますが、発注量が減少したり、販売価格をダンピングされた場合には、投資資金の回収がおぼつかなくなります。
特に、大手から相当量の受注を受けた場合には、どうしても、その仕事にかかり切りになるケースが多いため、何かあると会社の存続にも影響しかねません。
景気の動向により、真っ先に影響を受けるのは自社だという自覚を持って対応することが大切です。
せっかく設備投資をしても、受注がなくなってしまったのでは意味がありません。
経営者であるなら、常に最悪のケースを想定すべきです。

また、すでに、過去に行った設備投資が過剰になっている会社も数多く存在します。
こうした場合、有効となるのが「OEM」です。
OEMとは、他社のブランド製品を自社工場で生産することです。
積極的にOEM生産することにより、過剰になった設備を有効活用することができます。

この考え方は、あらゆる業種で応用できます。
製造業に限らず、サービス業、飲食業、情報通信業などでも形を変えてOEMの考え方が活用されています。
また、営業する場合でも、ヒット商品を製造・販売しているメーカーであれば、生産体制が不足しているはずです。
自社の設備に余裕があるなら、そうした会社に営業をかけるのも有効なやり方です。
相手がベンチャーであれば、経営資源が不足しがちですので、タイミングが良ければ話もまとまるかもしれません。
また、あなたがベンチャー側の立場であるなら、そうした過剰設備で仕事がなくて困っている会社を探すのも良いでしょう。

いずれにせよ、ビジネスの原則は、業種・業態のひずみを解決するところにビジネスチャンスがあります。
感度の高いアンテナを張り巡らせておく必要があるのです。

● 他社にアウトソーシングすべきかどうか?

先ほどアウトソーシングの話をしましたが、アウトソーシングのメリットは固定費の変動費化にあります。
会社の利益構造を変えることにより、不況に対して強い体質を作り上げることができます。
特に、市場の変化の激しい昨今においては、特定の事業に多額の資金を投下するリスクが高まっています。
多少割高であっても、すぐに切り離すことのできる外注や派遣を活用することがリスクヘッジでもあるのです。

反面、デメリットもあります。

会社にとってコア・コンピタンスの部分を外部に委任してしまうと、ノウハウの流出の危険性があります。
それと同時に、自社内に、本来積み上げるべき起業の中核的スキルが蓄積できない恐れもあります。
これは、会社の成長にとっては、致命的なマイナス要因となります。
売上の増加にまかせて規模を拡大したのは良いが、気がつけば手元に何も残っていなかったという状況に陥る危険性をはらんでいます。

また、確かに不況には強い体質になるかもしれませんが、逆に言えば、生産量が増加した場合に、その恩恵を受けることもありません。
別のカテゴリーで説明したように、変動費型の企業は、固定費型の企業に比べ、損益分岐点を超えた場合のリターンが少ないからです。
ですから、商品が成長期に入ったとしても、規模の経済の恩恵を受けづらく、自社生産と比較して収益性の面で劣ってしまうのです。

このように、アウトソーシングを利用する場合は、前もってキチンとした戦略を立てた上で活用しなければ、取り返しのつかないこともあるのです。

では、実際の現場で、アウトソーシングをやるべきか、自社で生産すべきかの判断はどう行うべきでしょうか?
ここでは、数字を使って判断する手法をお伝えします。

下の表を見て下さい。
それぞれの表は、自社で生産した場合と、アウトソーシングした場合のコストの内訳です。
設備の稼働状況に余裕がある場合、どちらを選択すべきでしょうか?

単純に比較すると、アウトソーシングした場合のコストの方が安いですから、そちらを選択すべきだと思われたかもしれません。

しかし、答えはNOです。
このケースでは、自社生産した方が得になります。

なぜなら、自社生産した場合にかかるコストの内、固定費の3,000円については、設備や人件費にかかるコストが含まれているため、外注しても会社全体の固定費の総額は変わらないからです。
つまり、アウトソーシングした場合でも、社内固定費の3,000円はオンして考えなくてはならないのです。
ですから、固定費の3,000円をアウトソーシングのコストに加えると9,000円となり、自社生産にかかるコスト7,000円より高くなってしまうのです。

この例からも分かるように、生産体制に余裕がある限り、自社で生産可能な場合は、できるだけ自社生産すべきです。
稼働状況に余裕がない時にだけ、アウトソーシングを利用するべきだといえます。

ただし、これを別の角度から考えてみます。

自社生産とアウトソーシングの比較の問題は、突き詰めて考えると、「いかに固定費を有効活用し、利益を増加させるか」という経営判断の問題でもあります。
つまり、企業の体質から考えると、固定費をギリギリまで削減し、核となる仕事以外はアウトソーシングしたほうが、利益は増大することの方が多いのです。

会社というものは、売上高や作業量がアップすれば、それに伴いさまざまなものが増加します。
人の増加、投資資金の増加、設備の増加、在庫の増加、等等…。

「売上が増えているのだから仕方ない」と考えるかもしれませんが、実は、そこにこそ、会社の存続にかかわる重大な問題が潜んでいます。

売上や作業量の増加に比例して人や投資資金を増やしていたのでは、会社の外観は大きくなるかもしれませんが、徐々に儲からなくなってしまうのです。

企業活動を大きく分けると、次の4つの工程に分解できます。

1.生産工程
2.配達工程
3.経理・総務工程
4.営業工程

これら4つの工程をすべて自前でやろうとするから、カネと時間がかかるのです。
経営資源の少ない起業家が、自社の核となる部分以外にカネや時間を投入するのは、非常に非効率です。

こうした行動を、会計の専門用語で「チャンスロス」といいます。
いわゆる「得べかりし利益」を損失したということで、会計上は、ゼロではなくマイナスとして考えるのです。
これについては、非常に大切な考え方ですので、後で詳しく説明します。

いずれにせよ、人や設備といった固定費をギリギリまで抑え、自社で最低限やらなければならない業務以外の部分を、他社に委託してしまえば、売上の増加以上の儲けが生まれることになります。
そのために活用されるのが、「アウトソーシング」です。
アウトソーシングとは、一言でいうと、「作業工程の売買」ということです。
自社でやっている作業をやめ、その作業を「他社から買う」という発想を持つということなのです。

アウトソーシングのメリットには次のようなものがあります。

・売上が増加してもヒトは増加しない
・設備などへの投下資本がほとんど必要ない
・高い専門性を持った人材が活用できる

つまり、先ほど述べた、売上の増加に伴い増えるべきさまざまなものを、何一つ増加させずにすむのです。

もちろん、そのためには、まず自社内の作業工程を再確認する必要があります。
そして、その中で「自社の核となる業務は何か」「その業務は他社と比較して強いのか」を分析しなくてはなりません。
これを他社まかせにしてしまっては、会社の存在価値を自ら失うことになるからです。

起業家の場合は、まずはこうした発想からスタートすべきです。
ムダに固定費を増加させてしまうと、後々困ることになります。
仮にうまくいかず、途中でやめてしまったとしても、たいした労力や資金がかかるわけではありません。
まずはやってみることです。

多くのヒトを抱えて、投下資本を増やすよりも、アウトソーシングを活用した方が間違いなく経営は安定しますし、儲かる会社になるのです。

● 大口契約に飛びつくべきかどうか

売上が伸び悩んでいる時に、大口契約が舞い込んできたとします。
経営者であれば、渡りに舟とすぐに飛びつきたくなる気持ちは良く分かります。
しかし、実は、新規の大口契約には予想外の落とし穴があり、最悪の場合は倒産に至ることもあるのです。

大口契約を受けるかどうかの判断は、「儲かるかどうか」よりも「資金繰りは大丈夫か」に注意することが大切です。

例えば、年商1億円の会社に5,000万円の新規の受注が発生したとします。
納期は3ヵ月後で、支払はそこから2ヵ月後だとします。
材料はすぐに仕入れなくてはなりませんし、その仕事に必要な労働力を確保するためには新たに従業員を雇い入れなくてはなりません。
また、そのための設備投資が必要になるケースもあります。

当然、仕入先や設備の購入先には、少なくとも2ヵ月後には支払が発生します。
新しい従業員の給料は毎月支払わなくてはなりませんし、既存の社員を使うとしても残業が増えるわけですから、その分の手当を用意しておく必要があります。
それに対し、5,000万円の入金があるのは5ヵ月後です。
新たな設備投資がなかったとしても、最低でも2~3,000万円の運転資金が必要になります。

あなたは、「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあると思います。
「会社は赤字になると倒産する」と思われている人もいるかもしれませんが、決してそうではありません。

日本には約500万社の企業が存在します。
このうち約7割は赤字であり、黒字の会社はわずか3割しかありません。
それにもかかわらず、年間の倒産件数は2万件弱しかありません。
つまり、会社が赤字というだけでは、なかなか倒産しないものなのです。

では、どういうときに倒産するのか?

一言で言うと、資金繰りに詰まったときです。
いくら赤字になっても、手元に豊富な現金があれば、当面の資金繰りには困らず、倒産に追い込まれる可能性は低いのです。

企業間の取引において、仕入も販売もすべて現金決済のキャッシュオンデリバリーで行っていれば、「現金」と「収入」は一致するため黒字倒産は起こりません。
黒字倒産になるのは、会計上の利益とキャッシュが一致しない場合です。
企業間の取引は、そのほとんどが信用で行われ、それを現金化できるのは2~3ヶ月先、遅ければ半年以上かかるのが一般的です。
こうした「支払」と「入金」のタイムラグを補充するだけの運転資金がなければ、いくら業績が好調で黒字を計上していても、会社は倒産に追い込まれます。

毎年の倒産企業を業種別に見ると、その第1位はIT関連企業です。
これが全体の半分以上を占めます。
確かに安易に起業しやすいという理由もあるとは思いますが、最も大きな理由は、人件費比率の高さと先行投資額の多さにあります。
納品するまでの期間が、他の業種と比べて長いことも原因です。
つまり、入金があるまでの固定費の支払が追いつかないのです。

実際、こうしたタイムラグにより、資金繰りに苦しみ、黒字倒産した会社はいくつもあります。
会計上は、売掛金が多いため利益があるように見えますが、実態は、現金が不足し支払いが滞ってしまうため、ついには倒産してしまうのです。

ですから、大口契約を受注する場合には、まず「資金繰り」に注意することです。
当然のことながら、キチンと資金繰り表を作成し、数字面での計算をしてみることが大切ですが、ここでは、大口契約を受けるかどうかについて、別の角度からの判断基準をお教えします。

この方法は非常に判別しやすいですし、過去の私の経験からも確立の高いやり方です。
ぜひ、大口契約の話があった場合には活用してみて下さい。

あなたの会社に大口契約が舞い込むケースは、大きく分けて次の2つの場合が考えられます。

①あなたの会社にしかないスキルを評価された場合
②あなたの会社にしかできない単価を期待された場合

①のケースであればさほど心配はありません。
あなたの会社にはコアとなるスキルがあるわけですから、入金条件の交渉も強気でやれるでしょうし、支払先も少しくらいであれば待ってくれるかもしれません。
資金繰りに困ったとしても、銀行からの調達もやりやすいと思います。

問題は、単価安を期待された②のケースです。
この場合は、発生する人件費や設備費をできるだけ変動費として考えることが大切です。
つまり、アウトソーシングするということです。

単価を期待されているということは、あなたの会社よりも安価で取引できる先が現れたら、すぐに取引を中止される恐れがあります。

人件費や設備費が固定費化していたのであれば、おそらくそれを吸収するだけの収益力はないはずです。
それと同時に、利益率が低いのですから、収益を上げるためには、どうしても過剰投資しがちになります。

そのため、必要運転資金が膨れ上がり、その資金を調達できなければ倒産ということにもなりかねません。

確かに、新たな大口契約が舞い込めば、それを契機にステップアップできるのではという気持ちになるかと思います。
しかし、落ち着いて考えてみて下さい。
その契約がいつまで続くのか、それに対する費用対効果は十分なのか、資金繰りは大丈夫か。

そうした総合的判断の上で結論を出すべきです。
こういう時こそ、感情で判断するのではなく、数字で判断しなくてはいけません。

一時の大口契約に振り回されるようでは、経営者としての資格はないと言えます。

● 「いくら儲けそこなったか」に着目する

一般に「コスト」というと、会社が事業活動を行う場合に、実際に消費した費用のことをいいます。
製造業であれば、製品を作る際にかかる材料費や人件費がこれに当たります。

しかし、実は、経営においては、これとはまったく反対の考え方によるコストの計算方法があります。
それは、事業活動のために消費された材料費や人件費を、別の用途に使っていたら得られたであろう収益をもとに考える手法です。
つまり、「いくら儲けたか」ではなく、「いくら儲けそこなったか」に着目する手法です。

この考え方を「チャンスロス(機会損失)」といいます。

チャンスロスは、客観的な評価が難しいため、経理上は一切処理されませんので、会社の決算書に反映されることはありません。
しかし、経営上の数値について敏感になるためには、必ず身に付けておかなくてはならない考え方です。
そして、ビジネスの現場で直面するさまざまな意思決定を行うためには、避けて通れない考え方でもあります。

ここで、いくつかの問題を出しますので、それを解くことにより、「チャンスロス」の理解を深めて頂きたいと思います。

経営における採算性は、必ずしも一面的な計算結果からだけでは、最終的な判断を下すことはできません。
いくつかの条件の中で、最適な意思決定を行うためには、チャンスロスの考え方をマスターする必要があります。
ぜひ何度も読み返し、確実に身に付けてもらえたらと思います。

落としたケーキは販売できません。
つまり、売上収入は0円です。
ケーキ1個のコストは400円ですから、決算書には、「商品廃棄損」として400円を計上することになります。

しかし、経営者であるあなたが、この程度のコスト意識ではダメです。
厳しい競争の中で勝ち残るためには、売上や利益について、もっと敏感な感覚を持つ必要があります。

こうしたケースでは、計算感覚にすぐれた経営者は、チャンスロスの考え方を採ります。
この店は、常に品不足になっているわけですから、ケーキを落とさなければ500円の収入があったはずです。
この500円の収入額が、落としたことにより0円になりました。
つまり、犠牲にされたと考え、500円のチャンスロスが発生したと判断するのです。

普通に考えると、1個500円のケーキを10個落としてしまったのですから、5,000円の損のように思えます。

しかし、答えはNOです。
この場合のチャンスロスは0円です。

なぜなら、トレーを落とそうが落とすまいが、売れ残りが1個になるか11個になるかだけの違いで、結局のところ売上の増加には結びつかないからです。
つまり、トレーを落としたため犠牲になった収入額は、5,000円ではなく0円と考えなくてはならないのです。

では、落としたケーキ10個の損失は、何に起因するのでしょうか?

この損失は、売れ残りが生じるだけの数量を作ってしまったあなたの判断ミスにあります。
落としたケーキ10個と売れ残ったケーキ1個の合計11個分の損失原因は、あなたの製造数量の見込み違いにあるのです。

このチャンスロスの考え方は、経営者の計数感覚の違いに影響してきます。
ケーキ1個を落とした場合でも、経営者のコスト意識の違いで、3通りの捉え方ができます。

①コスト意識がなければ…単に売上が立たなかっただけ
②支出コストを考えると…原価である400円の損
③チャンスロスで考えると…500円の損

決算書には記載されませんが、経営数値の考え方として、経営者であれば柔軟な判断を行う必要があるのです。

では、少し趣向を変えた問題を出してみます。

ここで、先ほどのケーキ屋さんのケースと同じと考え、700円の損だと答えたあなたは、まだまだ計数感覚が身に付いていません。

答えは、変動費分の200円です。

「ケーキもラーメンも同じじゃないか。何が違うんだ。」と不思議に思われるかもしれませんが、この二つには大きく違うところがあります。
経営形態に敏感な人であれば気づいたと思いますが、ケーキ屋さんは、毎日売れる数量を予測して一定の数量を製造する「見込み生産」方式を採っています。
これに対し、ラーメン屋さんでは、注文をもらってからラーメンを作る「受注生産」方式を採っています。

この違いにより、両者の損益構造は大きく違うのです。

例題のケースでは、本来ならば必要なかった材料費等の変動費分だけが、調理し直すことにより余分にかかり、その分を損したと考えるのです。

なお、固定費については、作っても作らなくても一定の費用が発生します。
ラーメン一杯当たりの利益を把握するために、便宜上按分しただけであり、作るつどの費用として発生するものだと考える性質のものではありません。
このあたりの説明が理解できない方は、「数字を使って未来を予測するマーケティング」のカテゴリーをご再読下さい。

もちろん、この答えは、700円ではありません。
あなたがもしそう考えたのであれば、受注方式の損益構造がまだ理解できていないことになります。

答えは500円です。

確かに、お店を明けていたなら700円の売上を獲得できましたが、その売上を獲得するためには、200円の変動費が必要になります。
そこで、700円から、この変動費200円を引いた残り500円を儲けそこなったと考えるのが妥当です。

このように、ビジネスにおける損得勘定を行う場合には、合理的な判断基準を持つ必要があります。
同じ会社の中で、その判断基準が一定でなければ、正しい統一見解を持つ意思決定ができず、経営管理に支障をきたしてしまいます。

どのような考え方に基づき経営数値を判断するかは、それぞれの経営者の考え方の違いによるものです。
必ずしもこれが正解というものはありませんが、社内においては統一的な判断基準を持つことが大切な要素となります。

では、最後に、ちょっと変わった応用編を用意してみます。

ケーキ10個を譲ることで、犠牲になった収入額は5,000円です。
ケーキすべてを売り切るという前提に立てば、このイチゴを自分で食べてしまえば5,000円のチャンスロスになります。

しかし、このイチゴをケーキの材料として利用したなら話は違います。
7,000円のイチゴと5,000円のケーキを交換したのですから、差し引き2,000円の得と考えることができそうです。

確かに実際のコストから判断すると、その考え方も正しいように思えます。
しかし、チャンスロスの視点から考えると、1,000円の損だといえます。

あなたは、ケーキ10個と引き換えに、イチゴとメロンのどちらを選択しても良い状況にいました。
メロンもケーキの材料として使えます。
ということは、同じケーキ10個を犠牲にしてメロンを選べば、3,000円の収入額が得られたものを、イチゴを選んだために2,000円に減少しています。

つまり、3,000円の収入を得るチャンスがあったにもかかわらず、2,000円しか得られなかったのですから、結果として1,000円損したと判断するのです。

何度も言いますが、私がこのNPO法人であなたに伝えたいことは、単なる知識や情報ではありません。
会社経営において、その基本となるお金の流れや経営戦略などを、数字に置き換えて考える能力を身に付けるためのものです。

あなたは、プロの経営者として会社を大きく成長させようと考えているはずです。
そのために、忙しい時間を割いて、経営や戦略の本を読んで勉強していることと思います。
確かにそうした本は、あまり小難しい数字は出てこないでしょうから、一応終わりまで読み通せることと思います。

けれど、あなたは、本を読み終わった後、こうしたことを感じるのではないでしょうか。

「成功するための戦略事例は分かったが、それが会社の利益にどう結びついているのか?」
「事業改革を実施することにより、利益構造がどのように変化したのか?」

これが理解できない限り、いくら本を読んだとしても、「あぁいい話だったなぁ。元気が出たような気がする」という一時的な感動でしかありません。
本当に大切なことは、数々の成功例・失敗例が、会社の数字にどのような影響を与えたのかを知ることです。

精神的・道徳的な部分を除いて、すべての形態のビジネスは、究極的には数字に落とし込むことができます。

ここであなたに知っておいてもらいたいのは、ケーキ屋だとかラーメン屋だとかの個別の事例ではありません。
その根底に流れる基本的な考え方です。

私の用意した数々のコンテンツは、すべてこの点がマスターできるように設計してあります。
そして、あらゆる業種で応用できるものを厳選したつもりです。

一度や二度読んだくらいでは身に付かないかもしれませんが、何度も読み返し、あなたの経営人生が長くなればなるほど、その重要性がお分かり頂けるものと自負しております。

決して分かった気になることなく、毎日でも読み返してもらえたらと思います。
必ず、あなた独自のすばらしいアイデアが閃くことになると確信します。

● 完売しても大赤字になることがある!?

経営判断においてチャンスロスの概念を軽視したため、企業収益に多大な影響を与えた事例を紹介します。

1997年、消費税が5%にアップしたため、あらゆる業界で消費の落ち込みが発生しました。
翌年、その落ち込みをカバーすべく、イトーヨーカ堂は「消費税分5%還元セール」を行いました。
流通各社もこれに追従し、いたるところで「5%還元セール」が開催されました。
この催しは、消費者の多大な支持を受け、大半の店舗で完売続出となりましたが、儲けたのはイトーヨーカ堂とイオンだけで、それ以外の流通企業は大きな損害を被る結果となりました。

同じ還元セールを行ったにもかかわらず、なぜこのような結果になってしまったのでしょうか?

その理由は、イトーヨーカ堂とイオンだけが、チャンスロスを回避する方策を講じていたからです。

還元セールは、特定の商品だけでなく、すべての商品を対象として行われました。
通常のセールでは、特定の商品だけを値引きして客を呼び、それ以外の商品も買ってもらうことで利益を確保します。
値引きが利益に与える影響については他のカテゴリーで解説しましたが、その影響は多大なものがあります。
値引きする以上は、販売数量が大幅に増大しない限りは、利益を確保することはできないのです。

ところがこのときは、すべての商品が一律5%引きになりました。
これにより何が起きたかというと、人気の高い生鮮食品などにお客が殺到し、売り切れ商品が続出したのです。

もともと小売業は、仕入原価といった変動費がコストの大部分を占めるため、利幅は少ししかありません。
売ろうにも商品がなくなってしまえば、売上は上がらず、商品の値引き分をカバーすることはできません。
セールを行ったことが裏目に出て、大きな赤字を計上する結果となってしまったのです。

一方、イトーヨーカ堂は違いました。
人気商品にお客が殺到することを見越し、事前に問屋や物流会社に話をつけ、十分供給できるだけの体制を作った上で、セールに踏み切ったのです。
つまり、チャンスロスの発生を予測し、そのための方策を講じていたということです。

このように、チャンスロスは企業の収益に多大な影響を与えます。
そしてそれは、今回の事例のように適正在庫についてだけではなく、すべての意思決定において考慮することが大切なのです。

ここで、設備投資を行う場合のチャンスロスの考え方について例題を出してみます。
少し難しいかもしれませんが、基本的な考え方を知ってもらうためのものですので、その点に着目してチャレンジしてみて下さい。

チャンスロスの基本的な考え方は、どちらかを選べば、もう一方を選んだ場合に得られたであろう利益を損失したという考え方です。

それに基づき、両者の利益を計算してみます。
償却年数は6年ですから

    機械A…(105万円×6年)-600万円=30万円

    機械B…(93万円×6年)-540万円=28万円

これで、投資額に対しチャンスロスが少ないのは、Aの機械だということが分かりました。
では、Aの機械を購入すれば良いのでしょうか?

実は、もう一つの選択肢があるのです。

それは、「何もしない」という選択肢です。

機械に投資しなければ600万円のキャッシュが会社に残ります。
もしこのお金を定期預金に預けたらどうなるでしょうか?
外貨預金ですと8%くらいの利回りのものもありますが、為替リスクを伴います。
普通に銀行に預けたとした場合でも、最低1%の金利はつきます。
元金600万円、年利1%なら6年間で36万円の利益です。
つまり、機械に投資するよりも、預金にしたほうが高利回りで運用できるということです。

何かに投資するということは、キャッシュで持っていた場合の運用益を失っているということです。
つまり、それがチャンスロスになります。
どの設備に投資すべきかという判断の前に、何もしない場合の運用益を上回るリターンが得られる投資であるかどうかを検討する必要があるのです。

冒頭の事例でいうと、「還元セールをやるべきかどうか」という判断をする場合、「やらなかったときに得られるであろうリターン」を考慮すべきだということです。
その上で、セールでの売上が何%伸びれば、そのリターン以上の収益になるかを計算する。
その目標を達成するためには、どんな準備が必要なのかを考え、万全を期して行動に移すことが大切なのです。

このように、すべての戦略は数字に落とし込むことによって初めて具現化します。
それと同時に、リスクを回避することもできます。

意思決定に際し、計数感覚のない経営者は、チャンスロスの可能性を考えるすべもなく、目先の数字にとらわれ、大きな損失を出してしまうことになるのです。

チャンスロスの概念は、何も経営判断に限ったことではありません。
あなたの人生においても応用できます。

「今、本当にそれをやるべきなのか?」
「それをやることにより、本来なら得べかりし利益を損失しているのではないか?」

日常生活を常にこのような視点から考えてみるべきです。
「時間」は、すべての人に平等に与えられた唯一のものです。
その「時間」をいかに有効に活用するかが、あなたの将来を決定づけます。
ですから、常に自分に問い続けることです。
「今のこの時間に、本当にこれをやるべきなのか」と。

● 抱き合わせ商法はなぜ儲かるのか?

私は深夜の通販番組が好きでよく見るのですが、必ずといって良いくらい耳にするキャッチコピーがあります。
「今回お買い上げのお客様には、この商品の使用に便利な○○をセットでおつけします!」
私などは、思わず、「セットはいらないから、その分だけ安くしろよ」と叫んでしまうのですが、実は、これにはちゃんとした企業側の理由があるのです。

消費者が欲しい商品は番組で宣伝しているモノなのに、なぜオマケのセットを購入させようとするのでしょうか?

実は、こうしたセット販売の裏には、あなたの想像もつかないような数字のマジックが潜んでいるのです。

例えば、婦人服ジャケット(通常販売価格3万円)と栄養クリーム・ハケ・ヌメ革といったお手入れセット(通常販売価格5,000円)をセットにして、2万4,000円で販売しているとします。
革ジャケットの仕入コストは2万1,000円(粗利益率30%)、お手入れセットの仕入コストは2,000円(粗利益率60%)です。

ということは、合計2万3,000円で仕入れた商品を2万4,000円で売っているわけですから、たったの1,000円しか儲けがありません。
これでは、いくら何でも無謀なセット価格のような気がします。

「そんなんじゃ売る意味が無いじゃないか!?」
もしあなたがそう考えたのであれば、まだまだ勉強不足です。
これから計数感覚をもっと磨く必要があります。

ここでのポイントは、お手入れセットの粗利益率です。
革ジャケットと比べて、粗利益率が30%も高いということに着目しなければなりません。

お手入れセットの中身は、どれも革ジャケットに比べて、通常販売では10分の1の数量しか売れません。
ところが、セット販売をすることによって、革ジャケットと同数の数量を売ることができます。
つまり、売れたお手入れセットのうち10分の9は、セット販売をしなければ売れなかったはずのものです。
したがって、その部分の粗利益は本来得られなかったものと考えることができます。

お手入れセット1個の粗利益は3,000円(5,000円-2,000円)ですから、それが9個分で2万7,000円になります。
つまり、この2万7,000円は本来得られなかった利益ですから、この金額を値引きの源資に回すことができるのです。

単純に考えると1,000円の儲けしかないように思えるセット販売ですが、実は2万7,000円の儲けが発生しているのです。
正に、数字のマジックといえます。
ここでのポイントは、回転率の違う商品を組み合わせることにより、本来得られなった利益を確保するということです。

このように、複数の商品を束にして売ることを、「バンドルセール」といいます。

実は、バンドルセールには、もう一つのメリットがあります。

例えば、高級スーツとネクタイを2点セットでバンドルセールを行った場合と、それぞれ単品で通常販売した場合を比較してみます。

ブランド品のような高級スーツやネクタイを販売するには、時間をかけて対応しなければなりませんし、経験豊富な販売員も必要です。
お客さんとの会話の中から、色やデザインの好みや予算をいかにキャッチするかが重要になるからです。
一方、バンドルセールの場合は、複数の商品をセット販売するため、単品販売に比べると販売員の対応時間や負担が大幅に軽減されます。

つまり、スーツとネクタイをまとめて販売するのと、別々に販売するのとでは、手間も負担も大違いなのです。
これを商品1個当たりの人件費や事務経費で換算すると、販売数量の増加効果も加わり、大幅なコストダウンとなるのです。

普通の特価販売では、数量がさばけたとしても、1個ずつ必要経費がかかります。
作業量も増えます。
しかし、バンドルセールだと、粗利益を確保しながら、売値を下げることができます。
しかも、販売数量が増えれば仕入れ価格も下がりますから、一石二鳥で必要コストを下げることができます。
つまり、商品1個当たりの変動費も固定費も下げることができるということです。

このように、利益を上げるためには、何も特別なアイデアをひねり出す必要はまったくありません。
「売上」「コスト」「利益」の関係がしっかりと身に付いていれば、あとは自分で考え出すことが可能なのです。

ノウハウ本には、「売上はこうして上げろ」だとか「コスト削減の秘訣」といった題名が目に付きますが、本来、「売上」「コスト」「利益」は、別々の独立した要素ではないのです。
それを個別に学ぼうとするから、いつまでたっても本質が理解できないのです。

遠いように見えても、それぞれの要素を関連づけて学ぶことこそが、一番の近道なのです。

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